(写真=HPより)
(写真=HPより)

軍艦と美少女を組み合わせた「艦隊これくしょん(艦これ)」、お城と組み合わせた「城姫クエスト」など美少女キャラクターの育成ゲームが流行している。キャラの育成といっても「アイドルを育てる」のではなく、意外性のあるテーマを持たせるのがトレンドのようだ。

そうしたなかで“株価連動型の美少女ゲームアプリ” 『IRroid(アイアールロイド) 恋の有効フロンティア』が昨年末に登場して、ゲーム愛好者のみならず投資家からも注目を集めている(iOS版のみ。Android版は今春公開予定、アプリダウンロードは無料。アプリ内課金あり)。

企画・制作は日本経済新聞社グループのQUICK。なぜ日経グループに属する金融情報ベンダーが美少女アプリを作ったのだろうか。詳細を知るために同社を訪ねた。

制作したQUICKのチャンス部とは?

アプリを作ったのはQUICKの「チャンス部」。これは社内ベンチャーといえる部署の名称だ。実はチャンス部は、既に『IRroid』なるサービスを2014年8月に立ち上げている。『IRoid』はNTT、キリンHD、伊藤忠商事、三井不動産などの企業情報が“美少女キャラ”として擬人化されて登場するサイトで、株式投資には縁遠かった若者世代の支持を集めている。

美少女キャラは「企業の応援キャラクター」の役割を担っている。キャラのファンを増やすべく、チャンス部は2015年初頭からスマホ向けのゲームアプリ化に着手。そして同年12月、『IRroid 恋の有効フロンティア』という世界初、株価連動型の美少女恋愛ゲームという画期的なアプリが誕生した。

お気に入り美少女キャラの“ご機嫌”は株価の上下で変動

同アプリでは、最初に30以上の応援キャラクターの中から、お気に入りの5キャラを選ぶ。そして仮想通貨”クロワ“を配分して”カブ主“になる。チャンス部 吉田晃宗氏が「これは投資におけるポートフォリオの概念です。実際の株価と連動しながら、ゲーム内で仮想通貨が増えていきます」と解説する。

美少女キャラを通じて株価をチェック。さらにキャラクターと会話ができる。吉田氏は「応援企業の社会的な役割が分かるストーリーを作りました。美少女キャラとの会話を楽しめるシナリオを用意しています」とアプリの特徴を説明する。各キャラの個性を演出するストーリーの数々は、たっぷりと時間をかけて練り上げたものだそう。

会話を続けることで恋愛風に親密度が増して、美少女キャラに与えられた物語がユーザーに解放される。「長く付き合うほどリターンにつながります。長期投資の感覚をつかんで頂きたいのです」(同)。

美少女キャラの“ご機嫌”は、株価連動型の人工知能により、株価の上下で泣いたり笑ったりと変動する。ユーザーはお気に入りのキャラと親密な関係を築くために“クロワ”の配分を工夫する。利益が出ればプレゼントを贈ることもできる。本格的な美少女ゲームの様相を呈している、と愛好者からの評価も高い。

(左から)飯村、高橋、吉田、播磨純江の4氏(写真=筆者)
(左から)飯村、高橋、吉田、播磨純江の4氏(写真=筆者)

美少女キャラが証券市場のリ・ブランディングに寄与?

チャンス部の大河内善宏部長に『IRroid』の開発背景と現状について尋ねたところ、「投資に興味を持つ方が(リーマンショック以前ほど)多くはないという傾向があります。ネット上には膨大なIR情報がありますが、投資に興味がない方はアクセスをしません。そのため、QUICKが中立的な立場で企業を応援する美少女キャラクターを立ち上げています。それが話題になればキャラクターを使いたい、という企業が増えています」との回答だった。証券市場のブランディングを見据えているという。

『IRroid』が証券市場の活性化につながるかどうかは「実験でしかない」(大河内氏)と前置きをしながらも、IR関連のイベントで「孫に投資を始めさせたいのに、興味を持ってもらえませんでした。でもある日、口座開設の申込書が欲しいと言ってきました。きっかけは『IRroid』でした」と話す投資家に出会う例もあり、チャンス部のメンバーは静かな手応えを感じている。

参加企業としては、知名度に関係なく、美少女キャラの人気が高まることで自社のIR情報が広まりやすくなるという利点がある。例えば人気ランキング1位はNTTの応援キャラ「日ノ本信乃」であるが、続く上位に、旧財閥系企業を抑えて新興ベンチャー企業の応援キャラクターがランクインするなど、ユーザー目線での独自の傾向が現れ始めているという。

これらの美少女キャラクターの権利はQUICKが管理している。大河内氏は「今後は証券会社や参加企業、テレビ局へのライセンス提供も視野に入れています」と展望を語る。

たった1人の社員が企画書を作り立ち上げた「チャンス部」

証券市場の活性化に向けて、20代から30代の男性が投資に触れる機会を増やすため、チャンス部は『IRroid』のユーザーを拡大する。その施策の一つとして、アプリの『IRroid 恋の有効フロンティア』を開発して提供を始めたというわけだ。リリース後の評価は上々だそう。

チャンス部のなかでも、ネットゲームに造詣が深いのが飯村智也氏だ。飯村氏は「応援キャラとしては感情移入ができるように、女の子が可愛くなるように作りました。物語がないと、キャラクターが息づく感じが届きません。シナリオライターと綿密な打ち合わせを続けました」と開発の過程を明かす。

さらに「配信されても、『こうしたら面白い』というアイデアが出てきます。パッケージを提供して終わりというゲームではありませんので、面白さを高める施策を続けたい。私はユーザーの気持ちも失っていません。アプリで遊んで頂いている方々と、これからも一緒にやっていけるかなと思っています」と熱意を語る。

実はQUICKチャンス部は、プロデューサーを務める高橋北斗氏が2014年1月に1人で立ち上げた社内プロジェクトだ。「投資に興味を持つ若い方が少なくなっているなかで、今だからできる企画を考えてみよう、と。そこから『IRroid』の話が進んでいきました」(高橋氏)。当初、社内では賛成派と反対派が半々だったという。

高橋氏は「スタート時、社内では奇異な目で見られていました。通常の株価の扱い方とは異なるアプローチで、美少女キャラばかりを見ている部署ですから」と振り返る。「実際にサイトが立ち上がり、アプリ開発の実績を示すことで、評価を頂けているのかなと思います」。証券市場の活性化に向けて、1人で作った企画書が大きな広がりを見せつつある。

6月には日経グループの日経BP社から関連ムックの発売が決まっている。アプリはiOS 版に続きAndroid版 もリリースされる。世界でも類を見ない、IR情報の擬人化。さらに日本発のサブカルチャーとして認知されている“美少女キャラ”という意外性のある表現。株式投資をはじめとした、経済活動への関心を高めるかもしれない『IRroid 恋の有効フロンティア』で遊んでみてはいかがだろうか。

橋口義彦
Harry Hood Inc. 有限会社ハリーフッド