(写真=PIXTA)
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研究員の眼

年初に厚生労働省より公表された「平成27年(2015)人口動態統計の年間推計」によれば、昨年1年間の出生数は100万8,000人、2014年(100万3,539人)からは約5千人の増加と、5年ぶりに上向く結果となった。しかし、出生数としては2013年以前の水準を回復するほどではなく、少子化に歯止めがかかるか否かについては、引き続き動向を注視していく必要があるといえるだろう。

ところで、妊娠・出産については近年、妊娠が判った後の結婚、いわゆる「できちゃった婚(デキ婚)」を「授かり婚」や「おめでた婚」と称する動きがみられている。

このような呼称の変更は一般に、対象となる物ごとが普及・拡大するなかで提起され定着していくことが多く、同省の「人口動態統計」においても2006年以降、結婚期間1年未満について経過月数毎の嫡出出生数を公表するようになっている。

では実際に「授かり婚」は増えているのだろうか。本稿では、同統計を用いて「授かり婚」の動向について確認してみたい。

結婚から出産までの期間は

「人口動態統計」より、結婚生活に入ってから第一子出生までの期間別の比率の推移をみると、「1年未満」の割合は1985年の41.5%から2014年には30.3%と減少傾向にある一方で、「3年以上」の割合が11.5%から26.7%へと増加していることがわかる〔図表1左〕。

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結婚後の経過月数毎のデータが公表されている2006年以降について、第一子出生までの期間が「10か月未満」の割合をみても、2006年の30.8%から2014年には24.7%と6ポイント減少していることから、第一子の出生全体としては「授かり婚」の割合は減少しており、むしろ結婚から妊娠・出産までの期間は長期化(*1)しているさまがみてとれる〔図表1右〕。

「授かり婚」の中心世代で目立つ長期化傾向

前述の「10か月未満」の割合について母の年齢別にみると、2014年では20歳未満で85.8%、20代前半で64.8%と突出して多く、20代後半(25.1%)でも概ね4人に1人が「授かり婚」となっているように見受けられる〔図表2〕。

2006年との対比では、20代未満および30代以上ではほとんど変化がみられない中、20代ではいずれも約4ポイント減少していることから、結婚から出産までの期間の長期化は、「授かり婚」の中心的な世代である20代において婚前の妊娠を避けるようになってきていることも一因となっているものと思われる。

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予期せぬ妊娠や結婚と妊娠の順番が逆になることは、必ずしも歓迎すべきことではないとして、「できちゃった婚(デキ婚)」から「授かり婚」や「おめでた婚」といった呼称の変更を否定的に捉えるむきもあろう。

実際に25歳未満の層では依然として出生児の大半が「授かり婚」の状態にあることは、当事者の生活基盤の安定や、出生児の健全な発育といった点で、問題を孕んでいるケースが存在することも危惧される。

それでも、このような呼称の変更を通して、ともすればネガティブなイメージで捉えられがちな物ごとをポジティブに捉え直すことは、少子化に歯止めがかからない中、現況を打開する働きも期待されよう。こうした動きが少子化に歯止めをかける一助となるとすれば、寛容に受け容れてみるのも一案ではないだろうか。

(*1)図表1左中に示した「3年以上」の割合の増加傾向について年齢別にみると40代以上で最も増加幅が大きいことから、結婚後出産までの期間の長期化は不妊治療を受ける夫婦の増加などが主因である可能性が考えられる。

井上 智紀
ニッセイ基礎研究所 生活研究部

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