仕事の采配では「仕事の任せ方」も重要
部下への仕事の采配で気をつけたいのは、部下の能力や得意不得意を理解しておくことに加え、「仕事の任され方の好み」を把握しておくことです。
仕事の任せ方には、3段階あります。
仕事の内容ややり方をすべて指示する「ティーチング」、内容ややり方を一緒に考え、サポートしながら進める「コーチング」、すべてを任せる「委任」。
部下育成の観点からは、ティーチングからコーチング、委任へと引き上げていくことが前提ですが、部下の好みも考慮しながら仕事を任せるとよりスムーズです。たとえば、「すべて自分に任せてほしい。責任を持ってやる代わりに、つべこべ言われたくない」という部下に対して、細かく指示を出すのは部下のやる気を削ぐことにもなります。
ただ、「この人にはまだ任せられないな」と思っていても、「任せてほしい」と要求する部下もいるでしょう。そのような場合は、現段階では任せられない理由と、どうなれば任せられるのかというビジョンと目標設定を伝えることが必要です。
モチベーションを上げるには環境を変えること
部下のモチベーションをどうやって上げるのか。これもマネージャーにとっては悩ましい問題です。
そもそも、モチベーションは努力して上げられるものではないと私は思っています。取り組むうちに楽しくなったり、好きになったりして、モチベーションは自然に生まれていくのではないでしょうか。
では、どうすればいいのでしょうか。「自分は変えられるけれど、他人は変えられない」とよく言われるように、相手を動かしたいのであれば、相手が動きやすい環境を作ってあげることが大切です。そのために自分はマネージャーとして何ができるかを考えるとよいでしょう。
たとえば、スーパーで、お客さんに買い物カートを元の位置に戻してほしいと考えたとします。「使ったカートは元の位置に戻してください」と貼り紙をしても、効果は薄いでしょう。
それよりも、「カートを戻す」という行動をお客さんから引き出すにはどうするかを考えます。
欧米では、1ドルコインでカートを使えるようにして、カートを戻せばコインも戻ってくるという仕組みがありますが、これも一案ですね。
どのような環境ならやる気が湧くのか、部下と直接話し合ってみるとよいでしょう。上司の思い込みや自己満足で物事を進めないためにも、部下に直接聞くのが一番です。
これはモチベーションの問題に限らず、部下が好む仕事の任され方を知る場合にも同様です。
繰り返しになりますが、チームマネジメントでは、部下と価値観を共有することが非常に大切です。ところが、上司は自分の考えや思いを伝える努力はしますが、部下の考えや思いを理解しようとする努力は足りないように思います。
部下のことを理解するには、部下に直接聞くのはもちろん、コミュニケーションの方向を逆にするだけで効果があります。自分の考えや思いを先に伝えようとすると、思わぬ反発や応酬に遭ったりして、感情がもつれることがあります。
自分の考えをまず伝えるのではなく、自分の考えていることに対して部下がどう感じているかをまず聞く。そのうえで、部下の思いを入れ込んで自分の考えを話せば、説明しやすいし、部下の理解や納得も得られるはずです。
嶋津良智(しまづ・よしのり)日本リーダーズ学会代表理事/リーダーズアカデミー学長
1965年、東京都生まれ。大学卒業後、IT系ベンチャー企業に入社。28歳で独立・起業。2005年、次世代リーダーを育成することを目的とした教育機関、㈱リーダーズアカデミーを設立。07年シンガポールへ拠点を移し、講演・企業研修・コンサルティングを行なうかたわら、顧問・社外役員として経営に参画。13年、日本へ拠点を戻し、一般社団法人日本リーダーズ学会を設立。著書に、『プレイングマネジャー入門』(フォレスト出版)など多数。
(取材・構成:前田はるみ)(『 The 21 online 』2016年3月号より)
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