ツールが導入されるほど、仕事が滞るというジレンマ

神田昌典

神田 しかも、仕事をこなすテクニックやITが発達することで、日常業務レベルではどんどん忙しくなっています。すると部下はこれを「上司のせいだ」と、上司もまた「部下のせいだ」と考え、チームの亀裂がさらに広がる。ある意味、ツールが導入されればされるほど、渋滞が起こるということでしょう。

シーリィ 組織イノベーションを研究する中で、わかってきた事実があります。それは、最も成功しているマネージャーは、自分の組織のあらゆる部門に、いつでもアクセスできるというコミュニケーション力を持っている、ということです。何か問題が起こったら、デスクで「どうしよう」と悩むのではなく、すぐに外に出ていろいろな人とコミュニケーションを取り、すばやく答えにたどり着くのです。

神田 よくある誤解は、グループウェアを導入すれば交流が活性化されるということ。ただ、その根本となるコミュニケーションのルールを誰かが決めなければ、ツールはなんの役にも立ちませんよね。ただ、それを中間管理職の人が会社に提言しても、なかなか受け入れられないかもしれません。

シーリィ 新しいアイデアを導入する人は、やはり最初は一匹狼、異端者の扱いを受ける覚悟が必要でしょう。ただ、ここでも先ほどの「ソリューションフォーカス」が重要。現状を把握し、ほんの小さなステップを踏み出すことで、必ず何かが変わります。それは上司への一本の電話かもしれないし、会議の開催要請かもしれないし、同僚へのフィードバックかもしれない。しかしその小さな何かによって、物事が開けてくるのです。

「中間管理職」こそがカギを握る!

神田 さらに言えば、コミュニケーションを社内に限定する必要もない。社内でいかにスムーズに仕事が進んだとしても、社外との間に渋滞が起きてしまえば同じことです。

MITメディアラボのイダルゴ教授が、『Why information grows』という本の中で、「パーソンバイト」という概念を提唱しています。これは一人の人間の情報容量のことで、世の中の情報が増え続けるのに対し、パーソンバイトには限りがある。それを最大化するためには、個人同士をつなぎ合わせるしかない、という考えです。

時間管理についても同じだと思います。たった一人で時間管理をしようとするのは、道の真ん中に車を止めて、かえって渋滞を引き起こしているようなもの。一緒に問題解決できる人を社内外に見つけることが先決です。

シーリィ 組織内部と個人内部、同時に解決を図らなければならないでしょうね。そしてその際、大きな役割を担うのが、いわゆるミドルマネージャーだと思います。

私が実際に体験した、米ハネウェル社のあるマネージャーの事例があります。この会社では、経営陣が部下にデータ作成を頻繁に命じていました。それに対してあるマネージャーが、「この業務は我々の職務内容に入っていない。今後は外部に発注するか、我々の給料を増やしてほしい」と宣言したのです。彼は、上層部からの予定外の要求こそが、業務を滞らせている最大の原因だと気づいたのです。

神田 まさに物事を俯瞰的に見ることができたからこそ、こういう行動が取れたのでしょう。ただ、一般的には中間管理職は、苦労の多い立場だと言われていますね。

シーリィ 確かに中間管理職は上下から挟まれる立場で、ストレスも多いでしょう。でも、これはサッカーで言えば、ミッドフィルダーのポジション。試合の状況を最も的確に把握でき、ゲームを動かせるのも彼ら。つまり、中間管理職こそが「仕事の渋滞」を解消する力を持っているのです。

神田 私は、忙しさにも二つあると思うのです。やりたいことが多すぎて時間が足りないという忙しさと、目先のことに追われてやりたいことができない忙しさ。問題なのはもちろん、後者です。

そういう人はまず、これは一人では解決できない問題だと認識すべきだと思います。能力の問題ではなく、時代的にどうにもならないと割り切って、周りの人と一緒に問題解決を図っていってほしいですね。

神田昌典(かんだ・まさのり)経営コンサルタント・作家
上智大学外国語学部卒。ニューヨーク大学経済学修士、ペンシルバニア大学ウォートンスクール経営学修士。大学3年次に外交官試験合格、4年次より外務省経済部に勤務。戦略コンサルティング会社、米国家電メーカーの日本代表として活躍後、1998年、経営コンサルタントとして独立。コンサルティング業界を革新した顧客獲得実践会を創設(現在は「次世代ビジネス実践会」へと発展)。日本最大級の読書会『リード・フォー・アクション』主宰。主な著書に『2022―これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)など。

ポール・R・シーリィ(Paul R . Scheele)フォトリーディング開発者
米国ラーニング・ストラテジーズ社の共同設立者。フォトリーディング・ホール・マインド・システムの開発者。1975年より人材開発の研究を始める。ミネソタ大学理工学部にて生物学の学士号を取得。セント・トーマス大学院人文学部で学習と人間開発に関する修士号取得。アンティオキア大学の博士課程で、リーダーシップと変革について学ぶ。神経言語プログラミング(NLP)、加速学習における世界的権威。脳科学に関する深い造詣と、科学的根拠に基づいた彼の教育法は、人間の高い可能性を秘めた潜在能力を引き出すことで有名。著書に『The Photoreading Whole Mind System』(邦訳・『あなたもいままでの10倍速く本が読める』)など。(取材・構成:THE21編集部 写真撮影:永井浩)(『 The 21 online 』2016年3月号より)

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