2016年はVR(バーチャルリアリティ・仮想現実)元年とも言われており、複数のメーカーからゴーグル型のVR機器(HMD・ヘッドマウントディスプレイ)が発売されています。PC向けやスマートフォンを装着するタイプが発売されている他、秋には家庭用ゲーム機向けの商品も発売予定となっており、いよいよ一般家庭にもVRが普及する段階を迎えつつあります。
消費者の関心も高く、最近各地でVR体験イベントが実施されていますが、実際にいくつかのイベントを訪ねてみたところ、どこも早い時間から予約整理券の配布が終了する盛況ぶりでした。
VRの利用用途は、やはり没入感を楽しむものとしてエンターテイメントの分野を中心に、家庭用ゲーム機やスマートフォンでの個人利用、加えて、体験型ゲーム施設などへの導入が進むと見込まれています。その他、トレーニングジムなどのスポーツ関連施設や、さらに応用して、サバイバルゲームやボルダリング、シミュレーションゴルフなどでも利用できれば大変面白いのではないでしょうか。
また、エンターテイメント以外でも、VRを有効活用できる分野は多方面に及ぶと考えられます。筆者が調査対象としている不動産も空間そのものが商品といえるもので、VRの活用機会が多い分野のひとつといえるでしょう。
現在、賃貸マンションの入居者募集にはインターネットの活用が不可欠で、物件情報をウェブサイト上に掲載することが通例となっています。各物件の紹介ページには物件の図面や室内の写真が掲載されていますが、最近では、360度のパノラマ画像が掲載されるケースも増えています。
VRではないものの、部屋全体を見渡せる360度画像は、入居者にとって物件の絞込みに有用で、新築マンションの販売用ウェブサイトでも、モデルルームを撮影した360度画像の掲載が増えてきています。
さらに、一部の業者が、簡易的なVRキット(ゴーグル)を顧客に提供し、360度画像で没入感を体験して貰うVRキャンペーンを実施しており、かなりの人気を集めています。今後、高性能のVR機器が各家庭に普及してくれば、VRコンテンツの水準も向上し、住宅マーケティングにおいてVRの重要性が高まっていくことでしょう。
新築マンションの販売では、具体的な購入予定がない顧客でも、モデルルームに足を運んで新しいマンションの魅力を実感し、購入に至るケースが少なくありません。効果的なVRコンテンツをウェブサイトに掲載すれば、モデルルームに来場できない顧客に対しても、モデルルームと同様の効果を部分的ながら期待できるでしょう。
VRの活用はモデルルームの現場でも有効で、展示された部屋と別仕様の内装の擬似体験などに利用されています。もちろん、VRを用いれば、疑似体験の範囲は部屋内に止まらず、モデルルームで再現できないバルコニーからの眺望、ロビーや庭などの共用部分、さらには、周辺エリアの生活環境や最寄り駅へのルートにまで広げることができます。
契約に際して事前に周辺エリアまで確認する時間がない場合も多く、こうしたVRによる疑似体験は、入居者や購入者にとって決断時の不安解消に大いに役立つものと考えられます。
また、近年、国境を跨いだ不動産購入が増加しており、海外の富裕層による日本での住宅購入、特に、中華系富裕層による都心の高級マンションの購入が話題になっています。彼らが投資用として購入する際、来日して現地を確認しないケースも多く、VRはそのような投資家に対して有力なアピール材料になるとみられます。これは逆のケースにもあてはまり、VRは海外不動産を購入する日本の投資家のサポートにも効果的です。
マイナス金利政策のもと、日本の投資家の海外不動産への関心が高まっていますが、国内不動産に比べて品質面や管理面の不安が大きいことは否めません。手の届かない海外不動産をVRによって少しでも身近に感じることができれば、積極的に検討できるのではないでしょうか。
このように、VRの不動産分野での活用については、まず、マンションの入居者募集や販売といったマーケティング面での利用が想定されます。
加えて、設計や研究段階での利用も有効で、たとえば、オフィスビルの開発では、VRを用いて想定空間を歩いてみることで、設計図や平面の画像上では気にならなかった違和感に気付いたり、クリエイティブスペースの活用アイディアを思いついたりすることも考えられます。このように、VRの不動産分野での活用機会は、他にも様々に考えることができるでしょう。
改めて振り返ると、インターネットやスマートフォンに代表される様々な機器の進歩によって、我々の生活は飛躍的に便利になってきました。VRを含む映像機器の分野をみても、格段に大画面、高画質になったテレビが、自動録画やオンデマンドなどのソフト面の充実により、我々のライフスタイルに変化を与えています。
VRはさらに革新的な映像機器として擬似空間を創造することで、我々のライフスタイルに劇的な変化をもたらす可能性があるでしょう。将来的には、映像機器の範疇に止まらず、不動産のあり方も変えてしまうのかもしれません。
増宮守(ますみや まもる)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部
主任研究員
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