「ジブンガタリ」がチームの一体感を生む

あまり面識のない人同士だと、最初から本音は話しにくいかもしれません。コツは、「ジブンガタリ(自分語り)」から入ることです。最初に集まった際、メンバー1人ひとりが、幼少期や学生時代の思い出や、家族や趣味のことなど、個人的な話を順番にしていくのです。すると「○○さんは怖い人だと思っていたが、奥さんには頭が上がらないんだな」といった、普段とは別の顔が見えてきます。それだけで一気に親しみがわき、胸襟を開いて議論しやすくなるのです。

最初は半信半疑かもしれませんが、やってみるとこれが驚くほど盛り上がります。「ジブンガタリ」のポイントは、「自慢話は控えめに、失敗談は積極的に」。「あの人にも自分と同じような弱みがあるんだな」と思えば、共感も生まれやすくなるからです。

ある重工業メーカーの事業所は、この「ジブンガタリ」の手法を取り入れました。業務終了後に懇親会を開き、そこで管理職が公私にわたる悩みや本音を率直に話すようにしたのです。

上司としてではなく、1人の人間として語る姿を見て、部下たちは、「会社が変わらないのは上が悪いと思っていたけれど、この人たちもつらいんだな」と共感して、「私たちも協力しよう!」という気持ちになったといいます。こうして会社の問題を他人事ではなく、当事者として捉える社員が増えた結果、事業所の生産効率は大幅に上昇しました。

会社は「民主主義国家」。諦めずに声を上げよう

私たち日本人は「民主主義国家」に生きています。民主主義とはいわば、「諦めずにすむ仕組み」。つまり、何か問題があったら声を上げ、投票によって議員を選ぶことで、問題の解決を図る可能性を持っていることです。これが独裁国家だと、声を上げても弾圧され、諦めるか逃亡するしかありません。日本はそうではないはずなのに、「どうせ無駄だ」と諦めて、声を上げることもなく、投票にも行かない人は大勢います。

これは会社にも言えると、私は思います。もちろん、社員の言うことをまったく聞かない独裁的なオーナー経営者もいますが、多くの会社は民主主義です。なのに、最初から「どうせ言っても無駄」と諦めてはいないでしょうか。それは本当でしょうか。行動を起こすのが面倒なだけではないでしょうか。

みなさんにはぜひ、内心不満を持ちつつもひたすら目の前の仕事をこなす「優等生社員」から脱却し、コアネットワークを作り、少しでも具体的な行動に移してほしいのです。とくに課長クラスが連携すれば、無駄な会議や資料作りをやめるといった、実務レベルでの変革は比較的簡単に実現します。それはほんの少しの変化かもしれませんが、その小さな変化の積み重ねが、会社を変えていきます。

10年後、20年後に経営を担う中間管理職世代こそがカギを握っています。諦めこそが会社も、そしてあなたの人生をもつまらなくするのです。ぜひ諦めずに、組織を変えるための一歩を踏み出してほしいと願っています。

柴田昌治(しばた・まさはる)スコラ・コンサルト プロセスデザイナー代表
1979年、東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。
1986年に、日本企業の風土・体質改革を支援するためスコラ・コンサルトを設立。これまでに延べ800社以上を支援し、文化や風土といった人のありようの面から企業変革に取り組む「プロセスデザイン」という手法を結実させた。社員が主体的に人と協力し合っていきいきと働ける会社をめざし、社員を主役にする「スポンサーシップ経営」を提唱、支援している。2009年にはシンガポールに会社を設立。
著書に、『なぜ会社は変われないのか』『なぜ社員はやる気をなくしているのか』『考え抜く社員を増やせ!』『どうやって社員が会社を変えたのか(共著)』(以上、日本経済新聞出版社)、『成果を出す会社はどう考えどう動くのか』(日経BP社)などがある。(取材・構成:塚田有香 写真撮影:長谷川博一)(『 The 21 online 』2016年5月号より)

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