サーブ権交代のルールによる勝敗への影響

以上のように、球技の種類によって、サーブ権の有無が有利・不利いずれに働く場合もあるが、以下では、サーブ権がある方が、先手を取れるという意味において、一律に有利である場合を念頭において考える(そうでない場合には、逆に考えていただければよい)。

問題は、最初にサーブする選手の勝率が、サーブ権交代に関するルールによって、どのような影響を受けるのかという点にある。あるスポーツにおいて、試合に勝利するために、n個のポイントを獲得する必要があるとして、サーブ権交代のルールに関して、以下の3つのシンプルなケースを考える。

ケースI   直前のゲームの勝者(ポイント獲得者)がサーブ権を有する。
ケースII   直前のゲームの敗者がサーブ権を有する。
ケースIII  直前のゲームの勝敗に関わらず、常に交互にサーブ権を有する。

この場合に、最初にサーブする選手にとって、どれが最も有利なルールか、という問題を考えてみる。感覚的には、ケースⅠが最も有利なのではないかと思ってしまうかもしれない。

答えは、選手の実力が同じであり、各ゲームが互いに独立であるという前提の下では、

これらのいずれのルールを採用しても、最初にサーブする選手の勝率には影響しない。

ということが知られている(誤解しないでもらいたいのは、あくまでも最初にサーブする選手の勝率が変わらない、ということであり、(サーブ権が有利に働くという前提の下では)最初にサーブする選手の勝率が最初にレシーブを行う人の勝率よりも高いことは言うまでもない)。

これは、ある意味で、驚くべき事実であるように思われるかもしれないが、いずれにしても、「最初のサーバーが勝利するためには、(2n―1)回のラウンドで、サーブは高々n回、レシーブは高々(nー1)回までしか行わないことから、サーブとレシーブの順番は、勝率に影響しない。」ということになる(「確率パズルの迷宮」(岩沢宏和著))。

これについて、nが小さいときには、場合分けをして検証してみることもできるので、参考までに、一番シンプルなn=2の場合について、最後に計算例を示しておく。

過去において、サーブ権交代に関するいくつかの改正も行なわれてきているものの、ベースにこうした観点からの公平性の確保が担保されているということが重要だと理解できる。

各種の研究

今回は、あくまでもサーブ権交代のルールが勝率に与える影響について述べたが、そもそも、各種のスポーツのサーブ権交代のルール等に基づく勝率の状況については、各種の研究が行われており、大変興味深い。サーバーとしての勝率とレシーバーとしての勝率の関係によっても、勝率が影響を受けることになる。こうした内容を、数学的に定式化し、モデルを考えてみることも研究されている。

まとめ

以上、あくまでも、理論上の話を述べてきたが、実際には、2人の選手(あるいは2つのチーム)の実力等には差異があるし、心理的な面も影響することになる。

2人の選手の実力の差異といっても、各選手の特徴があり、サーブが得意な人もいれば、レシーブが得意な人もいる。さらには、バレーボールの場合には、チームのメンバーの誰がサーバーになるのかによっても状況が異なってくることにもなる。

心理的にも、相手にサーブ権をずっと与えて、大差を付けられたら、いくら後半が自分に有利になるとわかっていても、ゲームへの集中力をなくしてしまうかもしれない。逆に、追い上げ型の人間にとっては、後半に自分にサーブ権が与えられていて、有利な状況にあるということが強い心の支えになるかもしれない。

このように、スポーツは極めてメンタルな要素による影響も大きいことから、単純に数学的理論に基づく結果通りになるとは限らない、ことはいうまでもない。

だからこそ、実際の選手にとっては厳しいことなのだが、観客の立場からは、スポーツをみることの醍醐味があり、大変興味深く楽しめる要素なのだと思われる。

最後に、今一度、日本選手のみならず、全てのオリンピック参加選手が、心置きなく、全力を発揮して、好成績を収められることを祈念したい。

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中村亮一(なかむら りょういち)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 取締役

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