国内ホテル需要,宿泊者数減少
(写真=PIXTA)

好調が続いてきた国内ホテル需要に若干の変調が見られる。第一に、日本人延べ宿泊者数の大幅な減少(前年比)が、今年に入り2四半期続いたことである。

これにより、2016年4-6月には外国人を含めた総数も前年比で▲1.4%(同▲164万人)の減少となった。四半期別統計で延べ宿泊者総数が前年比減となったのは、最近では、東日本大震災直後(2011年4-6月の同▲9.4%減)と、消費税増税後(2014年7-6月の同▲0.2%減)以来の三度目である(図表1)。

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4-6月の宿泊者数の減少には、熊本地震による影響が大きかったが、熊本地震以前の2015年末頃から、日本人の宿泊需要は減少(前年比)を始めている。国内延べ宿泊者数の約85%を占める日本人客の減少は大きな問題だ。

株安などによる景況感の悪化傾向が続いている上に、生活が苦しいという世帯の増加(*1)、最近の宿泊料金の上昇や空室の少なさによる予約の困難、円高による海外旅行の増加なども影響していると思われる。

また、最近の国内ホテル需要の増加を下支えしてきた外国人の延べ宿泊者数も、熊本地震以前の2-3月頃から増加ペース(前年比)が低下している。これは、訪日外国人旅行者数の伸び率の縮小と、外国人一人当たりの宿泊日数の低下に現れている。

訪日外国人旅行者数の増加率の縮小には、円高の進行に加え、ビザ緩和や消費税免税措置、首都圏空港の発着枠の増加等の政策による押上げ効果の一巡や、中国による関税制度改革に伴う「爆買い」目的の訪日旅行需要の縮小なども影響があるかもしれない。

外国人一人当たりの宿泊日数(延べ宿泊者数/訪日外国人数)は、2015年6月には3.34日だったが、本年6月には3.05日まで低下している。これにより、外国人の延べ宿泊者数の増加率(4-6月は前年比△8.6%)は、訪日外国人旅行者数の増加率(同△19.0%)を大きく下回った(図表2)。

国内での宿泊施設不足や宿泊費の高騰による滞在日数減少の可能性とともに、国内宿泊を伴わないクルーズ船の増加や、統計では把握できない低価格の民泊への宿泊需要の流出もあったと思われる(*2)。

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とはいえ、熊本地震の影響からはすでに大幅な回復が始まっている。また、国土交通省は熊本地震後の九州の観光旅行需要喚起のため180.3億円の助成制度を創設した(*3)。この制度を利用し、旅行代金・宿泊料金を最大70%割引する「九州ふっこう割」は人気が高く、政府は150万人の旅行需要の喚起を目指している。

2020年の東京五輪開催に向けて、政府が2020年の訪日外国人旅行者数の目標を4千万人に設定したこともあり、現在、ホテル市場では多くの開発計画が進行している。

週刊ホテルレストランによると、ホテルの新・増設計画は2015年6月時点の3万1千室から、2016年6月には5万2千室まで増加している(完成時期未定含む)(*4)。こうした投資の動きは、最近の宿泊需要の増加とホテル収益の改善が今後も続くと考えてのことだ。

2016年に入り、日本人延べ宿泊者数の減少や外国人の増加率の減少など、熊本地震の影響だけではない変調の兆しが見られる。活発なホテル開発が続く中で、こうした変調が短期的な傾向で終わるのかなどを把握するために、日本人の宿泊動向はもちろん、外国人の訪日客数や宿泊動向に加え、今後のホテル市場の需給関係に影響を与える可能性がある民泊の法制化の動向にも注視が必要と思われる。

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(*1)厚生労働省「国民生活基礎調査」。生活が苦しいと回答した世帯比率は、1995年の42.0%から2015年は60.3%まで上昇している。
(*2)民泊サイトのAirbnbによると、2015年に国内で同社のサービスを使った訪日外国人旅行者数は138万人を超えたという。中国系を含めた他の民泊サイトを含め、民泊の法制化後はさらなる急拡大が見込まれる。
(*3)国土交通省「平成28年度 国土交通省関係 熊本地震復興等予備費使用の概要」2016.5
(*4)週刊ホテルレストラン2016年6月3日号より。なお、訪日外国人旅行者数が1千万人増加する場合、日本人需要が不変であれば新規に6万室程度の客室が必要になると思われる。もちろん宿泊施設の廃業があればさらに新規に客室が必要となる一方、現在未稼働の客室が利用される場合には必要な客室数は減少する。
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竹内一雅(たけうち かずまさ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 不動産市場調査室長

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