「なぜ」を繰り返し『キットカット』が大ヒット
目の前の課題に対して「なぜ」を繰り返すことで、ブレークスルーする。高岡氏のこうした思考力は、一体どのようにして育まれてきたのだろうか。
「30歳で部長職に就いて以来、私の仕事相手の多くはネスレのスイス本社にいる外国人でした。彼らからは、日本についてあらゆる質問を投げかけられます。たとえば、『なぜ、他の国々で成功した方法が日本で通用しないのか』など。何千、何万という質問に答えるうちに、常に『なぜ』を問い続けるクセが身についてきたのかもしれません」
有名な『キットカット』の受験生応援キャンペーンもまた、高岡氏の「なぜ」を問い続ける姿勢から生まれたという。
「『キットカット』は私が子供の頃からある、誰もが知っている商品。ただ、私がマーケティング本部長として異動してきたときには、利益率がわずか数%しかなかった。そこでまた『なぜ』を考えるわけです。すると、広告宣伝に無駄があるという考えに至りました。すでに名の知れたブランドにいくら広告宣伝をつぎ込んでも、売上げが伸びる時代ではなかったのです。
そこで代わりに、広告をやめてPRでニュースを作るという発想が生まれました。
当時(2000年頃)、九州では受験シーズンに『キットカット』がよく売れるという情報があったのですが、これは九州弁の『きっと勝っとぉ』が『きっと勝つよ』という意味だったことから、受験の縁起物として広まっていたことが理由でした。さらにそれが全国の受験生にも広まり始めたことを受け、『キットカット』というブランドで受験生を応援し、受験生が抱えるストレスを少しでも解決したいと考えたのです。
ただ、この語呂合わせはあくまでお客様が考え出したものなので、私たちがCMを使って『キットカットできっと勝つ』といった宣伝をすることは一切しませんでした。その代わりに最初に実施したのが、ホテルでのサンプリングキャンペーンです。地方の受験生が宿泊する都心部のホテルと交渉し、チェックアウト時のフロントで『キットカット』とともに『キット、サクラサクよ』というメッセージの入った桜満開の絵葉書を添えて、受験生にひと言『がんばって』と声をかけて渡してもらうキャンペーンを展開しました。プレッシャーを抱えていた受験生も、ホスピタリティを提供できたホテルの双方ともに喜んでくれたこのキャンペーンは大成功。多くの反響をいただき、ニュースとしても話題になりました。このとき、『キットカット』はチョコレートという物質的な価値を越えて、『不安』という顧客の心の問題を解決したのです」