柴田昌治,日本企業,グローバル化,さばく人
(写真=The 21 online)

「できる人」こそ会社を滅ぼす?

「誰よりも遅くまで働き、大量の仕事をこなしている」「目標数値に向けてがむしゃらに働いている」……そんな「できる人」こそが会社を滅ぼすと主張するのが、国内外の企業の実態を知り尽くす柴田昌治氏だ。

このような常識が広がったままだと、日本企業は国際的に大きく後れを取ってしまうし、現に、その兆候は表われつつあるという。その理由と処方箋を説いた著書『「できる人」が会社を滅ぼす』を発刊した柴田氏に、なぜ、「できる人」が会社を滅ぼすに至るのかについてうかがった。

できる人の多くは「さばく人」に過ぎない!?

・毎日遅くまで残業し、大量の仕事をこなしている
・上司が期待する通りの結果を導き出そうとする
・目の前の仕事で、人よりも高い実績を上げている

今の日本企業において、こうした「できる人」と評価されている社員の多くは、単に「仕事をさばくのがうまい人」に過ぎません。

「仕事をさばく」とは、どんな意味でしょうか。

上司や顧客から降ってくる大量の仕事に忙殺されるあまり、目の前の課題に対して、その課題がそもそも何のために、どういう意味を持つ課題なのかをさておいて、「どうやるか」「いかにやるか」だけを考えるようになってしまっている……これこそが「さばく」ということそのものです。

「『どうやるか』を考えて、何が悪いんだ?」

普通に考えれば多くの人は、そう思うはずです。確かにどうやるかを考えなければ仕事は前に進まないのです。

しかし、そこに大きな落とし穴があります。

「どうやるか」「いかにやるか」という手段を考えるだけでは、目先の結果を出すことのみに終始することになります。今月の目標を何とか達成したら、また次を追いかける。そのサイクルを自転車操業的にひたすら回していくだけで、そこから何らかの創造性や変革が生まれてくることは期待できないのです。

確かに追い風が吹く、という条件さえあれば短期的には業績を維持できると思います。しかし、そこに新しい価値を生み出したり、会社そのものの体質を強くしたりするような発展性は望めません。

もしイノベーションを起こすことを目指したり、より良い仕事をするための改革や改善を進めることを目指すなら、「そもそも、この仕事にはどんな意味や目的、価値があるのか?」という本質的な問いかけが必須です。そこを掘り下げるから、会社が抱える根本的な問題が見つかり、何をどう変えていくべきかがわかるのです。

にもかかわらず、「目の前の課題をどう処理するか」ということ以外、ほとんど考える余裕と姿勢をなくしてしまっている。これが「できる人」の素の姿です。

役員レベルでも、関心があるのは自部門のことだけ

こうした人は物事を、自分の関心が向いている部署単位で考えがちです。

目の前の仕事で結果を出すことを最優先に考えているので、どうしても関心の矛先は自分の部署やチームだけ、あるいは自分と上司との関係だけに限定されます。当然視野は狭くなるばかりで、重要な情報を幅広く拾うためのセンサーは働きません。

これは中間管理職だけでなく、トップマネジメントにも同じように見られる傾向です。

役員にもなれば、もっと大きな視野で物事を捉えているはずだと思うかもしれませんが、現実は必ずしもそうではなく、中間管理職の延長上で仕事をしている人が多いのが実態なのです。

もともと日本の会社は、目の前の課題に結果を残さないタイプの人は役員にはなりにくいという特性があるので、無理もないのかもしれません。しかし、こんな状態を続けていくなら、日本の会社はいずれ立ち行かなくなります。

世界中を相手に戦わなくてはいけないグローバル化の時代に、目の前のことしか考えられない役員の引っ張る会社が生き残れるはずがないからです。