ディズニー・ピクサー作品に勝てるか

高評価を得ている『君の名は。』だが、果たして、オスカーは獲れるのか。米コミックファンのサイト、『コミックブック』のミーガン・ピーターズ記者は、「そこのけピクサー、来年のオスカーは強敵がいるわよ」との書き出しで、『君の名は。』の受賞への期待を表した。

だが、現実は厳しくなりそうだ。米ニュースサイト『モーニングニュースUSA』のウィル・カブレラ記者は、「アカデミー賞最終候補の5作に入れるかさえ、定かでない。ましてや、受賞できるだけの内容があるか」と手厳しい。

カブレラ記者は、米アニメファンのサイト『アニメ・ニュース・ネットワーク』の参加者たちが、一様に「絶対に受賞できない」との悲観的な見方をしていることを伝えている。

『ズートピア(Zootopia)』や『ファインディング・ドリー(Finding Dory)』など、軒並み10億ドルを超えるお化け興収を叩き出した作品を誇る、米ウォルト・ディズニー・スタジオや、その傘下のピクサー・アニメーション・スタジオなどの作品が目白押しであり、『君の名は。』は太刀打ちできないとの声が、サイトにあふれているのだ。『君の名は。』は予選落ちし、代わりに日本を舞台にしたディズニーのストップモーション映画『公方と二本の紐(Kubo and the Two Strings)』が候補作に残るだろうとの予想がもっぱらだ。

確かに、過去10年のアカデミー賞長編アニメ映画部門の受賞作の75%はディズニー・ピクサー作品に独占されており、興収でも一桁少ない『君の名は。』の受賞は、難しいだろうというのだ。

さらに、アカデミー賞は白人男性の支配する内輪のクラブであり、スパイク・リー監督やエイヴァ・ドュバネイ監督など優秀な黒人監督や、演技派の黒人俳優・女優の素晴らしい作品が受賞を逃し続けている。そうしたなか、米国人でもない新海監督の作品が、アニメ部門とはいえ、受賞できるのかという疑問がわく。「オスカーは白すぎる」のであり、そこで勝つのは至難の業だ。

そうした意味で想起されるのが、『千と千尋の神隠し』により、2002年のアカデミー賞長編アニメ映画部門で見事に受賞した宮﨑監督の偉業だ。受賞の時点で、「ミヤザキ」は世界中で実績を作り、長年の功績が認められていた。白人でも米国人でもない新海監督が受賞するには、「ミヤザキ」並みの実績が必要となるのかもしれない。(在米ジャーナリスト 岩田太郎)