8月26日の公開以来、興収が180億円を超えるなど、日本で記録的な大ヒットとなった新海誠監督(43)のアニメーション映画『君の名は。』(英題:Your Name.)が、第89回アカデミー賞長編アニメ映画部門の審査対象作品となった。2017年1月24日に発表されるアカデミー賞のノミネート作5作のうちの1作となれるか、アニメ界のみならず、多くのファンが期待をもって見守っている。
オスカー候補としての資格を満たすために、『君の名は。』は12月2~8日までの1週間、ロサンゼルスのレムリー・ミュージック・ホールで限定公開される予定となっている。さらにその後、来年初めから全米各都市で拡大公開されていく。同作の北米配給を担当する企業、ファニメーションの最高経営責任者(CEO)であるゲン・フクナガ氏(54)は、「『君の名は。』は傑作だ」と絶賛し、「確実にオスカー候補として検討されるに値する」と、興奮を隠さない。
実際に、同作はオスカー候補になれるだろうか。また、候補になったとして、受賞の確率はどのくらいなのだろうか。米メディアの論調から探ってみよう。
米メディア 完成度の高さ、質の高さを褒めちぎる
「ミヤザキ」のように、「シンカイ」が質の高い日本アニメを象徴
『君の名は。』が、アカデミー賞の審査対象作品になったことを伝える米メディアのニュースで、一貫している論調がある。それは、新海監督の作品が、その芸術性の高さ、完成度の高さにおいて抜きん出ており、同作の質の高さを褒めちぎっているところだ。低い評価が、あまり見られないのである。
米メディアは、まずは興収の高さなど、『君の名は。』の好成績に注目する。世界中のだれもが知っている「ミヤザキ」こと、スタジオジブリの宮﨑駿監督(75)の『千と千尋の神隠し』や『もののけ姫』の興収を、同作が抜く可能性があることを、伝えている。
米『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙のエレノア・ウォーノック記者は、「『君の名は。』は、(手描きのセル画作品で知られた)ミヤザキ監督が2013年に引退して巨匠が欠けていた日本のアニメ映画界の、デジタル世代の監督による新しい変化を告げるものだ」と論評。
ウォーノック記者はさらに、緻密で美しい風景描写で知られる新海監督の作品が、フォトショップなどのアプリケーションを使い、コンピューター上で製作されていることを紹介。「このデジタル背景が、シンカイ監督の物語の手法に影響している」とした。
東京の四ツ谷に暮らす男子高校生の立花瀧と、飛騨の山奥にある糸守町の女子高生の宮水三葉の身体が入れ替わるという話の筋が、「理解しにくい」とする、米映画評論サイト『ハリウッド・リポーター』のデボラ・ヤング記者のような声もあるが、そのヤング記者でさえ、「情景描写が不気味なほどに想像を掻き立てる」と、高い評価を与えている。
その他にも、英『テレグラフ』紙の映画評論家、ロビー・コリン氏は、「風景描写は、レーザー光線で斬り込まれるようだ」「あまりに美しく、笑ってしまうほどだ」とべた褒めする。ただ、コリン氏も、「プロットがあまりに難解で、観客は素直にシンカイの世界に飛び込むしかない」と評している。
英人気サイト『Vice』のハンナ・イゥエンス記者も、「日本アニメ界でミヤザキの後を継ぐのは、シンカイだ」と言い切っている。こうして、『君の名は。』の大ヒットにより、「シンカイ」は今や欧米で、「ミヤザキ」のような、クオリティー日本アニメの巨匠として認識されるようになっている。