本記事は、島田 弘樹氏の著書『退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

年金と書かれたブロック、電卓、スマホ、ノート
(画像=ELUTAS / stock.adobe.com)

働き続けている間でも年金をもらうことはできるか?

60歳を過ぎてから退職し、再び働こうとする場合、気になるのはその間の老齢年金や厚生年金の特別支給が受けられるかどうかという点です。65歳以上の場合は、老齢基礎年金(一階部分)については、働くことによる収入の有無にかかわらず全額が支給されます。問題は二階部分にあたる老齢厚生年金ですが、これについては以下のようになります(在職老齢年金は退職後に厚生年金に加入しながら働く人の制度です)。

① 基本月額(老齢厚生年金の支給額の12分の1)と総報酬月額相当額(標準月額とその月以前の1年間のボーナスの総額の12分の1)を合計して、51万円以下であれば全額支給
② ①の合計が51万円を超える場合は、超過した部分の2分の1の年金が支給停止

つまり、収入が多ければ、51万円をはみ出した部分の年金が減額されるというわけです。

・在職老齢年金の支給停止期間
基本月額と総報酬月額相当額の合計額が51万円を超えている期間

・支給停止額の変更時期
総報酬月額が変わった月または退職日の翌月

・年金の受給権が発生した後の被保険者期間が年金額に反映される時期
厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている65歳以上70歳未満の人が基準日の9月1日において被保険者であるときは、翌月の10月分の年金額から見直されます(在職定時改定)。

・在職老齢年金を受けている人が退職したとき
厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている70歳未満の人が退職して1か月を経過したときは、退職した翌月分の年金額から見直されます(退職改定)。

・70歳に達したとき
厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受けている70歳未満の人が70歳に達したときは、その翌月分の年金額から見直されます。年金額の一部または全部の支給停止がなくなり全額が支給されます。

退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート
(画像=退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート)

老齢年金以外でもらえる年金とは?

年金には、老齢年金以外(つまり65歳以上、あるいは特別支給を受ける60歳以上でないケース)でも受給できるケースがあります。大きく分けて、障害年金遺族年金があります。前者は、病気やケガで障害を負った際に支給されるものです。国民年金に入っている場合と会社勤めで厚生年金に入っている場合での仕組みの違いは、老齢年金と同じです。ただし、障害の原因になった病気やケガの初診日(※)に国民年金に加入、もしくは60歳以上65歳未満で日本に在住していれば「障害基礎年金」、その日に厚生年金に加入していれば「障害厚生年金」が支給対象となります。

障害厚生年金の受給要件としては、①初診日より1年半経過後、もしくは「病気やケガが治った日」(障害認定日)において、障害等級表の1〜3級の状態になったとき。②初診日の属する前々月までの被保険者期間で3分の1以上の保険料納付の滞納がないこと(ただし、2026年3月末までは初診日の属する日の前々日までの1年間に保険料の滞納がなければOKです)となっています。

なお、障害厚生年金に限り、障害等級が3級よりやや軽い程度のときは、障害手当金が支給されることもあります。在職中の会社に詳細は問い合わせてください。

もう一つの遺族厚生年金は、厚生年金の加入者や老齢厚生年金をもらっている人、あるいはもらえる期間を満たした人が死亡したとき、その妻や子、55歳以上の夫、父母、孫などの遺族に支払われるものです。これも受給要件があり、詳細については次の図を参照してください。

退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート
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退職の際に、自分の年金についてやるべきこと

ここまで述べた年金の仕組みを頭に入れながら、退職に際して何が必要かを考えてみましょう。

最初に必要なのは、自分の年金加入期間を正確に知ることです。自分の職歴や年齢がどうであれ、今後の将来設計を立てていくうえでは、厚生年金の二階建て部分にしろ、基礎年金にしろ、あらゆる年金受給の資格につながる「加入期間」を知らなければ話にならないからです。

これまで自分の年金加入期間を知るには、年金事務所に直接問い合わせることが必要でした。しかしながら、年金記録のずさんな管理が問題となったのをきっかけに、一人ひとりの年金加入記録を確認するための「ねんきん定期便」が年金事務所から配達されています。

平成21年度からあなたの誕生日月(1日が誕生日の人はその前月)に送られているはずですので確認してください。50歳未満の人であれば、それまでの加入実績にもとづいた年金額、加入期間、納付額が、50歳以上の人であれば、それに加え、年金受給を70歳まで遅らせた場合の年金見込額も記されています。年金計算に必要な情報が細かく記されています。間もなく年金受給が始まるという時点で退職した人であれば、これをその後の将来設計の参考にしたいものです。

なお、35歳、45歳、59歳の人には封書で、過去の詳細な年金記録とともに「年金加入記録照会回答票」が送られ、自分で「もれ」や「誤り」をチェックすることができるようになっています。

退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート
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年金は自分から動いて手続きをしないともらえない!

年金についてもう1つ重要なことは、受給できる年齢になってもただ待っているだけではもらえないということです。もらうためには、自分で手続きをしなければなりません。これを「裁定手続き」といい、年金事務所に申請をすることが必要です。

必要となる書類には、年金事務所から65歳の誕生日の3か月前に送られる裁定請求書があります。これに年金手帳や雇用保険の被保険者証などを添付して提出します(その他に必要な書類としては、次ページのようなものがあります)。とにかく添付書類が多いということ、また、裁定請求書の書き方が難しいということもあるので、最初は年金事務所とよく相談することが求められます。

裁定請求書が受け付けられると、数か月後に年金証書が自宅に送られてきます。そこからさらに数か月後、年金の振込み通知書が送付され、指定口座に年金が振り込まれます。

ここまでの流れで、だいたい4〜6か月くらいかかります。

なお、年金はその支給を全部又は一部繰り上げてもらう制度もあります。例えば、国民年金の老齢基礎年金は、本人が希望すれば受給年齢の繰上げが可能です。ただし、その場合はもらえる金額が、65歳までの間がどれくらいあるかによって月あたり0.4%ずつ減額されます。

やはり、どうしても前倒しをしてほしいという場合は、減額分のことを頭に入れながら年金事務所とよく相談をして決めましょう。

退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート
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退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート
島田 弘樹(しまだ・ひろき)
1965年神奈川県出身。立教大学経済学部卒業。教育系出版社、健康保険システムITベンダー、中小企業協同組合、人材派遣会社などに社会保険労務士として20年以上勤務。その間、外国人就労者や技能実習生などの雇用管理や人事労務の問題解決、経営者の労務管理のサポートを行なう。現在は愛知県小牧市を拠点に日本の製造業を支える企業とそこで働くたくさんの人々の笑顔のために活動中。愛知県社労士会所属。趣味はフルマラソンと横浜ベイスターズの応援。
退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート
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