本記事は、島田 弘樹氏の著書『退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート』(ぱる出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

青い背景に「CAREER」という文字とテキスト用のスペースがある木製の立方体ブロックを置く手
(画像=Monster Ztudio / stock.adobe.com)

自分の「キャリアの棚卸し」が活かせる会社を探すには?

あなたが目指そうとしている「役割」を果たす場所は、今の会社以外にあるのかどうか。自社の事情をリサーチする一方で、「転職」の可能性を見すえて、他社の事情にも目を向けてみましょう。

ネットや業界紙など、企業情報をつかむ方法は多々ありますが、自分のキャリアが本当に活かせる会社なのかどうかという奥深い事情については、公式に発信されている情報だけではなかなかつかむことはできません。やはり、個人的なネットワークを使い、「生の情報」を集めることが必要です。

例えば、異業種交流会などに参加しながら、目当てとする業界他社の社員と近づきになり、あなたが考えているキャリアが活かせる仕組みや風土があるのかどうかをリサーチします。あるいは、取引先との付き合いの中で、様々な企業情報をつかみつつ、複数の情報を統合しながら、目当てとする企業像を立体的に組み上げていくという方法もあります。

そのうえで、「この会社なら、棚卸しした自分を活かせる道がありそうだ」となれば、今度はピンポイントで情報を掘り下げる「つて」を開拓してみましょう。

例えば、目当てとする企業に出身校のOBはいないか。異業種交流会のメンバーから、その会社の人を紹介してもらえないか。様々な方法を駆使して、その会社についての「生の声」を聞き出す機会を模索してみます。もちろん、企業秘密にかかわることは聞き出せませんが、「自分が考えている仕事を活かせる風土があるか」といったことならアドバイスを受けることも可能でしょう。

退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート
(画像=退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート)

ハローワークやキャリアコンサルティングを活用する

次に必要なのが、より広い視野から「自分が考えているキャリアの方向性が、業界全体、あるいは社会状況などから適切であるのかどうか」を調査することです。

こうした情報については、やはりプロの意見を聞くのが一番でしょう。自分の「棚卸し」を客観的な視点で評価してもらい、足りない部分等を補完するうえでも重要です。

身近なところでは、ハローワークを活用するという方法があります。ハローワークというと「求人情報を取得する場所」というイメージが強いですが、全国のハローワークの中には、キャリア・コンサルタントを配置して、転職に関する幅広い相談を行なっているケースもあります。

また、独立行政法人の雇用・能力開発機構が、各都道府県センターを設けており、そこで無料のキャリアコンサルティングを受けることも可能です。民間のキャリアコンサルタント会社も増えていますが、相談料やコンサルティングの手法等によっては、あなたのニーズとの間でズレが生じることもあります。初回相談は無料という所もあるので、複数のコンサルタントに会いながら、自分にあったコンサルタントを地道に見つけだす努力も求められるでしょう。セカンド・オピニオンとして大切な情報となります。

いずれにしても、効率的にコンサルティングを受けるためには、現状の課題や自分の進むべき方向性をあらかじめしっかり持っておくことが必要です。その意味で、先に述べたような「棚卸し」や「現状の会社分析」などを進めておくことには大きなメリットがあるわけです。

退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート
(画像=退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート)

自分に足りないものを身につける時間や資金も必要に

自分の強みを活かして転職しようと思っても、実は、目当てとする業界や企業で力を発揮しようと考えたとき、現状のままでは「足りないもの」も生じてくることがあります。

例えば、語学力と交渉力には自信があり、新規営業ルートの開発などの実績があるという場合、「これから海外事業を展開していきたい」という企業に対しては、自分のキャリアはある程度「売り」となります。しかしながら、相手国にとっては「まったく未知となる」ような技術を売り込む場合、先進国企業などへのプレゼンテーションとはまったく異なるノウハウも必要です。

その場合、一般的なビジネス英語よりもう一歩踏み込んだ語学力が求められるケースも出てくるでしょう。これを修得するにはどうすればよいか。一般の語学教室よりも、高額な受講料を支払って専門的な勉強が必要になるかもしれません。転職希望先とする企業にとっては、本当の「即戦力」を求めている可能性があり、「とりあえず働きながらスクールに通う」という余裕がない場合もあります。そうなれば、今の会社を退職する前から勉強をスタートさせなければなりません。

こうした現状分析をしっかり行なう中で、どれだけの資金が必要なのか、あるいは必要とするキャリアを身につけることから逆算して、どれくらいの時間が求められるのか。より現実的な視点を持ちながら、綿密に計画を立てていくことが必要です。なりたい自分と今の自分を冷静に分析しましょう。

思いついてすぐに退職願というだけでは、後々後悔するケースも出てきます。

退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート
(画像=退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート)

「キャリアアップ転職=収入増、ストレス減」とは限らない

自分の強みを活かせる道に進む──これは、あなたの人生にとってプラスであることに違いはありません。しかしながら、その場合の「プラス」というのは、長い職業人生を振り返ってという但し書がつきます。短期的に見れば、今の会社を離れることで一時的に大幅な収入減になることもあります。また、新たな職場環境に慣れるまでの間、一時的にストレスが増すというケースもあります。

大切なのはお金じゃない。一時的にかかるストレスも覚悟のうえ──と考える人も多いでしょう。その心意気は素晴らしいのですが、人生はそれだけでは済まないこともあります。

収入減は覚悟していたとしても、身の丈に合った生活を身につけるにはひと苦労です。厳しい家計管理を続ける中では、新しい仕事に集中できなくなることもあります。あなた自身が負担に耐えられたとしても、家族が「その環境を受け入れられない」というケースが生じるかもしれません。

こうしたリスクの積み重ねは、せっかくの新たなスタートをつまずかせる危険もあります。となれば、一気に家計を絞り込んだときに無理が生じないよう、十分な預貯金等が確保できているか。ギャンブルスタートは危険です。多少のストレスがかかっても大丈夫なように、普段からの健康管理がしっかりなされているか。そうしたチェックを退職前にしっかり行なっておくことも必要でしょう。

家族をはじめとして、あなたの退職・転職によって影響を受ける利害関係者(ステークホルダー)への説得に十分な時間をとりながら行なうことも大切になってきます。

退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート
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退職・転職前後にやっておくべき「お金」のチェックノート
島田 弘樹(しまだ・ひろき)
1965年神奈川県出身。立教大学経済学部卒業。教育系出版社、健康保険システムITベンダー、中小企業協同組合、人材派遣会社などに社会保険労務士として20年以上勤務。その間、外国人就労者や技能実習生などの雇用管理や人事労務の問題解決、経営者の労務管理のサポートを行なう。現在は愛知県小牧市を拠点に日本の製造業を支える企業とそこで働くたくさんの人々の笑顔のために活動中。愛知県社労士会所属。趣味はフルマラソンと横浜ベイスターズの応援。
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