タイGDP
(写真=Thinkstock/GettyImages)

2016年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比3.2%増(*1)と、前期の同3.5%増から低下したほか、Bloomberg調査の市場予想(同3.3%増)を下回った。

需要項目別に見ると、政府消費の減少が成長率を押し下げたことが分かる(図表1)。

民間消費は前年同期比3.5%増(前期:同3.8%増)と、食品・飲料などの非耐久財や衣類などの半耐久財を中心に低下した。政府消費は同5.8%減(前期:同1.5%増)と、8期ぶりのマイナスに転じた。雇用者報酬(公務員給与)や財・サービスの購入、現物社会給付の支出が落ち込んだ。

また投資は同1.4%増と、前期の同3.2%増から低下した。公共投資は同6.3%増とGDP全体を上回る伸びを維持しているものの、前期(同11.9%増)から低下した。また民間投資は同0.5%減(前期:同0.2%増)となり、住宅購入支援策の終了(4月)の影響が残っていることや銀行の貸出姿勢の厳格化、商用車の輸出の不調で建設投資と設備投資が揃って低迷した。

純輸出は、まず輸出が同3.4%増(前期:同2.0%減)と上昇した。うち財貨輸出は同0.4%増(前期:同0.9%減)と上昇した。ゴムの輸出は減少したものの、空調機器や家電製品、自動車・部品といった工業製品、エビやコメなどの輸出が増加した。またサービス輸出も同14.7%増(前期:同12.6%増)と、訪タイ外国人観光客数の拡大(図表2)によって上昇した。

一方、輸入は同1.3%減(前期:同1.6%減)と、素材などの財輸入(同3.9%増)こそ増加したものの、海外旅行の減少によってサービス輸入(同19.9%増)が大きく減少し、5期連続のマイナスとなった。その結果、外需の成長率への寄与度は+3.6%ポイントと、前期の+2.6ポイントから拡大した。

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供給項目別に見ると、製造業の鈍化が成長率の低下に繋がったことが分かる(図表3)。

農林水産業は前年同期比0.9%増(前期:同1.2%減)と、8四半期ぶりのプラスに転じた。エルニーニョ現象を背景とする干ばつの影響が和らいでキャッサバ、油やし、野菜など主要の農産品を中心に増加した。また漁業は同8.0%増と、エビの海外需要の拡大を受けて好調を維持した。

非農業部門では、まず全体の3割弱を占める製造業が同0.9%増と、内需の鈍化を受けて前期の同2.1%増から低下した。家具やアパレルなどの軽工業と石油化学やゴム・ゴム製品などの素材関連が減少したほか、商用車の輸出が不調で資本・技術関連産業も鈍化した。

また建設業は同5.0%増(前期:7.8%増)と、民間の住宅投資の低迷が響いて低下した。サービス業ではホテル・レストラン業が同15.9%増(前期:同12.7%増)、運輸・通信業が同6.4%増(前期:同4.4%増)と上昇したものの、金融業が同4.4%増(前期:同4.6%増)、不動産業が同1.8%増(前期:同2.8%増)などが低下した。なお、卸売・小売業が同5.5%増(前期:同5.5%増)と横ばいとなった。

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7-9月期は政府消費の減少が景気減速の主因となったが、これまでの経常予算の早期執行や昨年同期に遅れていた公務員給与の引上げ分の支出があったことの反動によるものであり、予算の繰越も少なく、政府の予算執行能力に問題はないようだ。

また民間消費は4月のタイ正月(ソンクラーン)中の消費刺激策(*2)の反動で前期から低下したものの、堅調な伸びと言える。農業は農産品の価格上昇と生産拡大、そして政府が今年に入って1,000億バーツの追加予算を組んで農業支援に取り組んだことも農業所得の向上に寄与したと見られる。また低インフレ環境が続いたことも消費をサポートしている。実際、消費者信頼感指数は6月を底に持ち直してきている(図表4)。

ここ数年の景気の牽引役となってきた観光業と公共投資も引き続き堅調な伸びが続いている。観光業は8月に南部で連続爆弾事件が起きたほか、中国人向け違法格安ツアー業者の摘発による影響は軽微で、むしろ7-9月期の外国人観光客数は前年比13.1%増(前期:同8.2%増)と拡大した。公共投資も前年同期に執行の始まった水利事業や運輸インフラ計画が一巡した影響で鈍化したものの、全体を上回る伸びが続いている。さらに財の輸出も若干ながら増加に転じたことも、今後の設備投資の回復にも繋がるだけに好感できる。

このように7-9月期は底堅い景気となったものの、先行きはもう暫く景気減速が続く可能性が高い。今年10月13日にプミポン国王が死去したことに伴い、政府は服喪期間を1年とし、14日から30日間はイベントを自粛して娯楽放送を控えるといった方針を発表した。

タイでは企業の販促イベントの自粛や消費者が購入を控えるといった動きが広がっており、外食や映画などの娯楽消費が落ち込み始めている。こうした自粛ムードは来年2月頃までは続く見込みである。景気の減速傾向が強まれば、来年の総選挙後も首相続投を睨むプラユット首相にとって悪材料となるだけに、今後、政府がどのような経済政策を打ち出すかに注目が集まる。

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(*1) 11月21日、タイの国家経済社会開発委員会事務局(NESDB)は2016年7-94-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。なお、前期比(季節調整値)の実質GDP成長率は0.6%増と前期の同0.8%増から低下した。
(*2) 政府は4月のソンクラーン(4月13~15日)に伴う9日間の休暇中の飲食費と旅行関連費用を対象とした所得控除策(上限は1万5,000バーツ)を実施した。政府は同様の消費刺激策を12月25-31日にも実施している。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部

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