米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏が当選したことは記憶に新しい。今回は、ドナルド・トランプ大統領政権下における日本の不動産事情に与える影響について考察してみたい。
株価への影響は?
トランプ氏の選挙活動中の過激な発言から、選挙期間中多くのメディアは、彼が当選することによる経済への悪影響が大きいと述べていた。しかし、当選後の米国および日本の株価の動きを見ていると、人々の期待値が違うところにあったことに気づかせられた。
当選直後こそ、日経平均株価終値は前日の1万7171円から1万6251円へと920円の値下がりとなり、トランプショックと言われたが、その後株価は米国主要4株価指数の上昇と歩調を合わせるように上昇し、12月1日時点の終値で1万8435円と当選前日に比べても1264円の上昇となっている。
これは、当選後のトランプ氏の発言が米国国民の団結を呼びかけ、極端な発言を修正し、ビジネスマンらしく米国の利益を重視したことがあるだろう。市場は「財政拡張・金融緩和」を織り込み始めたのだ。また想像していたより、共和党が従来訴えてきた政治とのバランスをとる姿勢がみえてきたこともあるだろう。
不動産への資金流入 もう一段の不動産上昇
今後、米国の会社経営者や多額の資産を有する富裕層に対して有利な減税策を実行することが予想され、それによって浮いたキャッシュが投資資金へと流れ込むことは十分予想される。その資金は株や不動産の購入を促していくだろう。
米国内不動産はもとより、海外不動産を購入するとなった場合、その対象国として先進国の中で割安感のある都市・新興国の大きな開発が予想される都市が対象となることが予想される。先進国で投資資金が流れる先は、ヨーロッパでは” Emerging Trends Europe Survey 2016 ”の分析によると、ベルリン、ハンブルク、ダブリンといった都市が挙げられる。
東京はやや円高に振れてきていることや、オリンピック期待などで割安感が薄れてきており、すでに天井に近いのではないかという雰囲気であったが、トランプ氏当選後また円安に進んできていることや米国からの資金流入により、もう一段の不動産上昇を予想している。
都心不動産への影響 これから地価が上昇する東京エリアは?
トランプ氏の不動産ビジネスの特徴は、都心の新築オフィスビルや商業用物件、富裕層向けの高級レジデンスを所有することである。トランプ氏自身はビジネスを政治と切り離すと言ってはいるが、自身が所有する資産価値が上がるような政策すなわち都心の地価があがる政策をとるだろう。
日本のリーマンショック前にあった2007年ごろのミニ不動産バブルはまさに銀座・表参道という都心を中心に地価が上がっていった。そう言った流れが、トランプ政権による金融緩和の影響で、全世界的に起こるとみている。現在の株価の上昇は、そういった投資環境に対する期待値が込められているように感じる。
2016年後半に入り、渋谷、丸の内・銀座の繁華街における地価上昇は勢いを増している。例えば、渋谷公園通りでは2015年の同時期に土地の価格で坪3500万円程度であったものが、坪4000~5000万円といった金額で取引される例も出てきている。
日銀のマイナス金利政策の影響で投資マネーが都心不動産に流れ込んだために、地価が高騰し始めたのが主因ではあるが、トランプ政権成立後は全世界的な金融緩和でさらなる地価上昇がおこる可能性がある。ただし、地価上昇が起こるエリアは限定的であろう。いままで東京オリンピックへの期待値が高い湾岸エリアが中心に上昇していたが、これから起こる地価上昇は東京の再開発エリアである渋谷、大手町~浜松町~田町にかけて中心になるであろう。
投資対象の変化
一方、城南・城西エリアのマンション価格は頭打ちとなると想定される。大手デベロッパーを中心に新築マンションが建築されたが、契約率の低下にみるように供給過多となっている。大きく下がることは無いだろうが、これからの上昇はあまり期待できない。外国からの投資マネーは入ってきても東京の人口自体は近い将来減少に転じることが予想されている。
総務局の調べによると、2020年に東京の人口は1335万人でピークを迎える。その後、2030年には1307万人と10年間で28万人もの減少予測となっている。住宅に関しては、新築不動産ビジネスから中古不動産ビジネスへの移行が余儀なくされるであろう。
その中で余った投資マネーは地方へとは向かわず、都心の商業不動産、ホテルなどへと向かってゆくだろう。長期の賃貸を前提としている、不動産投資家は十分な利回りを得ることができなくなり、民泊やゲストハウス、ホステルなどの短期賃貸ビジネスへと移行せざるをえなくなる。不動産業の在り方を変えながら、都心の不動産価格が上昇してゆく。そんな流れになるのではないだろうか。
米国のトランプ政権誕生が、米国内の自国産業優先をすることで、投資マネーが世界の不動産市況に大きな影響を与えてゆく。そんなシナリオが近い将来の東京の不動産の地価を形成していくであろう。
尾嵜 豪(おざき たけし)
株式会社ウィンドゲート
代表取締役
大手ゼネコンでの勤務・経験を経て、業界最大手の芸能事務所にて不動産売買・賃貸・管理・コンサルティングの総責任者を務める。独立後、株式会社ウィンドゲートを設立、代表取締役に就任。都心の一流不動産のアドバイザーとして、芸能人・プロスポーツ選手・企業経営者などの富裕層を主な対象とする、不動産コンサルティングが好評を博している。