毎週月曜日に配信しているメールマガジン「新潮流」では、その週の相場展望を述べている。今週は、「基本的にはトランプ新大統領の就任式を控えて神経質な展開を予想するが週末にかけてリスクオン地合いが高まるシナリオも想定される」と述べた。実際の相場を振り返ると、トランプラリーの調整局面の最終段階に達し、相場が自律反転してきた様相と捉えることができる。
トランプ次期米大統領は米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに対して、「我々の通貨(=ドル)は強すぎる」と述べたと報じられた。このトランプ氏の発言を受け、ドル売り・円買いが優勢となり、18日の外国為替市場で円相場は一時、1ドル=112円台半ばと昨年11月下旬以来、約1カ月半ぶりの高値を付けた。しかし、そこに至るまでにも、為替相場では円高が進行してきた。トランプ氏の大統領就任を20日に控え、経済政策に対する不透明感が台頭してきたことが背景だと言われる。
先日のトランプ氏の記者会見やその後のメディアとのインタビューの内容は外交に重点が置かれ、市場が期待する大型減税やインフラ投資など経済政策への具体的な言及がなかったため市場の失望を誘ったとの声が多い。英国ではメイ首相の演説を前にEUからの強硬的な離脱、いわゆるHard BREXITに対する警戒が高まり、ポンドが下落したこともリスク回避の円高を誘った面もあったという。
しかし、それらはすべて「後講釈」である。メルマガの週間展望ではこう述べた。
<そもそもトランプ氏の記者会見は利益確定売りを出すための「タイミング的なきっかけ」に過ぎず、それ自体が相場の悪材料となったわけではない。トランプ氏の会見が減税やインフラ投資への言及が少なく期待外れだったから、リスクオフで円高・株安になったと言われるが、それは「こじつけ」であろう。事実、会見後の米国株は上昇している。ナスダック総合は史上最高値更新である。 そもそも、「記者会見」なのだから記者の質問に答えるのが主眼であり、その記者からの質問の大半がロシアとの関係を問う国際関係や通商政策に関するものだったのだから、経済政策への言及がないのは当たり前である>
本日付の日本証券新聞には僕のインタビューが掲載されている。一部、引用しよう。
<今週に入って、16、17日合計で473.75円安を強いられた日経平均。18日も一時163.20円安まで売られる場面があった。英国・メイ首相会見や米国・トランプ氏発言などを受け、為替が1ドル=112円台と7週ぶりの円高水準に振れたため、意表を付かれた格好だ。とはいえ、足元の円高進行を「想定内」と見る向きもある。代表的な日本株強気派でありながら、年間の為替見通しで「1月に1ドル=110円」としていた、マネックス証券の広木隆チーフ・ストラテジストもその1人。年末の日経平均2万3000円予想を掲げる広木氏に、為替見通しの根拠と、今後の行方などについて話を聞いた。
―ドル円相場は、年末年始を挟んで約1カ月間、1ドル=117円近辺で推移していた。1月の円高進行を想定した理由は何か。
「そもそも、米国大統領選直後には1ドル=101円台を付けていた。そこから急激に円安が進んでおり、どこかで利益確定による当然の自律調整を迎えるタイミングにあった。相場の世界には『バイ・オン・ルーマー、セル・オン・ファクト(噂で買って事実で売る)』という格言がある。多くの人が指摘したように、20日のトランプ大統領就任前後が1つの転機になると見ていた。逆に言うと、それ以降は、新政権の政策を現実評価すれば、(適度な調整挟みながらも)金利高→ドル高(円安)に向かうしかない」
―英国の"ハードブレグジット"(EUからの強硬離脱)の影響も懸念されるが。
「おどろおどろしい言葉に踊らされているだけ。中国株急落時の『シャドーバンキング』もそうだ。『ハードブレグジット』と聞くと、何か大変なことのようにも感じられるが、それこそ昨年6月の国民投票時から分かっていたこと。実際、メイ首相会見後に英ポンドは急騰している」
株も為替も反発してきた。なにか特段、材料があったわけではない。材料がなかったにもかかわらず、株は反発し、為替は円高が一服した。こういうのを自律反発という。相場自身が「もういいところ」に達したと判断し、ひとりでに(自律的に)反転する。18日の日経平均の安値は18650円。大発会につけた昨年来高値の19615円から2週間で約1000円下げた格好だ。下落率にして約5%。さすがに「もういいところ」だと押し目買いが入りやすい水準だ。ドル円もトランプラリーで円安に動いた値幅に対して、フィボナッチの61.8%が112円。112円台をつけたことでテクニカル的に下値が見えたということだろう。
つまり、最近の円高・株安そのものが極めてテクニカルな「理由なき調整」、すなわち「自律調整」である。あまりに上昇が一本調子で急だったので当然の反動であり、トランプ政策への失望とかHard BREXITとかいうのは後講釈に過ぎないというのはそういう観点からである。その自律調整も一巡感があり、20日の大統領就任式のあとは再び「トランプ相場第二幕」のスタートとなるのではないか。
特に注目はNYダウ。2万ドルの大台乗せが直前で寸止めの格好だが、トランプ大統領誕生のタイミングで2万ドル達成となれば、まさにご祝儀ムードが市場に広がって相場の地合いはリスクオンに傾くだろう。
ちなみに16日の朝には日経クィックニュースが「第二のトランプラリーの始まりは大統領就任式後に─広木氏:マネックス証券」というタイトルの記事を配信、僕のコメントを紹介している。
<20日の大統領就任式以降はトランプ次期大統領が掲げる減税や財政政策を再び評価する段階に入り、第二のトランプ・ラリーが始まるとみている。>
今日のレポートは、やたらとメディアの引用が多いと感じられるかもしれない。
このところの自律調整-自律反発のプロセスについて巷間言われている解説はすべて「後講釈」だと言った手前、相場が反転したタイミングで「僕は前からそう思っていた」と言ったのではないということを証明するために、あえて引用を多くしたのである。決して、「後知恵バイアス」に陥っているわけではありません。
広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券
チーフ・ストラテジスト
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