世界の大企業・有力企業のランキングとして著名なものは複数あるが、本稿では、その中でも最も知られている米フォーチュン社によるFortune Global 500社のランキング(売上高ベース)の変遷に基づいてアジアにおける有力企業の動向を概観したい。
上図は、このデータが公表された初年である1995年と、その10年後の2005年、2010-2016年各年の500社ランキングに入った企業数の多い上位5ヶ国のリストである。
先進国である米国、日本と欧州の大国(仏・独・英)の顔ぶれは、各期間を通じて変わらず、米国は企業数は減らしつつも首位を維持している。その中に、中国が参入し、500社入りする企業数を一貫して増加させており、2016年には100社の大台を超えた。国別の順位でも、2012年に日本を抜いて第二位のポジションを継続している。中国の企業数が増加する中で、米欧日の諸国は企業数を減少させている。
次に、図表-2で500社ランキングの上位10社の顔ぶれの変化を見よう。
1995年には、わが国の総合商社がずらりと並び、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた頃の影響が残っているが、2005年の上位10社のランキングを見ると、直近年度でも首位にある米国小売業のWalmartがトップ、以下、日本のトヨタを除けば、米欧の石油企業大手と自動車の大手企業というラインナップになった。2010年の同ランキングでは7・8・10位に中国の国有大手企業が入り、2016年には2-4位を占めるようになっている。
上記の図表-1のとおり、2016年には、中国企業が500社ランキングの中で103社を占めており、その多くが有力な国有大手企業である(例えば、図表-2の中国の3社に次いで、500社中の全体順位の15位に中国工商銀行、22位に中国建設銀行、27位に中国建築工程、29位に中国農業銀行、35位に中国銀行、45位に中国移動通信、46位に上海汽車(自動車)などとなっている)。
しかしながら、近年その傾向に新たな変化も見られる。中国において、国有企業が依然大きなポジションを占める中で、民営企業の存在感も増してきており、2016年には10社以上が500社ランク入りを果たしている。その代表例が、41位にランクされる中国平安保険、129位の華為技術(通信・携帯電話機等)、202位のレノボ(聯想集団:PC・スマートフォン等)、366位のJD.Com(京東:電子商取引)、385位の大連万達(不動産等コングロマリット)、481位の美的(家電)等である。
中国が世界的に電気・電子産業や電子商取引(eコマース)の一大拠点となっている中で大きく成長している民営企業が、世界の大企業の仲間入りをしている傾向が窺え、このトレンドは今後加速するものと考えられる。
最後に、中国以外のアジア主要国の企業についてみることにする(図表-3)。
韓国の企業が、2016年で15社ランクインしているが、その多くは、サムスン、現代自動車、LG、SK、ロッテ、ハンファなど同国を代表する財閥企業グループの会社と韓国電力公社やポスコなど公社や国営企業である。
台湾では、鴻海精密工業や仁宝電脳、広達電脳、台湾積体電路製造(TSMC)等の世界的に有名な電気・電子企業など7社が入っている。その他諸国の多くでは、インド国営石油会社、マレーシアのペトロナス、タイのPTT(タイ石油公社)、インドネシアのプルタミナなど各国を代表する国営のエネルギー企業が目立っており、財閥企業は、インドのタタとリライアンスが散見される程度である。
アジア地域の有力企業として想起される東南アジアの華人系の有力企業グループの存在が少ないのは、500社ランキングは、その500位でも年間の売上高が209億ドルという規模であり、そのレベルに到達する企業が現時点では非常に少ないということであろう。
しかしながら、自国やアジア域内のみならず、欧米日等先進諸国の企業買収も含めた海外投資も行い大きく成長している華人系企業は多く、それらが近い将来、上記の中国の民営企業の事例のように世界の大手企業の仲間入りする可能性は大きいと考えられる。
平賀富一(ひらが とみかず)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部
主席研究員 アジア部長 保険研究部兼経済研究部 General Manager for Asia
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