結果の概要:成長率は、前期から大幅低下、市場予想も下回る

1月27日、米商務省の経済分析局(BEA)は10-12月期のGDP統計(1次速報値)を公表した。10-12月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は、季節調整済の前期比年率(1)で+1.9%となり、7-9月期(同+3.5%)から大幅に低下、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の同+2.2%も下回った(図表1・2)。この結果、16年の成長率は前年比+1.6%と15年の同+2.6%から低下した。

54910_ext_15_0

10-12月期の成長率を需要項目別にみると、住宅投資が前期比年率+10.2%(前期:▲4.1%)と3期ぶりにプラスに転じたほか、民間設備投資+2.4%(前期:+1.4%)や、政府支出+1.2%(前期:+0.8%)は前期から伸びが加速した(図表2)。また、在庫投資の成長率寄与度も+1.00%ポイント(前期:同+0.49%ポイント)とプラス幅が拡大した。個人消費は、前期年率+2.5%(前期:+3.0%)と前期からは鈍化したものの、底堅い伸びを維持した。一方、純輸出(輸出-輸入)の成長率期寄与度が▲1.70%ポイント(前期:+0.85%ポイント)と、特殊要因で大幅なプラスとなった前期の反動で、10年4-6月期(同▲1.77%ポイント)以来の大幅な落ち込みとなり、成長を押下げた。

前期は、在庫投資や純輸出の特殊要因も含めた成長押上げで実力以上に高い成長率となっていたため、当期の成長率低下は想定されていた。今回、成長率は市場予想を上回る低下となったものの、純輸出による成長押下げの影響が大きく、GDPから在庫と純輸出を除いた国内最終需要は、前期比年率+2.5%(前期:+2.1%)と堅調な伸びを維持している。このため、内需主導の景気回復は持続していると判断でき、成長率低下を悲観視する必要はないだろう。一方、17年の米国経済はトランプ政権の経済政策に大きく左右されることから、今後の国内政治状況には注意が必要だ。

--------------------------------
(
1)以降、本稿では特に断りの無い限り季節調整済の実質値を指すこととする。
--------------------------------

結果の詳細:

◆(個人消費・個人所得)財消費は好調も、サービス消費が鈍化の要因

10-12月期の個人消費のうち、財消費は前期比年率+5.2%(前期:+3.5%)と、前期から伸びが加速した(図表3)。非耐久財が+2.3%(前期:▲0.5%)と前期からプラスに転じたほか、耐久消費財が+10.9%(前期:+11.6%)と2期連続で2桁の増加となるなど、財消費を牽引した。非耐久財では、ガソリン・エネルギーが▲9.3%(前期:▲2.4%)と前期からマイナス幅が拡大したものの、食料・飲料が+5.9%(前期:+2.5%)となるなど好調であった。耐久消費財では、自動車・自動車部品が+11.8%(前期:+19.9%)と前期から鈍化したものの、2桁の好調な伸びを維持した。

一方、サービス消費は+1.3%(前期:+2.7%)と前期から伸びが鈍化し、個人消費の伸び鈍化の要因となった。医療サービスは+1.6%(前期:+0.6%)と前期から伸びが加速したものの、住宅・公益が▲2.0%(前期:+2.6%)と前期から減少したことなどが響いた。

所得は、実質可処分所得が前期比年率+1.5%(前期:+2.6%)と前期から大幅に伸びが鈍化した(図表4)。この結果、貯蓄率は5.6%(前期:5.8%)と前期から低下した。

54910_ext_15_2

◆(民間投資)設備機器と知的財産が好調

54910_ext_15_3

10-12月期の民間設備投資の内訳をみると、建設投資が前期比年率▲5.0%(前期:+12.0%)と前期の2桁増加からマイナスに転じた一方、知的財産投資が+6.4%(前期:+3.2%)と前期から伸びが加速したほか、設備機器投資が+3.1%(前期:▲4.5%)と5 期ぶりにプラスに転じた(図表5)。

一方、3期ぶりにプラス成長となった住宅投資では、戸建てが前期比年率+11.7%(前期:▲11.5%)と4期ぶりにプラスに転じたほか、集合住宅が+15.2%(前期:+5.3%)と前期から伸びが加速した。

54910_ext_15_4

◆(政府支出)国防関連支出が減少も、地方政府支出が増加

政府支出は、地方政府支出が前期年率+2.6%(前期:▲0.2%)と前期からプラスに転じ、成長を押上げた(図表6)。

一方、連邦政府支出では、非国防支出が+2.3%(前期:+3.0%)と前期から伸びが鈍化したほか、国防関連支出が▲3.6%(前期:+2.0%)と前期からマイナスに転じた。この結果、連邦政府支出は▲1.2%(前期:+2.4%)と前期からマイナスに転じた。

◆(貿易)米国産大豆輸出の落ち込みにより、輸出は減少

10-12月期の純輸出は大幅な落ち込みとなったが、輸出入の内訳をみると、輸入が前期比年率+8.3%(前期:+2.2%)と伸びが加速したことに加え、輸出が▲4.3%(前期:+10.0%)と前期からマイナスに転じた(図表7、8)。とくに、南米の天候不順により前期に押上げられた米国産大豆の輸出が、当期はその反動で落込んだことが純輸出に大きく影響した。

54910_ext_15_5

実際、輸出を仔細にみると、サービス輸出が+0.9%(前期:+2.0%)と小幅な鈍化に留まった一方、財輸出が▲6.9%(前期:+14.4%)と前期から大幅なマイナスに転じた(図表7)。とくに、財輸出では、食料・飲料が▲55.2%(前期:+216.8%)と米国産大豆輸出の影響により大幅な落ち込みとなったことが分かる。

一方、輸入では、サービス輸入が▲2.7%(前期:+9.8%)と前期からマイナスに転じたものの、財輸入が+10.9%(前期:+0.5%)と2桁の伸びに加速した(図表8)。サービス輸入では特許使用料等が▲35.1%(前期:+65.1%)と、前期が大幅な伸びとなった反動でマイナスに転じたことが響いた。財輸入では、自動車・自動車部品が+10.4%(前期:+4.5%)と前期から伸びが加速したほか、消費財(除く食料品・自動車)が+16.5%(前期:▲1.4%)と5期ぶりに大幅なプラスに転じた。

◆(物価・名目値)物価は緩やかながら上昇基調が持続

10-12月期のGDP価格指数は、前期比年率+2.1%(前期:+1.4%)と前期から伸びが加速、市場予想(同+2.1%)には一致した。名目GDP成長率は前期比年率+4.0%(前期:同+5.0%)と、前期から低下した(図表9)。

FRBが物価の指標として注目するPCE価格指数(2)は、前期比年率+2.2%、前年同期比+1.5%(前期:+1.5%、+1.0%)となった(図表10)。さらに、食料品とエネルギーを除いたコアPCE価格指数は前期比年率+1.3%、前年同期比+1.7%(前期:+1.7%、+1.7%)となった。

PCE価格指数(前年同期比)はエネルギー価格の持ち直しもあり、15年7-9月期の+0.3%を底に緩やかながら上昇基調が持続しており、FRBが目標とする2%を上回った。もっとも、FRBが物価動向を判断する上で重視しているコア価格指数の方は、目標水準を下回って安定推移しており、政策金利の引き上げペースを加速させるほどの物価上昇圧力の高まりはみられない。

54910_ext_15_7

--------------------------------
(
2)現在、FOMCのメンバーは四半期に一度物価見通しを公表しており、そこで物価の指標として採用されている指数がPCE価格指数とコアPCE価格指数である。見通しは年単位で、各年の10-12月期における前年同期比が公表されている。
--------------------------------

窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

【関連記事】
【11月米個人所得・消費支出】所得は予想外に軟調な結果。消費も予想を下回る。
【12月米FOMC】予想通り、1年ぶりとなる0.25%の利上げを実施
トランプ政権が発足-選挙公約から政策の軌道修正は不可避
【12月米住宅着工、許可件数】許可件数は、増加予想に反してほぼ横這いも、着工件数は予想を上回る増加。
【12月米雇用統計】雇用者数は市場予想を下回るも、全般的に良好な内容で労働需給の改善を確認。