確率,事象,掛け算
(写真=PIXTA)

確率は、日常生活の中に、浸透している。例えば、テレビの天気予報では、毎朝、地域別に、今日や明日の降雨確率が示される。確率は、0から100%までの値で、数値が大きいほど、事象(この場合、降雨のこと)が発生する可能性が高いことを表す。

確率は、法廷の場でも、有力な証拠として用いられることがある。犯罪事件の捜査の証拠として、1980年代中頃に、DNA型鑑定が、採用され始めた。これは、例えば、事件現場に残された血痕のDNA型と、容疑者から採取した頭髪等のDNA型を比較して、一致するかどうかを鑑定するというものである。

当初は鑑定方法が粗く、偶然、別人とDNA型が一致する確率が0.1%程度あったと言われる。近年、著しく精度が向上しており、偶然の一致確率は、0.00000000002%程度となり、裁判での証拠能力を高めている。

ただし、過去に、DNA鑑定の運用を誤ったり、鑑定結果を過信したりしたために生じた、冤罪(えんざい)事件の反省もある。最高裁判所の司法研修所が2013年に公表した見解では、「DNA型鑑定の成果を用いて正しい判断をするためには、その理論、技術の到達点と限界を正しく理解することが不可欠である。理論的根拠が納得し得るものであるということだけで、検査結果とその持つ意味を過信・過大評価してはならない。」とされている。

確率は、自然災害や事故などの発生がどの程度生じ得るか、を示すために、用いられることもある。地震調査研究推進本部地震調査委員会が2006年に公表した報告書では、日本における自然災害・事故等の発生確率が参考として示されている。

例えば、30年間に発生する確率として、大雨で罹災する確率は0.50%。台風で罹災する確率は0.48%。火災で罹災する確率は1.9%。空き巣ねらいに遭う確率は3.4%。ひったくりに遭う確率は1.2%。すりに遭う確率は0.58%、などとされている。

こういった発生確率を見る上で、注意すべきことがある。それは、いくつかの事象が折り重なった複雑な事象の発生確率を考える際に、各事象は独立かどうかという点だ。独立であれば、各事象の発生確率を掛け算したものが、それらの事象全てが発生する確率に等しくなる。

例えば、先ほどの自然災害や事故などの発生確率で、台風による罹災と、すりによる被害が、独立な事象と仮定すれば、30年間で、その両方に遭遇してしまう、アンラッキーな確率は、0.003%(=0.48%×0.58%)となる。このようなことは、確率的には、滅多にないと言えるだろう。

しかし、事象が独立でない場合、発生確率を掛け算しても、正しい答えは得られない。例えば、大雨による罹災と、台風による罹災では、どうだろうか。これらが別々に生じることもあるかもしれないが、一般的には、台風が到来したら、大雨になることが多いのではないだろうか。

この場合、30年間で、大雨と台風の両方に罹災してしまう確率は、0.002%(=0.50%×0.48%)と計算してはいけない。この2つの関係が強いとすれば、両方に罹災してしまう確率は、それぞれの確率を大きく下回るものとはならず、0.4%以上と見るのが妥当と言えるだろう。

各事象が独立な場合にのみ、それらの事象全てが発生する確率は、各事象の確率の掛け算の結果に一致する。このことは、確率や統計の教科書には、必ず書かれている。そして、確率の勉強をする人は、よく理解しているものと思われる。ただし、確率の勉強で出てくる問題は、各事象の独立性が前提とされていることが多い。

その前提の下で、確率の掛け算をすることで、複数の事象が全て発生するような複雑な事象の確率を求めさせようとする。例えば、サイコロを何回も振ったり、何枚ものコインを投げたりする問題は、各事象の独立性が前提とされている。一方、各事象が独立でない場合は、確率の掛け算ができないので、出題しにくい。こうして、問題を何問も解くことを通じて、事象の独立性という前提が、勉強をする人に、自然に刷り込まれてしまうのかもしれない。

しかし、現実の社会では、各事象が独立だと言い切れることの方が少ないだろう。例えば経済で、1週間後に、株価の上昇と、金利の上昇が、いずれも生じる確率は、それぞれの確率の積と見るべきではないだろう。病気で、ある人がこの先5年間に、高血圧と、脳卒中の両方にかかる確率は、それぞれの確率の積ではないだろう。世界の気象で、今後10年間に、アフリカの砂漠面積の拡大と、日本の台風到来数の増加が、両方生じる確率は、(明確に言い切れるものではないが、) グローバルな気象動向を踏まえれば、それぞれの確率の積と見るべきではないだろう。

最後に、事象の独立性に関して、次のような有名な話があるので紹介しよう。

ある飛行機の航行中、操縦室で、副機長が機長に、こんなことを話した。
「この飛行機に搭載されているエンジンが、1基、故障で働かなくなる確率は、10万分の1だそうです。この飛行機には、エンジンが2基付いていますから、両方とも故障して、墜落してしまう確率は、10万分の1、かける10万分の1、つまり100億分の1となります。これなら、まず、安心ですね。」
(この機長は、副機長に対して、確率についての教育をしなくてはならないだろう。)

このように、複数の事象が発生する確率を見るときには、各事象の独立性に注意することが必要と思われるが、いかがだろうか。

篠原拓也(しのはら たくや)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター兼任

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