インドネシアの2016年10-12月期の実質GDP成長率(1)は前年同期比(原系列)4.94%増と、前期の同5.02%増から低下、また市場予想(2)の同5.00%増を若干下回った。
なお、2016年通年の成長率は前年比5.02%増と、2015年の同4.88%増から上昇し、年末に下方修正した政府の成長率目標(5.0%)を達成した。
需要項目別に見ると、前期に続いて政府支出の落ち込みが成長率の低下に繋がったことが分かる(図表1)。
民間消費(対家計民間非営利団体含む)は前年同期比5.03%増(前期:同5.04%増)と、5期連続で5%台の堅調な伸びを維持した。食料・飲料や保健・教育、輸送・通信が堅調に推移する一方、ホテル・レストランやアパレルが伸び悩んだ。
また政府消費は前年同期比4.05%減となり、前期の同2.97%増から一段と低下した。予算執行は年前半まで順調だったが、歳入不足に伴う予算削減の影響で2期連続のマイナスとなった。
総固定資本形成は前年同期比4.80%増と、前期の同4.24%増から上昇した。建設投資こそ鈍化したものの、自動車の大幅増加や機械・設備の落ち込みが和らいだことが追い風となった。
外需については、輸出が前年同期比4.24%増(前期:同5.65%減)と大きく上昇して9期ぶりのプラスに転じた。輸出の内訳を見ると、サービス輸出は鈍化したものの、財輸出は非石油・ガスを中心に増加した。また輸入は前年同期比2.82%増(前期:同3.67%減)と資本財輸入の増加を受けて上昇した。その結果、外需の成長率への寄与度は+0.34%ポイントと、前期(▲0.52%ポイント)から拡大した。
供給項目別に見ると、農林水産業が上昇したものの、サービス業と鉱工業が前期に続いて鈍化した(図表2)。
鉱工業では、鉱業が同1.60%増と金属鉱石の増加や石炭の減少幅の縮小を受けて前期の同0.29%増から上昇したものの、製造業が同3.36%増(前期:同4.52%増)、建設業が同4.21%増(前期:同4.95%増)とそれぞれ低下した。
サービス業では、情報・通信が同9.57%増(前期:同8.95%増)と引き続き高い伸びを記録した。しかし、卸売・小売が同3.90%増(前期:同3.59%増)、ホテル・レストランが同4.47%増(前期:同4.68%増)、運輸・倉庫が同7.85%増(前期:同8.26%増)金融・保険が同4.18%増(前期:同9.04%増)、不動産が前年同期比3.65%増(前期:同3.97%増)、ビジネスサービスが同6.83%増(前期:同6.95%増)、行政・国防が同0.27%増(前期:同3.80%増)と全体的に低下した業種が多かった。
農林水産業は同5.31%増(前期:同3.03%増)と、エルニーニョ現象の影響で落ち込んでいた前年同期からの反動で上昇した。
10-12月期GDPの評価と今後のポイント
10-12月期は2期連続の景気減速となった。もっとも10-12月期の成長率は2015年の成長率(前年比4.88%増)を依然として上回っており、景気の回復基調が腰折れしたわけではないようだ。
インドネシア政府は税収不足への対応として7月に租税特赦制度を実施したものの、昨年の歳入額は補正予算の目標額の86.8%に止まり、このことが10-12月期の政府消費と建設投資の落ち込みに繋がったとみられる。このような逆風下でも成長率の低下が小幅だったことを考慮すれば、インドネシア経済は底堅いと評価できる。
経済を支えているのは、GDPの約6割を占める民間消費だ。民間消費は5%台で堅調な伸びを維持している。2016年はインフレ率が中銀目標の3-5%の下方で安定して推移し、中央銀行は計6度の利下げを実施してきた(図表3)。また昨年後半に景気が底打ちしたことに伴い、消費者信頼感の改善傾向が続いていることも消費をサポート要因となっている。
しかし、今後は燃料価格の上昇とベース効果の剥落でインフレ率が上昇すると見込まれる。中央銀行も今後の政府統制価格の引上げ、燃料補助金の改革、食品価格の上昇といったインフレリスクに警戒感を示している。
さらに昨年の米大統領選以降、金融市場では不透明感が高まっている。米国の利上げ観測は一時的に後退しているものの、今後のインドネシア中銀の追加利下げは限定的と予想される。つまり、インドネシア経済の底堅さの背景にあった低インフレと緩和的な金融政策が今後も継続するとは見込みにくくなっている。
しかしながら、これまで低迷してきた輸出と投資が回復したことは好材料だ。世界経済の緩やかな拡大がつづくなかで、輸出はプラスに転じ、今後も拡大基調が続くと予想される。また足元の中国経済の安定や資源価格の上昇を受けて、企業の投資意欲も持ち直しつつある。実際、段階的な金融緩和も追い風となり、11月の銀行の貸出残高は8.5%増と、9月の同6.4%増を底に上昇し始めている(図表4)。
従って、先行きは輸出と投資の回復が賃金上昇と雇用拡大を通じて民間消費へと波及するといった経済の好循環を生みだせるかが同国の景気回復基調を占うポイントとなるだろう。
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(1)2月6日、インドネシア統計局(BPS)が2017年10-12月期の国内総生産(GDP)を公表した。
(2)Bloomberg調査
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
研究員
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