売れっ子コピーライターのメモを大公開!
クリエイティブ・ディレクターやコピーライターとして、これまでさまざま企業のブランディングや新商品の開発、広告戦略、広告制作などに携わってきた小西利行氏。その卓越したアイデアは、いつも手書きのメモから生まれている。発想力や課題解決力が飛躍的に高まる小西流メモ術の秘密を紹介しよう。
会話が活性化するメモの秘密
会議やミーティングの内容をひたすら書き写す板書型メモ。さまざまな企業のブランディングや広告制作で数多くの会議に参加してきた小西氏は、「そんなメモには意味がありません。後で資料や議事録をもらえば済む話です」と切り捨てる。
それよりも、ミーティング中は、自分が「なぜ?」「面白い!」と感じた発言だけをメモしたほうがよいと語る。「なぜ?」を掘り下げていくことで、クライアントの課題や解決策が明確になってくるからだ。
「たとえば『春物服の売上げを20%アップさせる』という課題を持つ企業のミーティングに臨んだとします。このとき『なぜ、春物の服を積極的に売るの?』と疑問を抱いたら、その疑問をメモし、参加者に尋ねてみます。すると、『春は衣料品の動きがいいから』『春はファッション誌の売上げがいいらしい』などといった答えが返ってきます。
その中から、『面白い!』と感じたものだけをメモし、『でもなぜ春はファッション誌が売れるの?』と新たな質問を重ねていくのです。こうして『なぜ?』を繰り返すうちに、『春物が売れる理由』や『誰が買っているのか』が明確になってくるので、『もっと売れるためにはどうすればいいか』といったアイデアが生まれます」
小西氏はミーティングの際、参加者でメモを囲みながら話し合うという。発想が刺激され、会話が活性化されるからだ。
取材中、編集部からの「小西さんはいつもどんなふうにメモをしているんですか」という質問に対して、「たとえばですね」と言いながら書いてくれたのが、このメモ。参加者の発言の中から「なるほど!」と思ったものをメモしていくが、その中でもさらに深掘りする必要があるものには「◎」のマークをつける。逆に実現性や重要度が低いものには「△」や「×」をつける。また、女性向けの春物服について議論しているときに、「でも最近は男物のほうが売れ行きがすごいですよ」といった、興味深い新情報が出てきたときには、イラストや吹き出しなどを使ってわかりやすく追加しておく。議論のプロセスやポイントが、一目瞭然でわかるメモになっている。
メモがそのまま指示書に!
また、ミーティング後は、メモ自体を指示書として使う。
「たとえば『なぜ?』の中には、調べないと答えが出てこない類のものもあります。そんなときには、メモに『? 田中』と書いておけば、田中さんがそれを調べる係に指名されたことになるのです。メモが指示書となることで、『次回のミーティングまでに、各自が何をすべきか』が明瞭になります。
また、メモは自分への指示書としても役立つという。
「メモは一人で物事を考えるときにも使います。その場で疑問が解決できないものについては、やはりメモに『?』と書いて、後で自分で調べたり考えたりするようにしています。メモは、一緒に仕事をする仲間への指示書になり、未来の自分への指示書にもなるのです」
現在テレビで放映されている不動産・住宅情報サイト「HOME'S」のCMは、小西氏のチームが手がけたもの。このメモは、そのミーティングの際のメモを再現したものだ。「HOME'S」は、掲載物件数がナンバーワンで顧客満足度も圧倒的に高いが、さらなるブランド認知を獲得するという課題があった。小西氏はメモに「想起は低い!」「なぜ?」と書き込んだうえで、みんなでその疑問を深掘りしていった。その結果出てきた仮説は、「『HOME'S』は一般名詞であるために、ブランドとして認知されにくいのではないか」というものだった。そこでキャラクターの「ホームズくん」を、ちょっとドジだけど、人のために一生懸命努力するキャラクターとして、CMに興味を持ってもらい、認知度アップを狙うことにした。あの「♪おウチ見つかる、ホームズくん。」のCMは、メモを使って「なぜ?」を深掘りする中から生まれたわけだ。
小西利行(こにし・としゆき)コピーライター
1968年生まれ、京都府出身。大阪大学卒。博報堂を経て2006年に独立し、POOL inc.を設立。CM制作から商品開発、都市開発までを手がける。主な仕事にサントリー『伊右衛門』やPlayStation「できないことが、できるって、最高だ。」、一風堂の国内&世界戦略プロデュース、??野家のブランディングなどがある。近著は『すごいメモ。』(かんき出版)(取材・構成:長谷川敦 写真撮影:永井浩)(『
The 21 online
』2017年1月号より)
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