フィリピン,投資先,再評価
(写真=PIXTA)

同国は、第2次世界大戦終結後の 1950-60 年代には、一人当たりGDP(国内総生産)で、日本に次ぐアジア第2位のポジションにあった。その後、韓国・香港・台湾・シンガポールのアジアNIEs(新興工業経済地域)が大きな経済発展を遂げ、次いで、タイやマレーシアなどが外資の積極的な導入を図り工業化や輸出の拡大を推進する中、フィリピンはその流れに乗り遅れ、長らく経済が低迷した。

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左のグラフは、フィリピン・タイ・インドネシアの一人当たりGDPの推移であるが、1980年時点では、三国がほぼ同水準ながらフィリピンが最上位にあったが、先ずタイに大きな差をつけられ、その後、インドネシアの後塵を拝するようになっている。

そのフィリピンが、近年の政情の安定化傾向、経済成長の持続という環境下で、製造業の生産拠点、製品・サービスの消費市場として注目され、企業の新規進出や既存拠点の拡大の人気ターゲットとなっている(例えば、国際協力銀行による年次調査の「中期的有望事業展開先」のランキングで、2012年の15位が、13・14年は11位、15・16年は8位と上昇している)。

1億人を超える人口規模、若年者のウェートが大きく周辺国に比べコストが低廉な労働市場、英語の通用度の高さ、消費者の購買力の向上、および投資優遇策など投資条件・環境の改善等が海外の企業や投資家から見た魅力となっている。

産業面での近年の特徴点は、同国が、インド等と並び、BPO(Business Process Outsourcing:業務委託)ビジネスの一大拠点になっていることであり、ソフトウェア開発、コールセンター業務、各種の事務代行業務に加え、アニメの製作(作画・仕上げ・背景作業等)でも大きな役割を果たしている。さらに、英語学習(オンラインによる英会話学習を含む)においても存在感を増している。

英語の通用度が高く、バスケットボールが大人気のスポーツであることは、米国の影響(1898年以来の統治、および、1946年の独立後も深い関係あり)として理解できる。また、企業分野において華人系財閥グループの存在が目立つことは、タイやマレーシアなど他のアセアン諸国にも共通する事象である。

他方、同国がアジアの他国と異なる大きな特徴は、300年を超える長期にわたるスペイン統治時代の影響によって形成された、南欧や中南米のラテン諸国にも似たユニークな文化と国民性であろう。

以下にその幾つかの事例を挙げたい。

先ず驚くのは、4ヶ月も続くクリスマスシーズンの長さである。暑い気候の同国であるが、クリスマスの飾りつけは、早くも9月に始まり12月までお祭り気分を楽しむ。この事は、カトリック系のキリスト教徒が人口の大宗を占める事、陽気でお祭り好きな国民性を反映している。

次に、名前の点を挙げたい。多くのフィリピン人がスペイン系の名前を持っており、歴代の大統領は、全員がスペイン系の名前である。例えば、現職のドゥテルテ氏から、1965年以来20年を超える長期政権を担ったマルコス氏までの7名を遡ってみても以下のとおりである(華人系フィリピン人として知られるアキノ氏もスペイン系の名前を持っている)。

ロドリゴ・ドゥテルテ(現職)、ベニグノ・アキノ3世、グロリア・アロヨ、ホセ・マルセーロ・エヘルシト(エストラーダ)、フィデル・ラモス、コラソン・アキノ、フェルディナンド・マルコス

また人名ではないが、日本のキリングループが大株主となっている同国の著名ビールブランド「サンミゲル」も聖ミカエルのスペイン語表記である。また、フィリピンという国名自体も、スペイン皇太子フェリペ(後のスペイン国王フェリペ2世)に因んでいる。

さらに、企業セクターにおいて、わずかな人口比率ながら有力な華人系の財閥グループのウェートが大きい点は、上述のとおり他のアセアン諸国と共通するが、フィリピンで最も古い歴史を持つ名門財閥グループであり、産業界で非常に大きな影響力を持つのはスペイン系のアヤラ財閥である

。同財閥は、共にスペイン人の血を引くドミンゴ・ロハスとアントニオ・デ・アヤラの両氏によって1834年に設立された会社がその起源であり、現在では幅広い分野に展開するコングロマリットとして、小売、不動産、銀行、通信、水道インフラ、再生可能エネルギー、エレクトロニクス、情報技術、自動車、ヘルスケア、教育、BPOなど多岐にわたって事業を行っている。

以上、フィリピンにおけるスペインの影響度の大きさについて述べた。国や地域の文化は、歴史の中で、様々な要素が、地層のように蓄積(堆積)し融合していくものと考えられる。フィリピンの場合には、マレー系の土着文化、華人文化、スペイン・米国の元統治国の文化などが同国の文化の形成に寄与しているが、中でも、スペインの影響が大きいと感じる。

このような「アジアのラテン」とも呼ばれるユニークな文化と国民性を有する同国が、ドゥテルテ新大統領の下、久しぶりに巡ってきたフォローの風を活かして、更なる発展につなげられるかに注目したい。

平賀富一(ひらが とみかず)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主席研究員 アジア部長 保険研究部兼経済研究部 General Manager for Asia

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