重要な点は、起こりそうな(最も実現可能性の高い)シナリオを予想してそれに賭けるのではない、ということである。それでは起こり得るシナリオの一部しか考慮していない。他のシナリオを切り捨てている。「丁の目に張る」「サトノダイヤモンドの単勝一点買い」と同じ、つまり、博奕である。最も起こりそうなシナリオを予想してそれに賭けることと、相場の張り方は違うということだ。
細かくパターン分けをすればきりがないので、ここでは思い切り単純化した二者択一のケースに絞る。FOMCでの焦点は政策金利の引き上げペース。年3回維持か、4回に加速するか。オランダ議会選はウィルダース党首率いる自由党が第一党をとるか否か。
FOMCのケース
ドットチャートに変化はあっても、あくまで中央値が示唆する今年の利上げ回数は3回にとどまる。これがメインシナリオだろう。4回の利上げを見込む向きも増えているが、コンセンサスを形成するには至っていない。確率を付与すれば6:4程度となるのではないか。6割の確率で利上げは年3回のまま。4割の確率で年4回に利上げペースが速まる。
メインシナリオ通りなら静観が無難だろう。場合によっては失望売りが出かねない。しかし、利上げ加速というシナリオを見込んで相場が動いていないので、そもそも期待が高くないから失望売りも限定的である。一方、4割の低い確率のサブシナリオが実現したら、相場が織り込めていないだけに大幅な円安となり、株価も上昇するだろう。日経平均は2万円付近まで吹き上がるかもしれない。
そう考えれば、メインシナリオが実現してもダウンサイドは限定的(例えば50円安程度)で、サブシナリオが実現すれば大幅なアップサイド(例えば400円高して2万円到達)がある。確率×リターンで期待値を合計すれば、「今回のFOMCというイベントの期待値」はプラス(60%×▲50+40%×400=130)である。
よってFOMCイベント前には買いから入るのが正解だろう。
オランダ議会選挙のケース
直前の世論調査で自由党の支持率が下がり市場では警戒感が若干後退している。議席を伸ばしたとしても連立を組めないので政権を獲るには至らないという見方も楽観ムードの背景にある。しかしこれはBREXITと同じパターン。世論調査はあてにならないと学んだはずである。こういう状況で自由党が大きく議席を伸ばせば、連立政権が組めるとか組めないとか関係なくパニック売りが広がる可能性がある。フランスの大統領選への思惑につながるからだ。自由党勝利の確率は低いけど、それが起きた時の市場の反応は大きくマイナス、その逆のケースでは相場はほぼ横バイだろう。よってオランダ議会選の期待値はマイナスである。
時間軸を考えれば、プラスの期待値であるFOMCイベント前には買いで臨み、それが判明した東京時間の朝には手仕舞うのがよいだろう。いうまでもないが、あくまで短期のトレーディングに限る話である。
もうひとつの重要なポイントは、ここで言う確率は「真の確率」ではない、ということだ。サイコロの出目やコイントスの場合、真の確率が分かっている。天気予報の降水確率はデータに基づく分、精度が高い。しかし、ここで挙げた、6:4で利上げ3回、とか6:4で自由党が第一党にならない、という確率は、主観確率 - すなわち市場が見ている「あてずっぽう」の確率である。そこにはバイアスや歪みがある。それを獲りにいこうというトレーディング戦略である。
メインシナリオ通りなら儲からない。しかし、期待値を考えれば、ベットする(賭ける)価値はあるだろう。
広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券
チーフ・ストラテジスト
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