何とも複雑な気分だ。
2月15日付の 『銀行を見捨てる「女性行員たち」 なぜ、彼女たちは転職を選ぶのか?』 が私の職場でも話題となっており、SNSでもかなり拡散している。まさか、私が書いているとは誰も思っていないだろうが。

つまり、それだけ状況は深刻なのだ。いまや銀行は衰退産業と言って良いのかも知れない。逃げ出すべきか、それともこのままとどまるべきか。多くの銀行員がそんな迷いを心の底に抱いているのだろう。

だが、銀行員は転職で幸せになれるのだろうか? 多くの仲間が銀行を去る中で、そんな疑問はどうしても拭いきれない。そこで、試しに保険会社、証券会社に私自身を売りこんでみた。見えてきたのは意外な「壁」だった。

勉強会という名の「ご褒美」

銀行員が転職を考える際の有力な候補の一つが保険会社だ。とりわけ外資系保険会社は中途採用に積極的である。実際、銀行を辞めて保険会社へと転職する人間は数多い。銀行では様々な保険商品を販売しており、保険に関する知識や販売ノウハウを有している銀行員も多い。保険会社との交流もあり、転職先として真っ先に浮上する。

その日、外資系保険会社が主催する「銀行員向けの勉強会」が品川駅近くのホテルで開催されていた。勉強会には全国から銀行員が集まる。銀行員はどんなに営業成績が良くても、それが直接報酬に反映されるわけではない。成果をあげた行員も、何もしなかった行員も差が付かないのでは、現場のモチベーションも上がらない。

そこで、保険会社や投信会社が主催する勉強会やセミナーに、銀行を代表して参加させてもらえることが、ある種の「ご褒美」として利用されている。だから、こうした勉強会は決まって金曜日の午後に開催される。午後から半日勉強したあとは、フリータイムを満喫できるということだ。

もっとも、こうした「ご褒美」は銀行に限ったものではないだろう。私を担当している自動車ディーラーのセールス氏など、ご褒美はドイツのメーカー本社で開催されるセミナーへの参加というから、銀行員の「ご褒美」なんて可愛いものなのかも知れない。

外資系保険会社「数年後、ほとぼりが冷めた頃に」

「もし、御社へ転職したいと私が切り出したら」バーカウンターにグラスを置くと、私はおもむろに言った。「雇ってもらえますか?」

相手は外資系保険会社の役員だ。勉強会後の懇親会、二次会のあとに立ち寄ったバーで打診してみた。どんな返事か興味津々だったが、即座に答えが返ってきた。

「それはあり得ませんね。確かに、銀行から多くの人を採用しておりますが。でも、エース級を引き抜くなんてことになれば、銀行との関係が悪くなります」役員はそう言った。「どうしても、ということであれば、一旦他の会社で働いてもらって、数年後、ほとぼりが冷めた頃に採用させて頂くという手はないわけではありませんが、そんなことは望んでおられませんでしょ」

もちろん、私も転職の打診を目的に勉強会に参加したわけではないし、保険会社も人を引き抜くために勉強会を開催しているわけではない。その役員も私の話を冗談半分に受け止めたのかも知れない。

だが、私を引き抜くことで銀行との関係悪化を懸念しているとは意外だった。少なくとも銀行で営業成績が良ければ転職に成功し、幸せになれるわけではなさそうだ。

大手証券会社「うちへ来れば2500万円くらい稼げるでしょう」

銀行員の有力な転職先として、保険会社と並ぶのが証券会社だ。証券会社では銀行とは比較にならないほど、複雑で様々な金融商品を取り扱うことができる。個別の株だって販売できる。営業の腕に覚えがある銀行員ならこんな世界で勝負したくなるのも当然だ。

その夜、私は大手証券会社の役職者と居酒屋で飲む約束をしていた。銀行本体では様々な金融商品を証券会社から購入し運用を行っているほか、証券仲介業務というかたちで証券会社の金融商品も販売している。証券会社にとって銀行はお得意様でもあるのだ。先の外資系保険会社の役員はスマートな印象であったが、その証券会社の人物は体育会系のノリだ。旧知の間柄ということもあり、互いに仕事の愚痴をこぼしながら盛り上がる。

「ところで」私は切り出した。「もし、御社に転職したいと私が言いだしたらどうなりますか?」

今日の相手は信頼できる。これまでの仕事の付き合いからもそれは良く分かっている。決しておべんちゃらを言うこともないし、都合の悪いことも正直に話してくれる相手だ。それだけに本音の話が聞けると期待も高まる。

「そうですね」彼は言った。「去年1年間でどれだけの金融商品を売りましたか?」

「投資信託、債券、保険すべて合わせて、年間の販売額は15億円くらい、収益にすると約9200万程度ですね」

「それなら、うちへ来れば2500万円くらい稼げるでしょうね。頑張れば3000万円稼げるでしょう……でもね」彼は続けた。「転職は絶対に無理です。銀行が手放すわけないですよ。だって、そんなことしたら銀行に喧嘩売ることになりますからね。100%あり得ません」

「壁」が崩れ、人材の草刈り場になる日も遠くない

正直私は愕然とした。もちろん、彼らは私が本心から転職を望んでいないことを察していたのかも知れない。だが、成果をあげれば、能力があれば、それを認めてくれる人が必ずいるはずだ。単純にそう考えていた私に彼らの答えは冷酷だった。そこには銀行との関係悪化を懸念するという「壁」が存在したのだ。

しかし、そんな厳しい状況でも、多くの仲間たちが銀行から去っているのも事実である。銀行という島が、いよいよ沈み始めたとき、銀行員の転職を阻む「壁」も崩れ去ることになる。とりわけ業界再編が加速する地方銀行において、人材の草刈り場になる日も、そう遠くないのかも知れない。(或る銀行員)

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