ただ「気持ち良い」だけではない!
お風呂に入るとリラックスできるというのは、誰しも体感しているところだろう。だが、実はリラックスだけでなく「ストレス耐性を強くする」入浴法もあるのをご存じだろうか。自分の状況に応じて使い分ける「賢い」入浴方法を、温泉療法を実践している江の島弁天クリニックの松村浩道氏にお聞きした。
ゆっくり入ればリラックス効果は絶大に
入浴がメンタルに与える効果は、お湯の温度によって異なります。大まかに言うと、37~40℃のぬるめのお湯ではリラクゼーション効果が、40~42℃の熱めのお湯では抗ストレス作用を高める効果が得られます。
ぬるめのお湯に入るとリラクゼーション効果があるのは、副交感神経が優位になるからです。
人は、緊張状態にあるとき、交感神経が優位になって血管が収縮します。一方、リラックスしているときは副交感神経が優位になり、血管が拡張して末梢にまで血液が行きわたります。つまり、「リラックスすれば身体が温まる」のですが、逆もまた真で、身体を温めることによって、副交感神経を優位にし、リラックスすることができるのです。
しかし、42℃以上の熱めのお湯に入ると、逆に交感神経が優位になってしまいます。ですから、リラクゼーション効果を得るためには、42℃未満、できれば37~40℃のぬるめのお湯に、ゆっくりとつかることが大切です。
入浴に時間をかける大切さを、ビジネスマンは得てして忘れがちです。「明日も早いから」などと、入浴を手早くすます人が多いのは残念なことです。
ストレスに強くなりたいなら「熱めのお湯」で
熱めのお湯に入ると抗ストレス作用が高まるのは、「HSP(ヒートショックプロテイン)」が増加するからです。
HSPは「傷ついたタンパク質を修復するタンパク質」です。
私たちの身体は、水分を除くと、ほとんどすべてタンパク質でできています。筋肉や皮膚、神経などだけでなく、メンタルの状態を大きく左右する神経伝達物質もタンパク質でできています。
そして、そのタンパク質は日々の生活のストレスで傷つきます。それを修復してくれるのがHSPなのです。HSPは抗ストレス作用を持った物質だということです。
HSPはストレスを受けたときに誘導されるのですが、とくに熱ストレスによって大きく増えます。ですから、熱めのお湯に入ることでHSPを増やすことができ、ストレスによるさまざまな悪影響を予防することができるわけです。
具体的には、高齢者や心疾患などの持病がある人でなければ、42℃のお湯に10分間、肩までつかるといいでしょう。41℃のお湯に15分間でも、40℃のお湯に20分間でもかまいません。ポイントは深部体温を38.5℃まで上昇させることです。できれば、舌下で体温を測りましょう。
やってみるとわかりますが、この入浴法をすると、大量の汗をかきます。ですから、十分な水分補給も大事。500~750mlほどの水をペットボトルに入れて、浴室に持ちこむのがいいでしょう。冷水だと体温上昇を阻んでしまうので、常温で飲むことも大切です。
肩までつかって体温を上昇させたら、その状態を20分間保つこと。半身浴や足湯に移行したり、浴室から出るならタオルケットやバスローブで身体を包んだりしましょう。20分が経過したら、あとは自然な体温低下に任せます。
以上の「HSP入浴法」を1度すれば、個人差がありますが、2~3日間にわたってHSPが多い状態が続きます。ですから、熱いお湯に入るのは週に2~3回で大丈夫。他の日は、最初にお話しした「ぬるめのお湯にゆっくりと入る」入浴をして、副交感神経を優位にしてください。
温泉の泉質はここをチェックしよう
ここまで自宅での入浴についてお話ししてきましたが、温泉には自宅での入浴よりも高い効果があります。
ハードな仕事で交感神経優位の状態が続くと、メンタルの疲労が蓄積します。我慢し続けた末に、ある日、うつ病を発症する、ということにもなりかねません。ですから、ストレスが溜まってきたと感じたら、温泉へと出かける「積極的休養」を取ることをお勧めします。
温泉にはさまざまな泉質のものがありますが、中でも「ナトリウム塩化物強塩泉」は別名「熱の湯」とも呼ばれ、温熱効果が抜群です。ナトリウムが皮脂と反応して皮膚の表面を覆う膜を作り、保温してくれるからです。その膜が取れてしまわないよう、入浴後は身体を洗い流さず、バスタオルで身体を包みこむのがいいでしょう。
自宅でも、塩など、ナトリウム塩化物を含んだ入浴剤を使うことで、同様の効果が期待できます。
別名「心臓の湯」と呼ばれる炭酸泉は、末梢血管拡張作用が強いことがわかっています。自宅なら、炭酸ガスを出す入浴剤を使うことで、身体の隅々まで温めることができます。
泉質の他にも、温泉には自宅での入浴よりも優れた点がさまざまあります。
ユニットバスよりも広い浴槽のほうが、また、普通の入浴よりも露天風呂での入浴のほうが、ストレスの減少やリラックス度の増加が見られることも知られています。
また、温泉地は、山の中など、自然の豊かな場所にあることが多いので、日頃の環境から離れた場所に身を置くことで緊張がリセットされる転地療法や、森林浴の効果も期待できます。森林の木々に含まれるテルペンなどの揮発性物質は、ストレスホルモンの1つであるコルチゾールを減らす働きを持っているのです。
古くから、温泉には病を癒す力があると考えられてきましたが、その効果・効能が科学的に検証されるようになってきています。時折、意識的に温泉地に足を運ぶことは、ビジネスマンとして長くコンスタントに成果を上げるために有効な習慣だと言えるでしょう。
松村浩道(まつむら・ひろみち)江の島弁天クリニック院長
1966年生まれ。米国ストレス研究所日本支部代表。日本医科大学卒業。同大学附属病院麻酔科、関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)ペインクリニック科などを経て現職。痛みの治療に携わる中で温泉医学や東洋医学、精神医療などの研究を深め、心身相関・脳腸相関を重視した全人的・包括的診療を行なっている。著書に『対人関係のイライラは医学的に9 割解消できる』(マイナビ新書)、『脳腸相関で未病を征す』(七星出版)がある。(取材・構成:林 加愛)(『
The 21 online
』2017年3月号より)
【関連記事 The 21 onlineより】
・
40代ビジネスマンがストレスを抱える理由
・
「これ以上引きずらない」ためのストレス対処法
・
ストレスを味方にする11の習慣
・
人間関係に悩まないための「魔法の言葉」とは?
・
話題の「マインドフルネス」で、折れない心を手に入れる