景気の現状判断DI(季節調整値):3ヵ月連続の悪化

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4月10日に内閣府から公表された17年3月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DI(季節調整値)は47.4と前月から▲1.2ポイント悪化し、3ヵ月連続で悪化した。景況感は昨年夏場以降緩やかな回復を続けていたが、2017年に入り、停滞感を強めている。内閣府は、基調判断を「持ち直しが続いているものの、引き続き一服感がみられる」に据え置いた。

今回の調査では、家計動向関連は、引き続きインバウンド需要が好調だが、飲食関連や住宅関連の業種で消費に慎重な姿勢がみられ、景況感を押し下げた。新型車投入の効果から乗用車・自動車備品販売店の景況感は高水準を維持しているものの、円安・株高の流れが年初から一服していることを受けて消費意欲が低下している可能性がある。企業部門においては、仕入れ価格の上昇による採算悪化や人手不足感の高まりが景況感を押し下げた。

インバウンドは好調も、国内客の消費は冴えない

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、家計動向関連(前月差▲1.1ポイント)、企業動向関連(同▲1.7ポイント)、雇用関連(同▲0.5ポイント)のいずれも前月から悪化した。家計動向関連では、サービス関連(前月差0.0ポイント)は横ばいとなったが、住宅関連(同▲4.8ポイント)、飲食関連(同▲3.2ポイント)、小売関連(同▲1.0ポイント)が全体を押し下げた。

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コメントをみると、家計動向関連では「インバウンド売上はどの月も前年を上回っており、免税手続きのカウンターは常に行列となっている」(近畿・百貨店)など、引き続きインバウンド需要は好調だ。特に、化粧品や雑貨の売上が好調で、「インバウンドは、都心店で前月同様に化粧品需要が大きく伸びており、堅調である」(南関東・百貨店)といったコメントが目立った。他にも、「競合他社の状況をみると、各社とも売上が伸びてきている。新型車の効果が市場の伸びにつながってきている」(北海道・乗用車販売店)など、新型車の販売が好調であり、乗用車・自動車備品販売店のDI(原数値)は節目となる50を5ヵ月連続で上回っている。一方、「送別会の利用が例年並みに推移している。卒業祝いや合格祝い等の家族のイベントが、例年より若干単価が低い。個人客の先行きを不安視している様子がうかがえる」(北陸・高級レストラン)や「客は二次会には行かず一次会で済ます合理化傾向がみられる」(中国・一般レストラン)など、消費者の節約志向の強まりを警戒するコメントが飲食店を中心にみられた。また、住宅関連でも、「年度内に契約に至らなかったものが多く、住宅を買う動きが鈍い」(九州・住宅販売会社)や「戸建住宅を中心に、全体的に低調である。賃貸住宅も前年割れが出始めており、安定感が損なわれつつある。ユーザーの慎重さは変わらず、商談に時間がかかっている」(南関東・住宅販売会社)とのコメントのように、二の足を踏む住宅購入者が増えているようだ。

企業動向関連では、製造業(前月差▲1.1ポイント)、非製造業(同▲2.3ポイント)ともに3ヵ月連続で悪化した。コメントをみると、製造業では「受注・売上量が減少し、受注・販売価格も低下傾向にある。さらに主要材料のスクラップ価格が上昇しており、採算は悪化している」(四国・鉄鋼業)などのように、原材料価格の高騰による収益悪化が景況感を押し下げたようだ。非製造業では、「物量は、前年並みからプラスで推移しているが、人手不足や軽油価格の上昇で、コストも増加している」(東海・輸送業)や「最近、小規模の同業他社の廃業が数社続いている。技術者不足等をお金をつぎ込んで解消しようとするほどは、当地方の景気が良くないためではないか」(建設業・南関東)といったように、一部業種において人手不足が事業に支障をきたしているとのコメントが目立った。

雇用関連では、「人材確保が難しくなっているため、派遣採用時の時給もやや上昇している」(東海・人材派遣会社)や「派遣先の企業による利用が、派遣社員から契約社員や正社員にシフトする動きが活発化してきている」(近畿・人材派遣会社)など、人手不足感が高まる中、人材を確保するために待遇改善を進めているようだ。

景気の先行き判断DI(季節調整値):2ヵ月ぶりに悪化

先行き判断DI(季節調整値)は48.1(前月差▲2.5ポイント)と2ヵ月ぶりに悪化し、節目の50を2ヵ月ぶりに下回った。先行きの景況感は2017年に入り一進一退の動きが続いている。先行き判断DIの内訳をみると、家計動向関連(前月差▲2.6ポイント)、企業動向関連(同▲1.7ポイント)、雇用関連(同▲4.0ポイント)のいずれも悪化した。

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家計動向関連では、「トイレットペーパー等の紙類、サラダ油等の値上げが予定されている。今後、更に節約志向が高まりそうである」(北陸・スーパー)など、新年度からの食料品や日用品の値上げにより一段と消費者が節約志向を強めると不安視するコメントが目立った。

企業動向関連では、「原材料価格は上がるものの、販売価格に転嫁できず、行き詰っている」(南関東・精密機械器具製造業)などのように、販売価格への転嫁は難しいとするコメントが多く寄せられた。「需要減少のなか、中国経済減速、原油・資源価格動向、地政学上のリスク、米国や欧州の政治動向など、不透明感が強まっている」(四国・一般機械器具製造業)といったように、トランプ政権の動向を始め世界情勢について不安視する声が目立った。

雇用関連では、「競合他社との求職者の取り合いはますます激しくなり、人材の採用コストが増大する」(東海・人材派遣会社)など、希望する人材を確保するコストが増していくことを懸念するコメントがみられた。

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なお、2月末から始まったプレミアムフレイデーについては、2月は初回だったこともあり、現状判断・先行き判断の理由として言及したコメントが一定数みられた。一方、3月は年度末の実施となったこともあり、コメント自体が少なかった。

「プレミアムフライデーについては、まだ一般的に定着しておらず、継続して各種サービスを実施し集客策として育てている最中である」(南関東・百貨店)といったように、前向きなコメントもみられたが、「プレミアムフライデーの影響は皆無で、客からは何も聞こえてこない」(南関東・都市型ホテル)と効果がなかったとするコメントがほとんどだった。

景況感は、円安・株高による支えがなくなり、停滞感が強まっている。地政学リスクやトランプ新政権の政策運営など海外情勢の不透明感が高まっており、金融市場が不安定になれば、一段とマインドに悪影響をもたらす可能性がある。仕入れ価格の上昇や人手不足も企業経営の足枷となっており、不安要素が増えている。

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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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