欧米 混迷深まるフランス大統領選挙-極右対極左の決選の可能性も浮上 結果は予断を許さない
要旨
今月23日に第1回投票が迫るフランス大統領選挙の混迷の様相が深まっている。
5月7日の第2回投票(決選投票)は、中道のマクロン候補と極右の国民戦線のルペン候補の対決となりマクロン氏が勝利する見通しだ。しかし、左翼党のメランション候補の支持の急伸で、極右対極左の決選の可能性が浮上するなど、結果は予断を許さない。
主要な候補者の公約は結果を占う上でも、経済や金融市場に及ぼす影響を考える上でも重要だ。ルペン対マクロンの決選投票は「愛国主義対グローバリズム」という対立軸が強調されるおそれがある。都市対農村、エリート対非エリートの様相もあるが、世代間の対立という傾向は強くはない。年齢層による濃淡ないことはマクロン氏の強みだ。
市場は、愛国主義とEUやユーロの離脱を掲げるルペン大統領の誕生を警戒しているが、法と議会が壁となるため、公約を直ちに、そのままの形で実現することは難しい。
「EUの残留か離脱かを問う国民投票」のカードをちらつかせながら、EUにフランスに有利な条件を引き出すことを、当面の目標とするだろう。ドイツとともに統合の枠組み作りを担ってきたフランスが、次々とEUの政策に反旗を翻し、主権の奪還を求めるような事態となれば、EUは立ち行かなくなるおそれがある。
トランプ氏の勝利後の株高、ドル高、金利高というトランプ・ラリーのようなルペン・ラリーはあり得ない。世界や日本の経済への持続的な影響もないだろう。
フランス大統領選挙は、これまで異例ずくめの展開が続いてきたが、今月23日の第1回投票を前に、混迷の様相が益々深まっている。
第1回投票で過半数を超える候補者が現れなかった場合、上位2名で争われる5月7日の第2回投票が、極右対極左の決選となる可能性まで浮上してきた。昨年12月の右派の予備選直後は最有力候補と見られながら、妻や子への議員秘書としての給与の不正支給疑惑で伸び悩んでいた右派の統一候補・フィヨン候補が失速。その後は、極右・国民戦線の党首・マリーヌ・ルペン候補と前経済産業デジタル相で中道のエマニュエル・マクロン候補の決選になると想定されていた。今も、トップがルペン氏、第2位がマクロン氏と上位2名の顔ぶれは変わっていないが、4月4日の第2回テレビ討論以降、微妙に風向きが変わり、ともに勢いは鈍っている(表紙図表参照)。
台風の目となっているのは、2008年に社会党を離党した左翼党・党首で共産党の支持を受けるメランション候補だ。3月半ばまでは支持率で5番目の候補だったが、以後、急伸し、IfopとFIDUCIAL(以下、特記しない限り調査データは同社のもの)の第1回投票に関する最新の世論調査では支持率19%でフィヨン氏と並んだ。
メランション氏躍進の背景には、オランド政権の低支持率が象徴する与党・社会党への支持者の失望と社会党の分裂がある。社会党は今年1月の予備選で左派色の強いアモン候補を選出したが、支持率の低下傾向が止まらない。社会党の予備選でアモン氏に敗れたヴァルス前首相やルドリアン国防相など社会党の有力者が中道のマクロン支持を表明している。世論調査でもマクロン氏が社会党の支持者からアモン氏以上に支持されていることが確認できる。マクロン氏は、中道の民主主義運動・バイルー党首の支持を受け、右派のフィヨン氏の伸び悩みからも追い風を受けてきた。他方、より左派色の強い政策を好む社会党の支持者はメランション氏に流れているようだ。
極右対極左の決選の可能性も浮上するほど、失業やテロ対策に有効な手立てを打てなかったフランスの既存の政治、政党、政策への不信は深刻だ。
第2回投票はルペン対マクロン。マクロン勝利の見通し。だが結果は予断を許さない
ここにきてマクロン氏がやや失速気味とは言え、第2回投票がルペン対マクロンとなった場合、マクロン候補が勝利という結果は変わっていない。だた、2月7~8日のピーク時は、マクロン氏の支持率62%に対してルペン氏は38%と24%の差が開いていたが、直近は、58.5%対41.5%で差は17%まで縮まっている。
とは言え、第1回投票から第2回投票で、ルペン氏が得票率を伸ばす見通しであること自体、ルペン氏の父で、国民戦線の初代党首のジャン=マリー・ルペン氏が、当時現職の大統領だった右派・共和国連合のシラク氏に大敗した時と明らかに違う。2002年の大統領選挙では、主流派の政治勢力が極右の大統領阻止で結束したため、ルペン氏の得票率は第1回投票の16.9%に対して、第2回投票でも17.8%と殆ど伸びなかった。
これに対して、今回は、第1回投票でフィヨン氏を支持するが、第2回投票がルペン対マクロンとなった場合には、40%がマクロン、31%がルペン支持に回ると答えている。メランション氏の支持者では、43%がマクロン、15%がルペン、アモン氏の支持者では69%がマクロン支持に回り、ルペン氏は5%に過ぎない(図表1)。
但し、世論調査を信頼し過ぎるのは禁物だ。そもそも、IfopとFIDUCIALの支持率の調査は投票の意思がある人だけを対象としている。投票日が近づくに連れて、棄権の割合は低下しているが、それでも最新調査で31%を占める。メランション氏の支持率の急伸は、棄権の割合の低下とともに進んだ。今後の変動の余地はなお大きいと見るべきだ。図表2の第2回投票に関する調査でも、いずれの候補についても「棄権」や「わからない」と答えた割合が高い。マクロン対ルペンの17%という票差は圧倒的な優位を示すものとは言えない。
世論調査では、2回の投票を終えた後の、大統領選挙の結果に対する予測でも、マクロン氏の勝利が35%とリードしているが(図表2)、3月下旬の40%前後からやや後退している。ルペン氏勝利を予測する割合はマクロン氏に次いで高いが、15%に過ぎない。「わからない」という答えが21%という高い割合を占めており、結果は予断を許さない。
マクロン氏は、経済産業デジタル相を務めたものの、政治経験は豊富とは言えず、与党・社会党内の亀裂やフィヨン氏のスキャンダルという敵失で最有力候補に浮かび上がった面もある。右派、左派、中道の支持を広く集めているものの、支持基盤は盤石と言う訳ではない。
世論調査で各候補への投票の意思を表明した中で「支持を変えない」と答えている割合は、ルペン氏の84%で支持が固い。フィヨン氏が80%と続く。マクロン氏は68%と両者に見劣りする。メランション氏も68%と浮動票に支えられている面がやはり大きい。
非主流派でも立ち位置は異なるルペン氏とメランション氏
主要な候補者間の公約は、第2回投票での勝敗を占う上でも、大統領選挙の結果が、経済や金融市場及ぼす影響を考える上でも重要だ。
図表3には、第1回投票の世論調査で上位の5候補について、フランスのル・モンド紙が、今回の大統領選挙の候補者の公約の傾向を8つのカテゴリーについて分析した記事を基に示した。
図表1のとおり、第2回投票でルペン候補支持に回る割合は、第1回投票でフィヨン候補に投票する層で最も高い。極右のルペン氏と右派のフィヨン氏は、同性婚や生殖医療など社会政策面での保守主義や、多文化主義への慎重な立場、国家のアイデンティティーの重視などで類似した傾向があるからだろう。フィヨン氏の支持者のうち、財政規律や自由主義的な経済政策を尊重する、あるいはEU離脱やユーロ離脱などを望まない有権者は、ルペン氏よりもマクロン氏の支持に回るものと思われる。
左派のアモン、極左メランション候補からは、ルペン氏よりもマクロン候補に票が流れやすいのは、多文化主義に肯定的で、社会政策面では改革主義の傾向がルペン候補よりも強いからだろう。公共サービスの増強や、社会保障、経済政策といった面では、本来は、格差の是正、地方や弱者支援の強化を掲げるルペン候補の方が、マクロン候補よりも、アモン、メランション両候補に近い。
メランション候補は、既存の政治を批判する立場はルペン氏と同じだが、国民戦線を人種差別的、排外主義と批判する。既存の政党や政治への不信感は強く、新自由主義に抵抗があるが、排外主義ではない有権者の受け皿になっていると思われる。
メランション氏はEUに懐疑的だが、ルペン候補にように「離脱ありき」という立場ではない。自由貿易と競争を促進する新自由主義的な政策を推進し、民主主義や市民生活を脅かしており、抜本的な改革が必要という立場だ。メランション氏は欧州議会の議員であり、左翼党は欧州議会でスペインのポデモスやギリシャのシリザとともに社会主義・共産主義の会派「欧州統一左派・北方緑の左派同盟グループ」に属する。
左翼党のHPには、連携する各国の欧州議会議員らと共に今年3月に開催した「プランBサミット」の声明文が掲載されている。そこには、EUへの改革の提案が掲載されている。ECBが金融政策の目的を物価安定から完全雇用に改革し、EUの均衡財政ルールは撤廃、新たな政府債務は共有化し、新自由主義的政策と非民主主義的な財政緊縮よって積みあがった過剰な政府債務から市民を解放するための協議の場を設ける。経済政策の調整を図り、重商主義的傾向の強い政策を改めるといったものだ。
こうした抜本的な改革(プランA)が実現出来ないのであれば、ユーロを守ることよりも市民を守ることを優先すべきとして、ユーロを解消し、各国通貨を再導入し、協調体制に戻るプランBの選択もやむを得ないという立場を表明している。
ルペン対マクロンの決選投票は「愛国主義対グローバリズム」の対立軸強調のおそれ
第2回投票が、現時点での世論調査の結果通り、ルペン対マクロンとなった場合、「愛国主義対グローバリズム」という対立軸が強調されるおそれがある。
マクロン氏は、EUの成果は大きく、EUが弱体化すれば、フランスはグローバルな脅威に単独で向き合わなければならなくなると主張する。EUとユーロ圏の問題に、域外国境管理やユーロ圏予算の創設など統合を深める解決策を提案する。
他方、ルペン氏は、愛国主義の立場から、様々な領域でのEUから主権を取り戻すことを主張する。144項目の大統領選挙の公約のトップに掲げるのは残留か離脱かを問う国民投票の実施だ。EUが、フランスの独立性を尊重し、国家の主権を守り、フランス国民の利益にかなうよう交渉をした上で、民意を問うというもので、英国のキャメロン前首相の15年の総選挙での公約と重なる。
ルペン氏の144項目の公約には、他にも昨年6月の英国の国民投票で離脱派が主張したEUから「コントロールを取り戻す」を思い起こさせる約束が並ぶ。域内の人の自由のための「シェンゲン協定からの離脱」、フランス企業の競争力回復のための自国通貨の復活、EUの企業規制や銀行規制からの解放、農業政策の権限やEU予算からの財源の奪還などだ。
都市対農村、エリート対非エリートの様相も
ルペン対マクロンの対決は、「都市対地方」、「エリート対非エリート」の様相を帯びるおそれもある。マクロン氏は、都市部、高学歴者、ルペン候補は、地方在住、高等教育以下の学歴の支持の割合が高い。これらも英国の国民投票や、米国の大統領選挙でも見られた構図でもある。
国民戦線は、15年12月の地域圏(州)議会選挙の第1回投票では、13の地域圏のうち6つの地域圏で第1党になった。結局、第2回投票では、社会党が国民戦線の勝利を阻止するため、立候補者の擁立を取りやめたことなどで、全13地域で国民戦線が第1党になることは阻止されたが、第1回投票で第1党となった6つの地域圏は国民戦線が支持基盤とする地域と見てよいだろう。
かつて工業地帯として栄えた北東部や、地中海に面する南部は、他の地域よりも失業率が高い(図表5)。グローバル化による繁栄から取り残された地域、移民の脅威を感じやすい地域と言えるだろう。
ルペン氏が掲げる愛国主義は、グローバル化やEU内の競争からの不利益を感じる有権者の心に響く。
マクロン支持は年齢層が幅広い
ルペン対マクロンは、世代間の対立という傾向は強くはない。
図表5には、第1回投票に関する世論調査で支持率上位5候補について、年齢層別の支持率を図示した。マクロン氏は年齢層による支持率の濃淡がない。最有力候補である最大の理由だろう。
ルペン氏は、若年層(18~24歳)でやや低く、高齢層(65歳以上)ではさらに支持が落ちる。EUやユーロとともに育った若い世代にはEU離脱などの公約が、高齢層には極右のイメージが、支持の広がりの妨げとなっていると思われる。
フィヨン氏は、高齢層(65歳以上)では全体の38%と圧倒的な支持を集めるが、それ以下の年齢層、特に若年層で支持が広がらない。
他方、若年層の人気が際立って高いのがメランション氏だ。「Le France Insoumise(不服従のフランス)」という政治運動を立ち上げ、ソーシャル・メディアを積極的に活用することで若年層への浸透に成功した。しかし、年齢層が上がるに連れて支持率は低下する傾向がある。決選投票の進出を阻む要因となりそうだ。
ルペン大統領でもEU・ユーロ離脱は直ちには実現しない
市場は、愛国主義とEUやユーロの離脱を掲げるルペン大統領の誕生を最も警戒しているが、法と議会が壁となるため、公約を直ちに、そのままの形で実現することは難しい。
EUの加盟か離脱かを問う国民投票も、実施の前にEUと加盟条件を交渉するプロセスが必要になる。法案に関する国民投票は、憲法第 11 条の規定が適用され、大統領の権限で実施可能だ。しかし、EUの加盟の是非を問う国民投票には、EUに関する憲法第88条の改正も必要という解釈があり、その場合は、憲法第89条の規定が適用され、議会の上下両院の賛同が必要だ。
現在、国民戦線の獲得議席は、下院(国民議会)の577議席中2議席、上院(元老院)の348議席中2議席だけだ。下院の選挙は、大統領選挙後の6月11日、18日に予定されている。有効投票の過半数かつ登録有権者の4分の1以上を獲得した候補者がいなければ、第1回投票で12.5%以上を得票した候補者のみで第二回投票を行い、第1位となった候補者が当選する。議会選挙においても第1回投票で他の候補に投票した票の受け皿となれるかどうかが鍵となる。国民戦線が一気に議席を増やすことは困難だ。
ルペン氏の144の公約には、下院の選挙制度をボーナス議席付きの比例代表制への改革や国民投票制の導入などが盛り込まれている。いかに現在の選挙制度での議席獲得や公約の実行が難しいかの表れでもある。
とは言え、現行の第5共和政憲法では大統領の権限は大きく、首相の任命権を政府の構成員の任命権を持ち、下院の解散権も有する。公約の実行は困難を伴うだろうが、大統領の方針を議会がブロックし続けることも難しい。公約をそのままの形でないにせよ、何らかの形で実現するような妥協の余地を探ることも求められるだろう。
反EUのフランス大統領の誕生でEUは立ち行かなくなるおそれ
ルペン氏の公約からは、人の移動の自由や、主権を制限するEUの様々なルールへの不満が伺われるが、EUには様々なベネフィットもある。域内関税ゼロ、関税手続きのない関税同盟、域内で金融サービスの自由な提供を認めるシングル・パスポート。越境して隣国ルクセンブルクに通勤するなど、人の移動の自由からも恩恵を受けている。農業国であるフランスはEU予算からの農業の補助金の配分も多いため、対国民所得比でのネットの拠出額の負担は比較的小さい(図表6)。フランス国民も、EUやユーロに不満があっても、一気に離脱に進むことを望んでいるわけではない。
仮に、ルペン氏が大統領に選出された場合には、「EUの残留か離脱かを問う国民投票」のカードをちらつかせながら、EUにフランスに有利な条件を引き出すことが当面の目標となるだろう。金融システムの混乱を引き起こしかねないユーロ離脱を強硬することもないだろう。
先述のとおり、ルペン氏の公約には、EUのルール違反となるものが多く含まれている。離脱を決めた英国は、欧州統合のスタート時点から、経済的利益重視で、ユーロ導入に象徴される統合の深化に距離を置いてきた。その英国の離脱ですら、EUにとって大きな打撃だ。まして、統合の原加盟国で、ドイツとともに統合の枠組み作りを担ってきたフランスが、次々とEUの政策に反旗を翻し、主権の奪還を求める事態となれば、EUは立ち行かなくなるおそれがある。
EU条約の第2条には、「同盟は人の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配の尊重、および少数者に属する人々の権利を含む人権の尊重という価値に基礎を置く。これらの価値は多元主義、被差別、寛容、公正、連帯および男女平等による特徴づけられる社会にある加盟国に共通のものである」という規定がある。同第7条には、第2条に言及された価値に対する重大な違反が生じる明確な危険がある場合に、当該国の加盟国の権利の幾つかを一時停止する手続きについての規定がある。ルペン大統領のフランスがEUの基本的価値に違反する政策を打ち出したとしても、フランスにこうした手続きを発動することは考え難い。
ルペン・ラリーはあり得ない。過剰債務国にも圧力が及ぶ
米国の大統領選挙での予想外のトランプ氏の勝利は、経験不足や保護主義を懸念する事前の予想に反して、減税やインフラ投資、規制緩和など政策期待を追い風に株高、ドル高、金利高というトランプ・ラリーをもたらした。
しかし、ルペン氏勝利によるルペン・ラリーはあり得ない。ルペン氏の公約は、中小企業の負担を軽減し、警察、軍事費の増強、低所得者支援などを盛り込むなど財政拡張的だ。しかし、144項目の公約に代替の財源についての議論は見当たらない。
フランスはEUが求める17年を期限とする名目GDPの3%を超える過剰な財政赤字の解消を辛うじて実現できる見通しとなっていたが、財政出動と国債利回りの上昇で阻まれるかもしれない。EUの新たな財政ルールでは、ユーロ参加国に予算の事前承認を求める体制となっており、過剰な財政赤字を前提とする予算案には欧州委員会が修正を求める。
ルペン大統領は、こうしたルールや欧州委員会の勧告は無視するかもしれない。財政ルールからの意図的な逸脱はフランス国債の利回り上昇圧力となるが、ルペン氏は、EU条約123条のいわゆる救済禁止条項違反となる「フランス中央銀行による国債の直接引き受け」も認める方針であり、コントロール可能と考えているのかもしれない。
ルペン氏の政策は、フランスの高コスト体質をむしろ悪化させるだろうし、ユーロ離脱とリデノミネーション(通貨単位の変更)を連想させるため、フランスへの投資を妨げるだろう。
ルペン大統領が誕生した場合には、ユーロの制度的な脆弱性も改めて意識され、過剰債務国の国債にも圧力は及ぶだろう。とりわけ、来年春までに総選挙を実施するイタリアは、成長と雇用、格差の問題が深刻で、ポピュリズム政党「五つ星運動」が勢いづいているだけに、リスクを意識されやすい。
EU、ユーロ離脱が具体性を帯びない限り、世界や日本の経済への持続的な影響はない
フランス国民がルペン大統領を選んだ場合、本当に、EUやユーロ離脱に動き出すのかを見極める必要がある。国民投票から9カ月を経て、英国政府は3月にEUに離脱意思を通知したが、離脱から新たな関係への移行には、EUの基本条約が規定する2年間ではとても実現しないと見られている。
ルペン大統領が、離脱へのかなり強固な意志を持っているとしても、年単位の時間が掛かる。EUの中で、大国フランスが反EU的スタンスを採るというのが近い将来の考えられる姿である。EUの政策やフランス経済には混乱が生じるおそれはある。
ルペン大統領の選出が、世界や日本に及ぼす影響は、EUやユーロ離脱が具体性を帯びない限りは、持続的なものとはならないだろう。世界最大の経済であり基軸通貨国でもある米国とフランスの影響力はまったく異なる。
日本の輸出に占める比重は米国の20.2%、中国の17.7%に対して、フランスは0.9%。ドイツの2.7%、英国の2.1%を大きく下回る(いずれも2016年)。
日本企業の拠点数(本邦企業の支店、駐在員事務所、現地法人、区分不明の合計)は726拠点。世界で第15番目に多く、拠点展開の面でもフランスは、ドイツ(世界第4位1777拠点)、英国(世界第12位、1021拠点)に次ぐ3番目の存在だ。個別企業レベルでは、フランスの「経済愛国主義」政策の悪影響を受けるリスクはあるが、マクロ的な影響は限定的だろう。
伊藤さゆり(いとう さゆり)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部
上席研究員
【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
・
欧州経済見通し-試される欧州の結束-
・
気がかりな3つの断層-ロンドン、パリ、ブリュッセル、フランクフルトを訪れて感じたこと
・
トランプ大統領の米国とEU-統合の遠心力はますます強まるのか?
・
本格化するアメリカ大統領選挙
・
行動ファイナンス理論への批判と今後の可能性