金融政策の概要:予想通り政策金利を据え置き、足元の景気減速を一時的と判断

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(写真=g0d4ather/Shutterstock.com)

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が5月2-3日(現地時間)に開催された。市場の予想通り、FRBは政策金利を据え置いた。今回発表された声明文では、景気の現状認識について、経済活動や個人消費について下方修正したほか、足元のコア消費者物価の低下を反映した表現に変更した。一方、失業率や民間設備投資については上方修正した。また、景気見通しについては、1-3月期の成長率低下が一時的との評価を示した。ガイダンス部分の表現に変更は無かった。

今回の金融政策は全会一致で決定された。

金融政策の評価:当研究所の政策金利見通しを6月利上げに変更

政策金利の据え置きは当研究所の予想通り。一方、景気見通しについて、1-3月期の実質GDP成長率が、前期比年率+0.7%(前期:+3.5%)に低下したことを、一時的な減速と評価したことは、6月利上げの意欲が強いことを示したと言える。実際、成長率は低下したものの、天候要因による一時的な消費鈍化や、近年1-3月期の成長率が季節調整による影響で、経済実態以上に低くでる傾向を考慮すれば、今回の成長率低下が利上げ時期に影響するとは考え難い。さらに、景気の現状判断の表現から、3月の雇用者数の伸び鈍化や、消費者物価の伸びが鈍化していることについても、利上げ時期の判断に影響しないようだ。

FRBは、トランプ政権の経済政策に伴う米景気への影響などについて、不透明感が強いことを言及してきたが、現状においても不透明感の払拭にはほど遠い状況となっている。一方、3月のFOMC会合では、米経済や政策金利の引き上げが予測通りに進んだ場合には、年後半にバランスシートの縮小を開始する可能性を示唆しており、これまでに比べ、かなり突っ込んだ方向性を示した。FRBが、12月のFOMC会合でバランスシートの縮小を開始するためには、それまでに追加で2回程度利上げをする必要があるとみられる。昨年、一昨年とFRBは、政策金利の引き上げペースを下方修正しており、今年についても下方修正される可能性が残されているものの、これまでと異なり、金融市場が概ねFRBの利上げペースを支持していることから、政策金利の引き上げは従前に比べて容易となっていることが見込まれる。

当研究所では、これらを考慮して17年の政策金利見通しを、地政学的リスクが高まらない前提で9月の追加利上げ(年内2回ペース)から、6月、9月の追加利上げ(年内3回ペース)に変更する。

声明の概要

◆金融政策の方針

  • FF金利の誘導目標を0.75-1.00%に維持(「引き上げ」から「維持」に変更)
  • 政府機関債、MBSの償還分はMBSへ再投資(変更なし)
  • 米国債の償還分は米国債へ再投資(変更なし)
  • FF金利の正常化が十分に進展するまでこの方針を続けることを見込む(変更なし)
  • 長期債を高水準で保有し続けることで緩和的な金融環境を維持する(変更なし)

◆フォワードガイダンス、今後の金融政策見通し

  • 既に実現した労働市場環境や物価、およびこれらの今後の見通しを考慮して、委員会はFF金利の目標レンジを0.75-1.00%に維持することを決定した(「引き上げ」から「維持」に変更)
  • 金融政策スタンスは依然として緩和的であるため、労働市場環境の幾分かの改善や、物価の2%への持続的な上昇を下支えする(変更なし)
  • FF金利の目標レンジに対する将来の調整時期や水準の決定に際して、委員会は経済の現状と見通しを雇用の最大化と2%物価目標に照らして判断する(変更なし)
  • これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
  • 委員会は、対称的な物価目標に関連させて、物価の実績と将来見通しを注意深くモニターする(変更なし)
  • 委員会は、FF金利の緩やかな上昇のみを正当化するような経済状況の進展を予想しており、暫くの間、中長期的に有効となる水準を下回るとみられる(変更なし)
  • しかしながら、実際のFF金利の経路は、今後入手可能なデータに基づく経済見通しによる(変更なし)

◆景気判断

  • 経済活動の鈍化にも拘らず、労働市場は引き続き力強さを増した(経済活動について、前回の”economic activity has continued to expand at a moderate pace”から”even as growth in economic activity slowed”に足元の成長鈍化を反映して下方修正)
  • ここ数ヶ月間、雇用は均してみれば堅調に増加し、失業率は低下した(3月の雇用統計の結果を反映し、雇用は「引き続き堅調」“remained solid”から「均してみれば堅調」”were solid, on average”に表現変更したほか、失業率を「ほとんど変化なし」”little changed”から「低下した」”declined”に上方修正)
  • 家計消費はほんの僅かな増加に留まった(「緩やかに増加」”has continued to rise moderately”から「ほんの僅かな増加」”rose only modestly“に下方修正)
  • 設備投資は堅調となった(「幾分堅調」”firmed somewhat”から「堅調」”firmed“に上方修正)
  • 前年比でみた最近のインフレ率は、委員の長期目標である2%に近い水準で推移してきた(前年比であることを明記したほか、表現を「インフレ率が上昇して2%に近づいてきた」”Inflation has increased...moving close to the Committee’s 2 percent..”から「(2% に近い水準で)推移してきた」”has been running close to”に表現変更)
  • エネルギーと食料品を除くと、3月の消費者物価は下落し、インフレ率は2%を下回る水準での推移が続いた(3月のコア指数の前年同月比が前月から低下したことを反映して下方修正)
  • 市場が織り込むインフレ率は、依然として低位に留まっている(変更なし)
  • ほとんどの調査に基づく長期物価見通しは、全般的に変化に乏しい(変更なし)

◆景気見通し

  • 委員会は、第1四半期にみられた成長が鈍化が一時的で、金融政策スタンスの漸進的な調整により、経済活動は緩やかに拡大し、労働市場の状況が更に強くなり、インフレ率は中期的に2%近辺で安定すると評価している(第1四半期の成長鈍化が一時的との判断を追加)
  • 経済見通しに対する短期的なリスクは概ねバランスしている(変更なし)
  • 委員会は、引き続きインフレ動向と世界経済および金融情勢を注視する(変更なし)

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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