本記事は、新名 史典氏の著書『成功率が圧倒的に高まる プレゼンの強化書』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています。
特徴と価値の違い
専門性が高いほど陥る罠
「伝える側」として内容をどう伝えるのか? について考えていきましょう。
営業や提案の場面では、当然ながら「伝える側」は自分たちの商材やサービスについて深く理解しています。その分野の知識も豊富で、普段からそのことばかり考えている状態です。
ところが、「聞き手」はそうではないということに、意外と気づかないもの。聞き手にとっては、その分野の知識は浅く、さらに言えば、そもそもその話題に費やせる時間も少ない。
つまり、伝える側と受け取る側には、「知識」と「意識」の両面で大きなギャップがあります。
このギャップを前提にしないまま話を進めてしまうと、聞き手が「何を言っているのか、よくわからない」「なんとなく難しそうだから聞くのをやめよう」となり、共感も関心も得られません。これが専門性の高い人ほど陥りやすい罠です。
なぜその罠に気づけないのかというと、専門的なことでも伝える側にとっては「当たり前の日常」になっているからです。
日頃から社内で使っている専門用語を、外部の人にも通じると思い込んでそのまま使ってしまう。あるいは、横文字やカタカナ語を、何の断りもなく多用してしまう、これはよくある落とし穴です。
特に注意が必要なのは音読みの漢字語です。日本語には同音異義語が多いため、音読みの言葉は相手に誤解(誤変換)されやすくなります。
例えば「手指消毒(しゅししょうどく)」という言葉。医療や衛生業界では日常語ですが、聞き手には「種子消毒」や「主旨抄読」といった別の言葉に誤変換されてしまう可能性が非常に高いのです。しかし「手指消毒」を訓読みの「てゆびの消毒」と言い換えるだけで、誤解は大きく減ります。「てゆび」と言えば、誰もが「手の指だな」と自然に理解できるからですね。
また、横文字やカタカナ語も注意が必要です。例えば「エンゲージメント」「オンボーディング」「コンバージョン」といった言葉も、意味が明確に伝わらない可能性があります。初めに一度、平易な日本語で言い換えておくだけで、そのあとの話がすっと入ってきます。
専門性を持っていることは武器になりますが、相手に「伝わってこそ」その価値が活きるということ。だからこそ、自分の話す言葉が本当に相手に伝わっているか、誤解を招いていないか、を常に意識することが大切です。
価値とは相手の身に起こるプラスの要素
提案内容そのものが良くても、それが「相手にとってどんな価値があるのか」が伝わらなければ、プレゼンテーションとしては不十分です。
ここでいう「価値」とは、相手の身に起こる良いこと。例えば、「相手の仕事が楽になる」「悩みが解消される」「結果が出る」などのプラスの変化を意味します。
スマートフォンを例にとってみましょう。製品カタログに以下のような表現があったとします。
- ワイドなディスプレイ
- 最新のOSを搭載
- 手のひらサイズ
これらはいずれも「特徴」ですが、価値表現にはなっていません。
では、それぞれを「相手の身に起こること」として言い換えてみると、
- ワイドなディスプレイ→ 「動画も快適に見られる!」
- 最新のOSを搭載→ 「動作がスムーズで使いやすい!」
- 手のひらサイズ→ 「片手でも簡単に操作できる!」
このように、「特徴」を「価値」に翻訳することで、相手にとってのメリットが明確になります。
ポイントは、「この機能があることで、相手のどんな日常がどう良くなるのか?」を考え抜くこと。特に技術的な分野の話になると、どうしても「技術そのものの優秀さ」ばかりに目が行きがちです。そのまま専門用語で説明してしまうと、聞き手に「すごいこと」なのかどうかも伝わりません。
以下に、特徴を価値に変換する例をいくつか紹介します。
特徴:発酵技術から生まれた洗剤です
→ 価値:微生物が生み出す洗剤なので、自然界に流れ出てもすぐに分解され、環境にやさしいです
特徴:軽量かつ衝撃に対する耐久性が高い素材です
→ 価値:自動車の鋼板に使用すれば、燃費向上と事故時の安全性を両立できます
特徴:この医薬品は徐放性に優れます
→ 価値:血中の有効成分濃度の急激な上昇を避け、副作用のリスクを減らせます
特徴:この製剤は細胞毒性が低いです
→ 価値:傷口などデリケートな部位にも安全に使用できます
このように、「だから何が良いのか?」という視点を持って話を組み立てていくことで、相手の心に「自分ごと」として届く説明が可能になります。
相手の身に起こることで考える。それが「価値」で語るということの本質です。
その特徴がなかったら将来困ること
価値を伝える際、つい「それがあると便利」「あれば嬉しい」といった「ポジティブな面」だけにフォーカスしがちです。しかし、実はもう1つ重要な切り口があります。それが、「それがなければ将来困る」という視点です。
つまり、「今は困っていないかもしれないけれど、このままいくと将来トラブルが起きるかもしれません。そのために、今この対策が必要です」というメッセージです。
この伝え方が必要なのは、まだ起こっていないリスクに対して、相手は気づいていないか、あるいは危機感を持っていない場合です。
私は以前、糖尿病や血糖値が高めの方向けの甘味料を提案する仕事をしていました。糖尿病と診断された方は危機感を持って食生活にも注意されますが、「予備軍」とされる方々はまだ医師に明確な指摘を受けていないため、あまり自覚がありません。そこで、「このような方が、ある日突然診断を受けて大きく生活を変えなければならなくなった」という例を紹介しながら、「今まだ元気なうちにこそ気をつけるべき」という切り口で伝えると効果的でした。
同様に食品メーカー向けに、食中毒などの食品事故防止策を提案した際も、当初は「自社には関係ない」と受け止められることが少なくありませんでした。しかし、「御社と同じ規模・設備・スタッフ構成を持つ他社で実際に発生した事例」と「その後の対応にどれほどの労力がかかったか」を具体的にお伝えすると、皆さんの表情が一変したものです。
このとき重要なのは、単に事例を紹介するのではなく、自分もその現場にいて当事者のように感じた「感情」を込めて語ることです。
また、「怖い話をして売ろうとしている」と受け取られてしまっては逆効果なので、あくまで姿勢としては「一緒に防ぎましょう」という協力的な立場を明確にします。
例えば、「あのときの企業のご担当者も、事が起こって初めて『あのとき対策しておけば……』とおっしゃっていました。あの悔しそうな表情を、今でも思い出します。だからこそ、御社にはそうなって欲しくないのです」といったように。
プレゼンテーションは提案だけではなく、共にリスクに立ち向かうパートナーとしての姿勢を伝える場でもあります。そして相手が「未来の困りごと」に気づいていなければ、その気づきを促すのも大切な役割です。このとき、情報だけでなく「感情」ごと届けることで、相手の心に届く提案が実現できます。ポイントは「一緒に解決する仲間、パートナー」という姿勢です。
1971年生まれ。大阪府出身。大阪府立大学(現・大阪公立大学)大学院農学研究科修了後、サラヤ株式会社にて、営業・マーケティング・商品開発部門を約15年担当。大手コンビニエンスストアの食品安全保証プロジェクトでは、外資系大手との競合におけるプレゼンコンペで、18戦17勝という高い成果を収める。入社4年目には新規事業の営業統括部長に指名され、3年で年商24億円の部署に育てることに成功。
2011年10月に独立起業し、プレゼンテーション支援を主業とする「株式会社Smart Presen」を設立。研究、営業、企画、経営者と多様な立場でのプレゼン経験を基盤に、実践的な指導を展開。そのノウハウを体系化し、企業の新規事業創出・マーケティング・リーダーシップ・ネゴシエーション・部下育成など、多様なテーマでコンテンツを開発。
現在は、企業研修講師および新規事業創出プログラムの講師として、年間300回近い登壇や個別支援を行っている。研修では「丁寧な解説」「豊富な実体験」「面白い!」を追求。信条は「ビジネスは伝わってナンボ!」
主な著書に『顧客に必ず“Yes”と言わせるプレゼン』『上司を上手に使って仕事を効率化する「部下力」のみがき方』(ともに同文舘出版)などがある。
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