韓国の大統領選挙では、サムスン電子、現代自動車、SK、LG、ロッテをはじめとする財閥が牛耳る経済の改革が1つの焦点となった。
その一角をなすサムスンは、事実上のトップだった李在鎔氏が朴槿恵前大統領に賄賂を贈ったとして逮捕・起訴され、大統領選でも厳しい目が向けられた。政財界の癒着問題とは裏腹に、サムスンの業績は好調さを取り戻し、スキャンダルの傷をモノともしない。
ノート7発火問題から急回復
サムスンの2017年第1四半期決算によると、売上高は前年同期比2.0%増の50兆5500億ウォン(約5兆900億円)、営業利益は同3.2%増の9兆9000億ウォン、純利益は同46.2%増の7兆6800億ウォンとなった。このうち営業利益は13年第3四半期以来の高水準だった。
好調な業績をけん引したのは、半導体事業だ。供給がひっ迫する中、スマートフォン向けの需要が堅調に推移したほか、DRAMの最上級モデルの売上もアップし、年間を通じて半導体の需要は増加すると見込んでおり、業績の見通しも明るい。
わずか半年ほど前の16年秋、サムスンはスマホ「ギャラクシーノート7」の発火問題を受けて、同モデルの生産販売の打ち切りに追い込まれ、苦しんでいた。世界的なリコール問題にまで発展したノート7の影響は、サムスンの成長にブレーキをかけた。16年第3四半期は、営業利益が5兆9700億ウォンと、前年同期比で約3割の大幅な減少に陥っていたが、その窮地から見事なV字回復を遂げた。
中国の経済報復措置も半導体への影響はなし?
この間、サムスンを取り巻く政治的な環境も向い風だった。現職の大統領を罷免にまで追い詰めた政財界のスキャンダルに巻き込まれたほか、在韓米軍が地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)を配備したのを巡り、中国との対立が表面化。THAADの配備により、自国のミサイル基地を監視される恐れから、中国は神経を尖らせ、配備に反対した。
しかし、この中国の懸念をよそに、ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮への対応を優先させ、韓国はTHAADの配置を決めた。これに対し、中国は韓国の観光旅行商品の販売を禁止するなど経済報復措置に乗り出した。また、中国国内では、車など韓国製品の非買運動のほか、中国国内で店舗を運営するロッテマートが消防法違反などを理由に営業停止処分を受けるなど、韓国にとって最大の貿易相手である中国との摩擦が、韓国企業に影響を及ぼし、中央日報は、経済報復による損失が8兆5000億ウォンに上るとみられると伝えている。
小売業や観光企業に痛手となったTHAADショックも、半導体を中心とする製造業のサムスンへの影響は限定的だ。半導体はスマホなどの製造に欠かすことができず、中国の製造業にとっても命綱だ。半導体シェアで世界的に確固たる地位を築いたサムスンからの供給がストップしてしまうと、中国の製造業が受ける打撃の方が大きくなるリスクもあり、中国政府も報復措置の対象には踏み込めないのが実情だろう。
トランプ米大統領がリスクか
軍事面では、北朝鮮への対応を巡り歩調を合わせる韓国とアメリカだが、貿易面では一筋縄とはいかないようだ。トランプ米大統領が、韓国の文在寅大統領の就任後初めての電話会談で、両国間の自由貿易協定(FTA)の見直しに言及。トランプ氏は、これまでにも、対米輸出が増えた韓国の恩恵が大きいとされる米韓FTAについて不満を漏らしており、今後の交渉の行方が注目される。
こうした動きに為替市場が反応し、韓国ウォン上昇の重石となっている。ドル/ウォン相場は、16年秋以降ドル高ウォン安のトレンドが続き、1ドル=1200ウォンを超える水準まで進んだが、ドル安ウォン高のトレンドに転換し、足元では1ドル=1100ウォン台となっている。貿易赤字の削減を掲げるトランプ大統領の出方次第では、さらなるウォン高が進行し、好調な業績で推移するサムスンにも価格競争力や輸出の面で影響が及ぶ可能性がある。
韓国のGDPの約2割を稼ぎ出すともいわれるサムスンの業績は、韓国経済への影響も大きい。業績回復を受けて、サムスンの株価が高値水準を維持しているのに加え、ソウルの株式市場全体にも波及している。実際に、KOSPI(韓国総合株価指数)は、5月に入り過去最高値を更新し続けるなど、北朝鮮によるミサイル発射実験問題、大統領選の影響を感じさせない。
世界経済の堅調な成長を背景に業績を回復させたサムスンだが、アメリカとのFTA交渉、文大統領が選挙期間中に言及した財閥改革など、こうした政治的リスクを乗り越えれば、先行きの見通しもさらに明るくなるだろう。(ZUU online 編集部)