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近年、海外投資をする人が増えましたが、海外投資中に相続が起きることも考えておかなければなりません。どうすれば、円滑で有利な相続ができるのか海外投資と相続の基礎について勉強しておきましょう。


そもそも海外投資とはどんなもの?

海外投資とは、海外の金融商品や不動産などに資金を投与して運用益を得ようとすることです。また、金融商品や不動産を買う以外に企業へ直接資金提供して経営に参画する投資形態も有ります。このように、投資先の企業経営に参画する投資形態を直接投資といい企業収益そのものが運用益となります。それに対して、預金、海外不動産、海外投資信託、海外株式、海外国債など、いわゆる金融商品は間接投資になり、運用益は利息、配当、利ザヤなどです。海外投資で得た財産の全てが国外財産という訳ではなく、税法上はその所在地などを基準として国外財産と国内財産に区別します。国外財産に該当し、なおかつ12月31日時点で5000万円以上有る場合には国外財産調書に記載する必要があります。この調書に一度でも記載した財産は金額や性質にもよりますが、その後は税務当局に継続的にウオッチされることになります。


天網恢恢疎にして漏らさず?日本の相続税制度

海外投資資産を円滑に相続するために、相続税の基礎知識もおさらいしておきましょう。

相続税の対象になる財産

死亡した人が死亡時に保有している財産から非課税財産、債務、葬式費用を差し引いた金額

・非課税財産とは・墓所、仏具、祭具など・税法で非課税と定められた寄付金
・生命保険金の内の500万円に法定相続人の数を乗じた金額

相続開始前3年以内に贈与された財産
相続時精査課税制度の適用を受けた財産

相続時精査課税制度とは65歳以上の親が20歳以上の子に贈与した場合、贈与時に通常の贈与税を支払い、相続時に支払った税額を相続税から差し引く制度を相続時精査課税といいます。

この制度の適用を受けたい場合には贈与税納付時に申告が必要です。そして基礎控除に関しては平成27年1月1日以降の相続では控除額が下がります。

現行 5000万円+1000万円×法定相続人

改訂後3000万円+600万円×法定相続人

また、この改訂では最高税率も現行の50%から55%に引き上げられます。

下の図は国税庁の相続税に関する記載の中の一覧表ですが、一目瞭然にわかることは、遺産相続や遺送を受けた人は一項目を除いて、全ての人が国内国外両方の財産について相続税を払わなければならないという事です。

相続税のかかる人と課税される財産の範囲の表

相続税のかかる人

課税される財産の範囲

(1) 相続や遺贈で財産を取得した人で、財産をもらった時に日本国内に住所を有している人

取得したすべての財産

(2) 相続や遺贈で財産を取得した人で、財産をもらった時に日本国内に住所を有しない人で次の要件全てにあてはまる人

イ 財産をもらった時に日本国籍を有している

ロ 被相続人又は財産をもらった人が被相続人の死亡の日前5年以内に日本に住所を有したことがある

取得したすべての財産

(3) 相続や遺贈で財産を取得した人で、財産をもらった時に日本国内に住所を有しない人で次の要件全てにあてはまる人

イ 財産をもらった時に日本国籍を有していない

ロ 被相続人がその死亡の日に日本国内に住所を有している

取得したすべての財産

(4) 相続や遺贈で日本国内にある財産を取得した人で日本国内に住所を有しない人((2)及び(3)に掲げる人を除きます。)

日本国内にある財産

(5) 上記(1)~(4))のいずれにも該当しない人で贈与により相続時精算課税の適用を受ける財産を取得した人

相続時精算課税の適用を受ける財産

出典: http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4102.htm 2014,1,21


相続税の対象にならない国外財産

世界的にもダントツに厳しい日本の相続税制度から何とかすり抜けたいというのは人情というものです。しかし、現実には日本は全世界に向けて国外財産調査のネットワークを広げています。

その一つが租税条約です。租税条約とは、条約締結国同士が自国内の納税状況を共有する条約で、現在日本が租税条約を結んでいる国は世界で79か国にも及びます。それでは、条約が無い国に資産を移動してはどうか?という事になりますが、そういった国々は日本との国交が薄い国が多く、資金移動するというなら相当のリスクを覚悟しなければなりません。それに、租税条約がなければ二重課税の覚悟も必要です。もう一つの国税庁の情報源として国外送金調書が有ります。国税庁は各金融機関に100万円超の送金を全て報告することを義務付けています。日本から海外へ送金する時には容易に送金先を追及できるのです。この他にも、平成25年12月31日から国外財産調書制度が始まりますから、国税庁の国外財産ネットワークが飛躍的に充実します。

この状況でも、国外財産に関して相続税を払わなくてもいい人、それは「日本国籍が有るなら被相続人、相続人双方が過去5年以内に日本に住所が無いこと、もし、日本国籍が無いならば、被相続人が死亡時に日本に住所が無いこと」という条件を満たす人なのです。海外では金融商品の相続手続きを弁護士に依頼するのは常識です。巨額の海外投資を始めればさまざまな相続税対策をたてます。しかし、それよりも何よりもまず準備しなければならないことが有ります。相続人が資産を受取れなかったら、相続税の心配などする必要もないのです。日本でも銀行口座名義人が亡くなれば、その口座は凍結され正当な相続人である証明ができて初めて口座名義の変更手続きが始まります。海外金融商品も、口座名義人や所有者が亡くなれば正当な相続人であると確認が取れるまでそれを受取ることはできません。この手続きをプロベートといいますが、国によって差が有るもののプロペードに費やす費用と時間は膨大なもので、時には相続財産の大半をつぎ込まなければならない事も有るのです。

海外投資をする時には、投資当初からポロペードの専門家と相談することをおすすめします。生命保険や共有口座など、最初から名義人死亡時の財産受取人が明確にするタイプの商品を選ぶのも一つの方法です。


相続税節税には長期的な展望が必要

国外財産に対して相続税がかからないようにするためには、相続発生時の相続人の住所居所、国籍ばかりではなく被相続人の住所や居所に関しても態勢を整える必要があります。

・相続はいつ起こるかわかりません。考えたくはありませんが、事故や病気は予測できません。

・被相続人、相続人双方の家族全員の環境への順応などを考えると若い方がいいのです。特に、子弟の教育に関して早いうちに長期計画を立てるべきです。

・日本国内で事業をしている場合は事業態勢を整える必要もあります。

早い段階での長期計画こそ、相続税対策の基本なのです

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