こんにちは、経済学修士号を取得後、株価推定の事業・研究を行っている「たけやん」です。宜しくお願いします。
欧州がソブリン危機によって深刻な問題になり、まだ完全には事態が収まっていません。一方で、日本の債務残高も極めて多いですが、日本の特異性を理由とした楽観論が目立っています。本稿では、典型的な日本国債安全論を紹介して、それらに大きな問題がある事を示します。その上で、日銀はリフレ政策によって恒常的に国債を買い続けていますが、そこから脱却しなければ危険である事を指摘します。
日本国債安全論の典型パターン
日本国債安全論の典型パターンは主に次の2つがあります。
(1) 日本国債の殆どが国内で消化されているから問題が無い。
(2) 政府が多額の資産を持っており、それを差し引くと債務比率は大きくない。
どちらももっともらしい説明ですが、本当に日本国債は全く問題が無いのでしょうか。
国内保有率の高さは無関係
日本の国債の国内保有率は90%を超えており、安全論で出てくる「日本国債の殆どが国内で消化されている」という事は事実です。
では、何故そのことを持って安全だと主張されるのでしょうか。
安全論のロジックでは、多くの日本人が直接国債を購入したり、金融機関の預金等を通して間接的に国債を購入したりしているので、それが償還される場合も次の世代の日本人に移動するだけであり、何も問題は無いという説明がされます。確かに、永遠に国債が買われ続けるなら、そのシナリオも実現するかもしれません。
しかし、日本人や日本の金融機関がその投資行動を変化させない保証はどこにもありません。現に、大手銀行などは国債の平均残存期間を少しずつ短くし始めています。国債には、短期国債や長期国債など償還期間の長短に応じて様々なものがありますが、一般的に償還期間が短いものほど低リスクだと言われます。
そこで、各金融機関が保有する国債のリスクを計測する為に、保有国債の残存期間の平均を求めたものが平均残存期間になります。
小幡(2013: 31)によると、大手銀行では残存期間は減少しつつあり現在は平均で2~3年ですが、地銀と信用金庫は残存期間が増えつつあり、地銀では平均で4年、信用金庫では4.5年ほどになっています。
実際、国債がこれだけ安定して買われてきたのは「失われた20年」と呼ばれる時代、新規の優良な融資先も少なく、株式などのリターンも少ないという事情がある中で、低リスクで安定したリターンをあげられたのが国債であったからです。 都市圏の経済が上向き始めている近年において、 大手銀行を中心に国債投資から別の投資先に変化させる現在の動向は自然な流れであり、 「国内消化されているから安全」というのは金融機関の動向を全く理解していない言説です。
多くの政府資産は売れない
次に多いのが「日本政府は資産を多く持っているから問題無い」という言説ですが、これも大きな問題があります。 下図は、2011年3月末時点の日本政府の貸借対照表になります。これによると、日本政府の負債は合計1042.9兆円で、資産は625.1兆円あります。
図1:日本政府の貸借対照表
出典:国の財務書類(財務書類)より筆者作成
注:金額の単位は兆円を表し、小数点第2位を四捨五入している。なお、四捨五入の関係で必ずしも各部の項目を足した値が合計と一致しない。
日本国債安全論によると、日本政府の負債は1042.9兆円で、対GDP比で200%を超えて危険というのはまやかしで、625.1兆円もの資産があるから、それを差し引けば417.8兆円になり、GDPの範囲内に収まるから、それほど問題ではないことになります。 確かに、これだけを聞けば安全に思えるかもしれませんが、 これは資産の中身を無視した暴論 です。
資産の中身を見た時、最も割合が多いのは「有形固定資産」ですが、そのうち145.2兆円は「公共用財産」に分類されるものです。
この公共用財産は、道路や橋、治水設備(ダム等)など、「基本的に直接には収益を産まないが故に税金によって供給されるもの」であり、基本的に売れないものですし、売る事も想定されていません。
また、次に多い「貸付金」148兆円は、地方公共団体などへの貸付金であり、いざソブリン危機に陥った時に直ぐに現金化出来るものではありませんし、地方公共団体の財政状況も悪いので、この貸付金が適切に返済される保証もありません。 次に多いのが 「運用委託金」115.6兆円ですが、これは将来の年金給付の為の積立金を運用寄託したもの です。 まさか、国債を返済する為に年金基金を切り崩すとは到底思えませんし、もし切り崩すと更に深刻な問題が発生するでしょう。
更に、有価証券の大部分は「財投債等の別借金によって調達した資金を財源とした資産」であり、これらの借金の返済に充てられるものであるため、赤字国債や建設国債の返済に充てる事は出来ません。
そして、出資金57.4兆円は独立行政法人や大学法人等への出資金であり、市場で売買される対象ではありません。(財務省『政府の負債と資産』より)
ここまでの合計だけでも約550兆円にもなり、これを全資産から引くと100兆円も残りません。これでも、資産があるから国債が安全であると言えるでしょうか。
欧州ソブリン危機後のユーロ
ここまでを見る通り、欧州ソブリン危機に陥ったギリシャやスペイン等と同様に、日本も決して楽観視出来る状態ではありません。欧州ソブリン危機の時は、ユーロも大幅に値下がりました。
下図2は、ユーロの実質実効為替レート指数(指数が大きいほど通貨高)の推移を示していますが、ギリシャの財政粉飾決算が明らかになった2009年10月以降、大幅にユーロが下落していった傾向(赤丸で囲んだ部分)が見られました。
図2:ユーロの実質実効為替レート指数 出典:国際決済銀行(BIS)が作成したBIS effective exchange rate indicesより筆者作成
日銀の国債購入地獄
金融機関が少しずつ国債依存から脱却しようとしていく中、日銀は国債の暴落を抑える事と、長期金利の低下を目的とした国債購入を増やしています。一時期は落札額の7割が日銀を占める時期もあったほどで、「日銀が国債を購入しなければ国債が暴落するシグナル」さえ受けそうな具合です。
実際に、暴落シグナルとして受け取られると本当に暴落するわけですが、購入せずとも地銀や信用金庫の経営の悪化を早めるし、購入し続けても暴落時の被害を増やす事になりかねない「国債購入地獄」に陥っています。
本当は着実に政府がプライマリーバランスを改善してソフトランディングする道を取らねばならないのですが、今のところそういった気配は有りません。
今日明日いきなり国債が暴落するとは言いませんが、日本財政は大きなリスクを抱えている事を理解した上で投資戦略を立てる必要があります。
参考文献:小幡績(2013)『ハイブリッドバブル』ダイヤモンド社