ふるさと納税,競争,抜け道封鎖
(写真=PIXTA)

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先日、平成29年度ふるさと納税に関する現況調査が公表された。平成28年度のふるさと納税額は2,844億円で、対前年度1.7倍となった。前年度の4.3倍と比較すると、だいぶ落ち着いたと錯覚しそうになるが、増加額は1,191億円で、前年度の1,264億円と大差ない。決して落ち着いてはいない(図表1)。ましてや、市区町村間の競争は決して穏やかではない。

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平成28年度受入額上位10の市区町村と、対前年度増加額が最下位の市区町村は図表2の通りである。2年度連続1位の都城市をはじめ、2年続けて上位にランクインしている市区町村が多い中、熊本市のように大きく順位を上げた市区町村もある。熊本市が大きくランクアップした理由は、説明するまでもない。熊本地震による被災地支援の影響に他ならない。では、都農町が前年度48位から4位に躍進した原動力はどこにあるのだろうか。

この原動力について記す前に、前年度12位から154位に大きく順位を下げた大多喜町について紹介する。大多喜町の一般会計の歳入は、平成26年度が50億円であったのに対し、平成27年度は74億円と50%も増加した。増加額25億円のうち19億円がふるさと納税である。多額のふるさと納税の受け入れに寄与したのが、「ふるさと感謝券」である。ふるさと感謝券とは、大多喜町の指定されたお店などに限り利用が可能な商品券であり、1万円の寄附に対し7千円分のふるさと感謝券が送付された。ふるさと感謝券は、その還元率の高さから、当時マスコミで数多く取り上げられていた。しかし、平成28年4月の総務大臣通知において、ふるさと納税制度の趣旨に反する返礼品として商品券が例示され(図表3)、ふるさと感謝券の受付はその翌月末をもって終了した。ちなみに、ふるさと感謝券が利用可能なお店の中にECサイトが含まれていることを問題視する声もあった。

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今年の4月に、寄附額に対する返礼品の調達価格を3割以下とするよう、総務大臣通知が出されたことは、御存知の方も多いだろう。では、この通知においてふるさと納税制度の趣旨に反する返礼品として、「ふるさと納税事業を紹介する事業者等が付与するポイント」が例示されたことは御存知だろうか。実は、都農町が前年度48位から4位に躍進した原動力はこの例示と大きく関係している。

7月5日の朝日新聞(朝刊)によると、都農町の某大手ECサイトとの仕組みが功を奏したらしい。そのECサイトからふるさと納税を行うと、返礼品とは別に、そのECサイトで利用可能なポイント(寄附額の10%分)が貰える仕組みだ。平成27年1月の事務連絡から、返礼品の価格の割合を表示することは自粛するよう要請されており、平成28年4月の総務大臣通知においては、金銭類似性の高いものとしてポイントが明記されている。しかし、いずれも返礼品に関する自粛要請であって、ふるさと納税事業を紹介する事業者等が付与するポイントについてはなんら言及されていなかった。某大手ECサイトと都農町など一部の市区町村はこの隙を突いたのだ。

先月、某ふるさと納税事業を紹介する事業者が、別の大手ECサイトで利用可能なギフト券を1,000円分プレゼントするキャンペーンを行っていた。説明するまでもなく、ふるさと納税事業を紹介する事業者等が付与するポイント等についても自粛を要請する平成29年4月総務大臣通知の後である。「ふるさと納税事業を紹介する事業者等が付与するポイント」ではなく、「ふるさと納税事業を紹介する事業者が付与する他のECサイトで利用可能なギフト券」というのが、新たな抜け道なのだろうか(*1)。ならば、次に出される総務大臣通達には「ふるさと納税事業を紹介する事業者が付与するもの(ポイント、ギフト券、商品券等)」といった文言が追加されるかもしれない。

市区町村やふるさと納税事業を紹介する事業者等の知恵には感服する。総務大臣通知で、ふるさと納税制度の趣旨に反する返礼品に関する新たな文言を追加しても、抜け道を完全に封鎖する事は不可能ではないか。そもそも、寄付金とは「経済的利益の無償の供与」である。それゆえ、返礼品の送付は寄附の対価としてではなく、別途の行為として行われているという建前である。大多数の寄附者が、寄附の申し込みと同時に、受領する返礼品等を選択している現状を踏まえると、その建前に無理はないか。ふるさと納税制度が始まってから来年で10年経過する。ふるさと納税制度を健全に発展させていくためにも、そろそろ「いたちごっこ」をやめて、制度全体を見直すべき時期が来ているのではないだろうか。

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(*1)「総務大臣通知はお願いであって、拘束力がないから仕方ない」といった意見もあるだろう。
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高岡和佳子(たかおか わかこ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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