スタートアップがビジネスを始めたり、拡大したりするにあたって、金融機関からいかに融資を引き出すか、ビジネス面で協業できるかどうかは非常に大きな意味を持つ。誰もが知るとおり、企業が銀行など金融機関から受ける融資は、資金調達の重要な手段の一つ。そして、内容や程度の差はあれど、企業側が融資を受けるにあたってのビジネスプランを提案し、銀行が融資するか決める。その構図が、企業と銀行の関係性を形作っている。
そこで「役割を入れ替える」ことでお互いの考え方を疑似体験してみようというイベントがこのほど開催された。主催はFintech協会API・セキュリティ分科会。三井住友フィナンシャルグループが9月1日に渋谷にオープンさせたばかりのオープンイノベーションのための施設「hoops link shibuya」(フープス リンク渋谷)で、スタートアップや金融機関の約30人。それぞれの役割を入れ替えてのビジネスプランのプレゼンが行われた。(取材:濱田 優 ZUU online編集長/FinTech online)
なぜFintech協会API・セキュリティ分科会が企画したのか?
主催がFintech協会のAPI分科会であることから分かるように、このイベントのテーマは「API」なのだが、これは日本のFinTechが抱える課題のひとつである。全国銀行協会が「オープンAPIのあり方についての検討会」を開催するなど、関係団体では議論が進んでいるほか、実際にAPIを提供する金融機関も増えてきている。そして議論もより具体的になってきている。
たとえば参照系と更新系、それぞれのAPIの話だ。簡単にいえば、家計簿アプリなどに銀行の情報を引っ張ってくるのが「参照系API」であり、振り込みなどの作業を外部からできるようにすることが「更新系API」ということ。
このうち先行して進んでいるのが「参照系」のほうだが、「更新系」のほうでも動きが出始めている。家計簿アプリや企業向けのクラウド会計サービスを提供しているマネーフォワードが、みずほ銀行、三井住友銀行、住信SBIネット銀行に対して、同社の「MFクラウド経費」から振込処理を完結する機能を提供している。メガバンクの動きでは、三菱UFJフィナンシャル・グループも同じ時期に「MUFG{APIs}」を発表している。
参照系と比べて更新系のAPIについて進度が遅いのは、当然ながら不正利用のリスクがあるからだ。今回はリスクも議論のテーマに挙げられていたが、Fintech協会は「ビジネスモデルも議論する必要があることが見えてきた」と指摘。「金融機関側もFintech企業側も企業秘密や自社戦略で公開していただけず、どうしても個別企業同士の議論にならざるをえないところがあった。このままでは日本は世界から出遅れてしまう」という危機感から、同協会のAPI・セキュリティ分科会で、実際の企業としてではなく、模擬で議論しようというアイデアが出てきたことが今回のイベントだ。