元プライベートバンカーで、現在はフィンテック企業の経営者として金融情報に精通する著者が、その知識と経験を初めて公開する 『プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?』 がついに発売! この連載では、同書の一部を改変して紹介していきます。

今回は、若くして自力でお金持ちになった「成り上がり型」富裕層と、それと対照的な「相続型」富裕層の特徴を見ていきましょう。

情報リテラシーの高い「成り上がり型」富裕層

冨田和成,プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?
(写真=ダイヤモンド・オンライン)

年齢を重ねれば資産は増えていくものなので、富裕層の大半は高齢者です。
キャップジェミニによる2011年の「World Wealth Report」によると、日本人の富裕層(純金融資産100万ドル以上)の93%が45歳以上です。

しかし、近年、先ほどみた起業家や不動産投資家以外にも、外資系企業で高給を得るビジネスエリート、仕事が殺到しているフリーランス、FXや株のデイトレーダーなど、30、40代で富裕層の仲間入りをする個人が増えています。IT化によって生産性の低い仕事が減って個人がさばくことができる案件量が増えたため、優秀な人のもとに仕事が集中しやすくなったことがその背景にあると思います。

こうして現代において自分の力量だけで富裕層になった人たちを、「相続型」と区別するために「成り上がり型」富裕層と呼ぶことにします。

成り上がり型富裕層の特徴は次のようなものです。

・ネットや自分の人脈から自在に情報を集める
→金融機関からの情報をうのみにしない
・各種手数料に敏感である
→1円でも無駄にしたくない

・手間をかけたくない(窓口での対応時間など)
→タイム・イズ・マネーの徹底

・複数の金融機関に取引条件を提示し、コンペをおこなう
→競争原理をうまく利用している

このように成り上がり型富裕層は、あらゆる判断に合理性を求める人が多いと感じますし、だからこそ事業なり投資なりで成功することができたのでしょう。

特に情報リテラシーの高さについては相続型の富裕層とは比べものにならないことが多く、商品説明をしている最中にその場でネット検索をして「こんなリスクがあるって書いてますけど、どうなんですか?」と追及してくる顧客もいます。

あくまでもロジカルな思考で、自分が納得しないと首を縦に振りません。でもその分、話はしっかり聞いてくれる傾向があります。「チャンネルは多いほどいい」というビジネス的発想、もしくは生まれ持った知的好奇心の影響かもしれません。

目立つことを嫌う「相続型」

成り上がり型富裕層(特にその若手)とは異なり、相続型の富裕層は目立つことを嫌います。特に昔から続く中小企業の経営者は、その傾向が顕著です。

東京の富裕層が住む場所といえば山の手エリアをイメージするかと思います。実は、東京23区の東側の下町にも富裕層はたくさんいます。この付近には業歴が長くて高い技術力を有した中小企業が多く、普段は作業着を着た地味な社長が、実はストックリッチな富裕層であるケースが少なくないのです。

こうした中小企業オーナーは、夜、飲みに行くとしても銀座や六本木のようなギラギラした街を敬遠して、地元であまり目立たず飲んでいるケースが多いようです。

なぜなら、自分たちが儲かっていることを取引先に悟られてしまうと、値下げを要求される恐れがあるからです。普段はベンツに乗っているのに、取引先を訪れるときはプリウスにする社長も珍しくありません。下町で飲むことは一種の自己防衛でもあるのです。

トヨタの下請け会社が利益をあまり出さないように(トヨタから値下げを要求されないように)繰り延べすることがあるのは有名な話ですが、これも同じ理由からでしょう。

それに税務署にも目をつけられやすくなるので、わざわざ六本木などに行って目立つ真似をすることは避けるそうです。

「お金を持ったら派手に使って羨望のまなざしを浴びたい」という衝動に突き動かされる富裕層も当然います。それは仕方のない話ですが、実際には目立つことで痛い目にあうという経験をしていないから、そう考えるのかもしれません。

お金を持つことはいいことばかりではありません。お金の寄付や貸し出しの依頼で訪れる人はたくさんいます。強盗や空き巣の危険もありますし、詐欺まがいの投資話を持ちかけてくる人もあとを絶ちません。ハニートラップの話もしばしば耳にします。

特に今はSNSであらゆる情報が世界に拡散する時代ですから、周囲の目にはなおさら気をつけないといけません。ある上場企業の経営者は、地方で遊ぶときは偽名を使い、職業も「デイトレーダー」で貫くそうです。これも自己防衛の1つです。