2017年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比6.2%増(*1)と前期の同5.8%増から上昇したほか、Bloomberg調査の市場予想(同5.7%増)を上回った。
需要項目別に見ると、好調な輸出と民間部門を中心に内需が改善したことが成長率上昇に繋がった(図表1)。
GDPの5割強を占める民間消費は前年同期比7.2%増(前期:同7.1%増)となり、食料・飲料や情報通信、住宅・光熱費を中心に好調を維持した。
政府消費は前年同期比4.2%増(前期:同3.3%増)と、公務員給与や物品・サービスの購入費を中心に上昇した。
総固定資本形成は同6.7%増と、前期の同4.1%増から上昇した。建設投資が同3.6%増(前期:同5.1%増)と低下したものの、設備投資が同11.6%増(前期:同4.4%増)と急上昇したほか、その他投資も同7.2%増(同3.7%減)とプラスに転じた。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の7割を占める民間部門が同7.9%増(前期:同7.4%増)と好調維持、公共部門も連邦政府と公営企業の投資が増加して同4.1%増(前期:同5.0%減)と2期ぶりのプラスに転じた。
輸出は同11.8%増(前期:同9.6%増)と力強い伸びを続ける一方、輸入も内需拡大を背景に13.4%増(前期:同同10.7%増)と一段と上昇した。結果、純輸出の成長への寄与度は+0.2%ポイントとなり、前期の+0.1%ポイントから増加した。
供給側を見ると、製造業とサービス業の堅調な拡大が成長率上昇に繋がった(図表2)。
GDPの5割強を占める第三次産業は前年同期比6.6%増と、前期の同6.3%増から上昇した。卸売・小売(同8.5%増)、情報・通信(同8.8%増)、不動産・ビジネスサービス(同7.4%増)が高い伸びを続ける一方、金融・保険(同4.2%増)は緩やかな伸びに止まった。
第二次産業をみると、製造業が同7.0%増(前期:同6.0%増)と、5期連続で上昇した。内訳を見ると、主力の半導体や通信機器が好調だった電気・電子、光学機器(同8.7%増)と動植物性油脂、食品加工(同11.4%増)が好調を維持したほか、石油、化学、ゴム・プラスチック製品(同5.0%増)も石油製品が回復して持ち直した。また鉱業は同3.1%増(前期:同0.2%増)と天然ガスの拡大で上昇した。建設業は同6.1%増と、公共工事を中心に堅調な伸びとなったが、前期の同8.3%増から低下した。
第一次産業は同4.0%増と、パーム油が3期連続の二桁成長となったものの、天然ゴムやその他農作物が鈍化して前期の同5.9%増から低下した。
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(*1)11月17日、マレーシア統計庁は2017年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。前期比(季節調整済)で見ると、実質GDP成長率は1.8%増と、前期(同1.3%増)から上昇した。
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7-9月期GDPの評価と先行きのポイント
マレーシア経済は昨年半ばから外需の伸びに支えられた内需の拡大が景気回復の牽引役となっており、成長率は5四半期連続で上昇、2014年4-6月期以来の6%台を記録した。7-9月期の高成長を受けてマレーシア中銀は通年の成長率予測を従来の4.3-4.7%から5.2-5.7%へと大きく上方修正するなど、現在マレーシア経済は年初に見込まれた成長軌道から大きく飛躍している。
輸出は主要輸出品の半導体をはじめとする電気電子機器に加え、石油製品や天然ガス、ゴム製品といった資源関連分野でも好調を維持している。外需が回復するなかで、製造業の雇用・所得環境は年明けから大きく改善(図表3)、こうして家計の購買力が改善して内需が拡大する好循環が生まれている。実際、鉱工業生産指数を見ると、輸出関連産業に加えて内需関連産業でも回復傾向が続くなど、輸出主導の景気回復が幅広く国内に波及していることが分かる(図表4)。
今年予想を上回る回復が続いた民間部門だが、今後の一段の上昇は見込みにくくなっている。足元では消費者信頼感や企業景況感が低下し、年明けから続いた持ち直しの動きが一服したかに見える。また好調な経済と原油価格の上昇を背景にインフレ率が今後上昇し、来年にはマレーシア中銀が利上げに踏み切る展開も予想される。
一方、主要貿易相手国の堅調な成長により、輸出の増加傾向は続くものと見込まれる。また来年度政府予算では低中所得層への生活支援策(個人所得税減税、公務員への特別賞与の支給など)や大型インフラ整備事業への重点配分がなされており、公共部門が景気をサポートすることになりそうだ。従って、輸出の拡大や低調だった公共部門の改善が見込まれ、今後も堅調な景気が続きそうだ。ナジブ・ラザック首相は10月の予算演説で来年の経済成長率が5.0-5.5%になると予測している。また原油価格の上昇に伴い、政府の石油関連収入は伸びており、財政健全化が進展する確度も高まってきている。リンギ相場は今後米国金利が上昇する中でも底堅く推移しそうだ。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員
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