やる気が出ない40代、原因は「男性の更年期」かも?
最近なぜかやる気が出ない、気力がわかない……。そんな謎の変調に悩まされたとき、しばしば疑われるのが「うつ」。しかし実は、他にも意外な原因が。40代の男性なら、男性ホルモン「テトステロン」の減少による「男性更年期」の可能性が大いにありうるのだ。この症状はなぜ起こるのか、対策は何か。そして男性ならではの活力を維持するには何が必要か。男性ホルモンのスペシャリスト・堀江重郎氏にお話をうかがった。《取材・構成=林 加愛》
テストステロン減少が「男性の更年期」の原因
中年期に差しかかった人が、「つらい、だるい、気力が湧かない」状態に陥ったとき、女性ならば「更年期?」と思うでしょう。男性はその可能性とは無縁──かと思いきや、実は男性にも更年期があるのです。
男性の更年期は、医学的には「男性ホルモン減少症」と呼ばれます。40~50代の女性が、女性ホルモンの低下に伴って心身に変調をきたすのと同じく、男性の身体にも、男性ホルモン減少による不調が起こり得ます。
男性ホルモンの代表格は「テストステロン」。このホルモンは性機能の源であり、男らしさの象徴とも言えるものですが、女性の身体にも分泌されています。骨や筋肉や血液を作る他、メタボ予防などの働きもする、人体形成に不可欠な「基本的ホルモン」です。加えて、精神面ではチャレンジ精神の源となります。統率力、バランスのとれた社会性、物事を先々まで見通す判断力など、「やる気」に直結するホルモンでもあるのです。
ところが、テストステロンは三十代から徐々に減り始めます。その減り方が著しい場合、「男性ホルモン減少症」となります。その場合、下のチェックリストのような兆候が出ます。中でも顕著なのは意欲の低下。チャレンジ精神が失われ、無気力感や倦けん怠たい感に悩まされます。
ここで注意したいのは「うつ」との判別です。症状が似ているため「うつ」と診断されることがしばしばありますが、抗うつ剤の中には、テストステロンを下げてしまうものも。「うつ」だと思って抗うつ剤を一所懸命飲んだ結果、症状が悪化してしまうという危険もあるのです。
では、どうやって判別するかというと、方法は意外に簡単。いわゆる「朝立ち」、40代なら早朝の勃起が1週間も起きないようなら、更年期の可能性大。勃起があるなら、ホルモンとの関連性はないと考えてよいでしょう。男性の朝立ちは大切なバロメーターで、朝立ちがあるのにやる気が出ないというのは、会社が合っていないか、環境に対して自分がわがままになっているかのどちらかと言えます。
仕事がつまらない人は男性ホルモンが減る!?
男性更年期は、女性と違い「全員がなるもの」ではありません。女性の更年期は閉経前後の10年間を指し、この期間の急激な女性ホルモン減少は、遺伝子にプログラムされた既定の現象です。対して、男性のテストステロン低下は女性よりゆるやかで、落ち方にも個人差があるため、症状が起きる人と、起きない人が出てくるのです。
では、症状が出やすい人はどういう人か。簡単に言えば「毎日の生活が面白くない人」です。
バリバリ仕事をして成果を出したり、自分の楽しみを満喫したりして充実感や自信を保持できていれば、テストステロンは下がりません。しかし現実には、今の世の中にはテストステロンを下げる要素が多々あります。たとえば昨今の会社組織は、昔のように職階が明確ではありません。昔ならば「長」のつくポジションがたくさんあり、出世に応じて椅子も立派になるなど、わかりやすい指標がありました。こうして「立ててもらう」ことで、男性は自信ややる気を保持できたのです。
しかし今、その機会はどんどん減りつつあります。だからこそ、自分自身でテストステロンを上げ、やる気を維持する工夫が必要です。
やる気を取り戻すコツは「筋トレ」と「褒め言葉」
「更年期かもしれない」と思ったら、泌尿器科を受診して、男性ホルモンの値を調べてもらうことで診断できます。診断の結果、男性ホルモン補充などの医学的措置が必要になるケースはさほど多くなく、ほとんどは「テストステロンが上がる生活」をすれば解決します。
最も簡単な対処法は、筋トレです。筋肉量が増加すると、テストステロンの分泌量が上がります。
また、趣味を持つことも効果的です。テニス、ゴルフなどのスポーツやバンド活動など、好きなことを「仲間と一緒に」行ないましょう。集団に対する愛情や帰属意識は、テストステロンを大いに高めます。
同じスポーツでも、親しくない相手、とくに「立てなくてはいけない相手」と行なうのは禁物。褒められ、認められてこそ、テストステロンは上がります。
その意味では、キャバクラやクラブなどで女性にもてはやしてもらうのは即効性抜群の方法。企業がクラブ接待を経費で落とすのは、ちゃんと理由があるのです。
では、職場でも女性と大いに交流を──というわけにいかないのは当然のこと。オフィスでホルモン活性化を図るなら、仕事を「長期的に見通す」のが得策。目の前のタスクに忙殺されず、客観的・俯瞰的視点を持つことで余裕を取り戻しましょう。許される範囲でフラリと外に出て「サボる」のもいい手です。
大事なポイントは「居場所の獲得」です。ここなら羽根を伸ばせる、と思える拠点や時間を持つことが肝要です。仲間とそういう場を共有するとき、必ずしも「リーダー」になる必要はありません。サブリーダーであれ和ませ役であれ、自分らしいキャラクターが確立されていて、それを自他ともに認められていれば、テストステロン対策は万全です。
こうした場を持つ工夫は、早いうちから始めてください。習慣にせよ趣味にせよ仲間にせよ、50代になると新たに得るのは難しくなるもの。40代から積極的に男性ホルモンの低下を防ぐ「ホル活」を開始し、健康的なやる気を保っていただきたいと思います。
「フリーアドレス」で男性のやる気が下がる!?
男性は縄張り意識を大切にする生き物です。動物のオスが尿で自分のテリトリーを主張する例は言うに及ばず、人間の男性もバーやカフェで「ここが僕の指定席」などと言いたがりますね。女性はそうしたことに比較的執着せず、新たに「素敵なお店」を開拓することのほうに熱心です。
さてこの縄張り意識、今どきの職場ではしばしば脅かされがち。近年積極的に導入されているフリーアドレス制が、これまで「自分のデスク」で縄張り意識を満足させてきた男性陣の意欲を下げてしまう可能性があるのです。このシステムに馴染めず、イライラが募って仕事にも支障をきたしてしまった、という患者さんの例もあります。この方は、「料理」という新たな趣味を持ち、料理教室で仲間を得ることでメンタルの安定を取り戻しました。趣味は一般的に言われる「男らしいもの」である必要はまったくありません。
もしフリーアドレス制のオフィスに日々ストレスを感じているのなら、他の「持ち場」を作ることが良い対策となります。テリトリーの再獲得によって、職場でのやる気も回復するでしょう。
堀江重郎(ほりえ・しげお)順天堂大学医学部教授
1960年、東京都生まれ。東京大学医学部卒業。日米で医師免許を取得し、国立がんセンター中央病院などを経て、42歳で帝京大学医学部主任教授に就任。日本初の男性外来であるメンズヘルス外来を開設。2012年より順天堂大学大学院医学研究科泌尿器外科学教授。日本メンズヘルス医学会理事長、日本抗加齢医学会副理事長。著書に『うつかな? と思ったら男性更年期を疑いなさい』(東洋経済新報社)など。(『The 21 online』2017年10月号より)
【関連記事 The 21 onlineより】
・「なんとなくだるい」を改善する!
・なぜ、中堅社員ほど、やる気を失うのか?
・脳科学から見えてきた!やる気を高める4つの方法
・部下を伸ばす話し方vs.やる気を削ぐ話し方
・葛西紀明・負けず嫌いの「レジェンド」のやる気UP術