最近、現金を使うことがめっきり減った。1週間分の食料品や日用品はネットスーパーで購入し、クレジットカードで決済する。細かい最寄り品はコンビニで買い、電子マネーで支払う。買回り品や書籍はネット通販で注文しカードで購入。電車やバスなど公共交通の料金、飲料の自販機、ファストフードの支払いは電子マネーを使う。公共料金や定期購買は銀行口座の振替だ。ここ1か月の生活を振り返ってみても、NGOのクリスマス募金もカードで行い、現金を使った記憶はあまりない。

キャッシュレス,プライスレス
(画像=PIXTA)

「金融広報中央委員会」(事務局:日本銀行情報サービス局内)が公表した平成29年『家計の金融行動に関する世論調査』(2017年11月10日)によると、二人以上世帯の日常的な支払い手段*は、千円以下の小口決済は現金84.6%、電子マネー13.4%、クレジットカード7.3%だ。一方、5万円以上の高額決済は、クレジットカード58.1%、現金42.2%、電子マネー1.3%になっている。近年では決済金額の大小に関わらず現金決済率が低下しており、日本社会もキャッシュレス化へ向っている。

しかし、日本は国際的にはキャッシュレス決済比が低く、現金流通残高の対名目GDP比が高い。日本のATM(現金自動預け払い機)の設置台数は約11万台と非常に多い。最近ではATMコーナーを縮小・整理する金融機関も出てきているが、キャッシュレス化が進む北欧諸国では、既にATMの台数は大幅に減少し、公共交通なども現金では利用できなくなっているという。日本でもどうしても現金が必要なケースは少なく、「お金」でないと買えないものは何だろうか。

キャッシュレス社会では、個人や企業などによる現金移動が減少し、社会の安全性も高まるだろう。日本で時々発生するタクシー強盗も、運賃を電子マネー決済にすれば起こらないのではないか。以前、中国で街角の自販機が普及しなかった理由のひとつは、自販機の中の現金に対するセキュリティ問題だったという。また、キャッシュレス社会は、一連の決済に要する時間と手間を省き、個人にとって便利なだけではなく、企業や行政機関にとっても業務の効率性を高めることにつながるだろう。

大手クレジットカード「マスターカード」のテレビコマーシャルのキャッチコピーは、『お金で買えない価値がある。買えるものはMaster Cardで。』だ。CMの中では「お金で買えないもの」を“Priceless”と表現し、「お金」を“Priceless”に換えるカードの価値をアピールしている。キャッシュレス時代の到来が、人々の利便性や幸せと共に、社会の犯罪・不正の防止や安全性・生産性の向上などをもたらし、個人が「お金」では買えない“Priceless”な社会的価値を生むことにつながって欲しいものである。

土堤内昭雄(どてうちあきお)
ニッセイ基礎研究所 社会研究部 主任研究員

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