要旨

中国経済,景気指標
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  • 共産党大会後の中国の金融マーケットを概観すると、政府系ファンド(国家隊)による買い支え期待を背景にじりじり上昇してきた株価は党大会後に調整、基準値設定方法の変更やユーロ高を背景に上昇してきた人民元はほぼ横ばい、住宅価格は上昇の勢いを強めており、中国人民銀行は党大会後の12月に米利上げに追随して短期金利を引き上げた(下左図)。

  • 供給面を点検すると、工業生産は党大会前(7-9月期)の前年同期比6.3%増から党大会後(10-11月期)は同6.2%増へ伸びが鈍化したが、製造業PMIと非製造業PMIはともに党大会前とほぼ同水準、同予想指数も高水準を維持しており、大きな落ち込みは観察できない。

  • 需要面を点検すると、小売売上高は党大会前(7-9月期)の前年同期比10.3%増から党大会後(10-11月期)は同10.1%増へ小幅に伸びが鈍化したが、投資は同5.3%増から同5.9%増へと伸びを高め、輸出額(ドルベース)も同6.6%増から同9.7%増へと伸びを高めた。

  • その他の重要指標を点検すると、工業生産者出荷価格と通貨供給量(M2)に変調は認められないものの、党大会の少し前から鉄道貨物輸送量が落ち込み、電力消費量の伸びが鈍化するなど一部の景気指標には陰りが見え始めており、新たな不安材料として浮上している。

  • ニッセイ基礎研究所で開発した回帰モデルを用いて、17年1月に公表される10-12月期の実質GDP成長率を推計したところ前年同期比6.7%増と7-9月期の同6.8%増を小幅に下回る結果となった(下右図)。従って、17年の成長率は前年を上回る前年比6.8%増と見込む。

  • 但し、18年の成長率は減速を予想する。党大会後12月に開催された中央経済工作会議で持続可能で健全な発展を目指す方向を打ち出したからだ。金融緩和で緩んだ規律を引き締め、環境・採算面を重視したインフラ投資に転換して、「6.5%前後」の安定成長を目指すだろう。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

最近の金融マーケット

共産党大会後の中国の金融マーケットを概観すると、株価は小幅に調整、人民元はほぼ横ばい、住宅価格は上昇の勢いを強め、中国人民銀行は短期金利を引き上げた。株式市場に焦点を当てると、15年夏と16年初に急落した中国株は16年1月28日に底打ち(上海総合で2655.66)、その後は景気の持ち直しと政府系ファンド(国家隊)による買い支えを背景にじりじり上昇してきたが、党大会後の11月13日(上海総合で3447.84)をピークに調整に入っている(図表-1)。為替市場に目を転じると、15年8月には人民元の米ドルに対する基準値を3日間で約4.5%切り下げ(市場実勢の下落は約3%)、その後も資金流出懸念から下値を探る動きが続いたが、党大会を直前に控えた17年5月に基準値設定方法が変更されたことやユーロ高を背景に人民元は反転上昇した。その後は一進一退となり、党大会を終えた後もほぼ横ばいで推移している(図表-2)。また、住宅価格は最高値更新を続けている。16年秋に中国政府(含む中国人民銀行)が住宅バブル退治に乗り出したため、高騰の目立つ深?市や上海市などの上昇には歯止めが掛かったものの、高騰は周辺都市に飛び火、11月の70都市平均上昇率は10月を上回った(図表-3)。そして、景気が持ち直しバブル懸念が高まる中で、中国人民銀行は17年春にリバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどを2度に渡り引き上げ、金融を引き締め方向に調整し始めた。そして党大会後の12月14日、中国人民銀行は米利上げに追随してリバースレポ(7日物)の金利を小幅(5bp)引き上げた(図表-4)。

中国経済,景気指標
(画像=ニッセイ基礎研究所)
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景気10指標の点検

◆供給面の3指標

景気指標の中で国内総生産(GDP)への影響が最も大きいのが工業生産(実質付加価値ベース)だ。ここもと中国経済はサービス化が進んでいるが、その影響力は依然大きい。党大会後の10-11月期、工業生産は前年同期比6.2%増(推定(*1))と7-9月期の同6.3%増をやや下回っており、党大会後に減速したとも言える。しかし、工業生産の伸びのピークは4-6月期(同7.0%増)で、党大会の前から既に減速し始めていたと言うのが妥当だろう(図表-5)。

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(*1)中国では、統計方法の改定時に
新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
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【製造業PMI】
製造業の動向をいち早く反映するのが製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)だ。これは製造業3000社の購買担当者へのアンケート調査を元に計算するもので、通常は50%が拡張・収縮の分岐点となる。ここもと10月が51.6%、11月が51.8%と、党大会前の7-9月期の平均(51.8%)とほぼ同水準で推移している。なお、将来3ヵ月の見通しを示す予想指数は、概ね50%台後半(11月は57.9%)の高水準を維持している(図表-6)。

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【非製造業PMI】
非製造業の動向をいち早く反映するのが非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)だ。中国では製造業からサービス業への構造転換が進行中で、その重要性は増している。製造業PMIと同様に50%が拡張・収縮の分岐点とされる。ここもと10月が54.3%、11月が54.8%と、党大会前の7-9月期の平均(54.4%)と同水準で推移している(図表-7)。

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◆需要面の3指標

【小売売上高】
個人消費の動きを見る上で重要なのが小売売上高だ。ここもと10-11月期は前年同期比10.1%増(推定)と、党大会前の7-9月期の同10.3%増を0.2%ポイント下回っている。内訳を見ると、家具や家電などの伸びが鈍化、不動産規制強化による住宅販売の減少が影響し始めた可能性がある(図表-8)。但し、電子商取引(EC)は前年同期比3割超の伸びを継続、BAT(百度、阿里巴巴、騰訊)などIT企業が牽引役となって、都市ばかりでなく農村でも新たな消費を生み出す大きな流れに変調の兆しはない。

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【固定資産投資】
投資の動きを見る上で重要なのが固定資産投資(除く農家の投資)だ。ここもと10-11月期は前年同期比5.9%増(推定)と、党大会前の7-9月期の同5.3%増を0.6ポイント上回っている。内訳を見ると、不動産開発投資は7-9月期の前年同期比7.3%増から同4.8%増へ2.5ポイント鈍化したものの、製造業は同1.6%増(推定)から同3.7%増へ低位ながらも2.1ポイント上昇、インフラ投資も同17.2%増から同21.4%増へ4.2ポイント上昇した(図表-9)。長らく続いた投資減速には底打ちの兆しがある。

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【輸出】
世界の工場といわれる中国では輸出の動きが景気の行方を左右する。ここもと10-11月期の輸出額(ドルベース)は前年同期比9.7%増と、党大会前の7-9月期の同6.6%増を3.1ポイント上回った。相手先別に見ると、日米欧先進国向けが好調だったほか、ASEAN向けの伸びも極めて高かった。また、先行指標となる新規輸出受注(中国国家統計局)は13ヵ月連続で50%を上回り、貿易輸出先行指数(中国税関総署)は改善こそ止まったものの横ばいを維持、当面は堅調に推移すると見られる(図表-10)。

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◆その他の重要な4指標

【電力消費量】
電力消費の動きにも注意が必要だ。15年にゼロ成長に落ち込んだ電力消費は16年に入ると伸びが上向き、16年後半には伸びを高め、17年も高水準の伸びが続いていた。しかし、11月には前年同月比4.6%増へ伸びが鈍化、大気汚染対策の強化や例年より高気温だったことが影響した可能性が高いものの、電力需要の伸びがピークを過ぎた可能性も排除しきれない(図表-11)。

【貨物輸送量】
貨物輸送の動きにも注意したい。景気が良くなると物流も増えるからだ。鉄道貨物は16年後半に底打ちした後、17年も高い伸びを維持してきたが、ここもと急減速して11月は前年同月比0.9%増へ落ち込んだ(図表-12)。但し、道路貨物の伸びは比較的高く輸送全体に大きな落ち込みはない。

【工業生産者出荷価格】
工業品の値動きにも注意したい。景気が良いと工業品も値上がりするからだ。11月の工業生産者出荷価格は前年同月比5.8%上昇と高い上昇率を示した。しかし、原材料高は続いているが、消費財の上昇は小幅に留まる(図表-13)。今のところデフレ懸念もインフレ懸念も小さいと見ている。

【通貨供給量(M2)】
金融面からの点検も重要だ。通貨供給量(M2)は伸びの鈍化が継続、11月は前年同月比9.1%増と17年の目標値「12%前後」を大きく下回った(図表-14)。但し、預貸率は徐々に上昇、銀行貸出残高は11月も前年同月比13.3%増と高い伸びを維持、景気への悪影響は今のところ限定的だ。

中国経済,景気指標
(画像=ニッセイ基礎研究所)
中国経済,景気指標
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総合指標の点検

以上のように党大会後11月までの景気指標を総点検すると、党大会の少し前から鉄道貨物輸送量が落ち込み、電力消費量の伸びが鈍化するなど一部の景気指標には陰りが見え始めた。しかし、製造業PMIと非製造業PMIはともに横ばい圏で推移、同予想指数も高水準を維持しており、工業生産の伸び鈍化も小幅に留まっている。需要面から見ても、小売売上高は小幅に伸びが鈍化したものの2桁増を継続、固定資産投資には底打ちの兆しがでてきており、輸出はむしろ伸びを高めた。従って、景気指標の一部には陰りが見え始めたものの、景気は依然として堅調だと言えるだろう。

また、国内総生産(GDP)に与える影響が大きい景気指標を用いて、18年1月に公表予定の17年10-12月期の成長率を推計して見た。ここでは工業生産、製造業PMI、非製造業PMIの3つを説明変数としたニッセイ基礎研究所で開発した回帰モデルを用いて計算した。その結果を見ると、17年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比6.7%増と、7-9月期の同6.8%増を小幅に下回るという推計結果となった(図表-15)。従って、17年の成長率は16年の前年比6.7%増をやや上回る同6.8%増前後になると見込んでいる。

但し、18年の成長率は減速を予想する(*2)。党大会後12月に開催された18年の経済運営方針を決める中央経済工作会議では、「高速成長段階から高質発展段階へ転換した」として、持続可能で健全な発展を目指す方向を打ち出すとともに、金融面など重大リスクの防止・解消、脱貧困、汚染対策の3つに取り組む姿勢を示した。これまでの金融緩和で緩んだ規律を引き締め理財商品やネット金融に対する監視を強化するとともに、環境・採算面を重視してインフラ投資の担い手となっている官民連携(PPP)に対する監視を強化し、「6.5%前後」の安定成長を目指すことになるだろう。

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(*2)今後の中国経済の見通しに関しては、「中国経済見通し~成長率は18年6.5%、19年6.2%と鈍化するものの心配は御無用!」Weeklyエコノミスト・レター 2017-11-24を参照ください。
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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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