2017年はビットコインを始め仮想通貨のブームで沸き立った1年だった。タイミングをうまくつかんで大きく儲けた人も多いことだろう。年が明けて誰もが気になるのが税金だ。国税庁HPで見解や具体的な計算方法が発表されたが、それでも不安が拭えない人は少なくない。今回は、どのようなケースで課税されるのか、所得の区分はどうなのか、そして具体的な計算方法について解説する。

確定申告が必要なケースとは

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(画像=onsuda / Shutterstock.com )

仮想通貨で儲けた場合、確定申告が必要となるのは次のケースである。

1.仮想通貨を売却して利益を確定した場合
2.購入時より値上がりした仮想通貨を使ってモノやサービスを購入した場合
3.購入時より値上がりした仮想通貨を使って別の仮想通貨や外貨を購入した場合
4.マイニング(採掘)による収益がある場合

「持っているだけで売却も使用もしていないのだが、これも確定申告をしないといけないのですか?」という質問をたまに見かけるが、購入して以来一度も売却も使用もせず、保有しているだけならば確定申告をする必要はない。所得税法では原則として含み益については課税しないこととしている(国外転出時課税は例外)。

また、昨年はビットコインキャッシュのように仮想通貨の分裂により新たな仮想通貨を手にした人も少なくない。この分裂による新たな仮想通貨については、本来ならば「新たな価値の付与」ということで課税の対象になるべきところだ。しかし、分裂のその時点では価値の評価がなかったということから、課税対象から外されている。

「じゃあマイニングだって課税対象から外れるのでは?」と思いたいところだろう。完全に新規発明された仮想通貨ならば評価のしようがついていないが、マイニングの対象となる仮想通貨の多くは評価額がついているものだ。報酬というメリットがあるからこそ、不特定多数の人間が面倒なマイニングに参加することを鑑みると、マイニングによる収益は所得税の課税対象と考えるのが妥当である。

所得の区分はどうなっているのか

国税庁HPのタックスアンサーでは「仮想通貨の使用(売却を含む)による収入は雑所得」と見解が示されている。この雑所得という判断は、仮想通貨の売買やマイニングのみで収入を得ていてもそれは副業的な要素が強いという考えが背景にあると思われる。そのため、実際には次のように分けて所得区分を判断するのが妥当だ。

1.仮想通貨の売買や使用について、営利を目的として継続・反復かつ独立して行い、生計を営むレベルにまで達している場合……事業所得
2.1以外の場合……雑所得

1.については「事業的規模で継続して営んでいる」レベルと考えてよいだろう。この判断は単に金額の規模だけでなく、本業との総合的なバランスを加味して判断するのが無難だ。具体的には、「相応の労力を要する」「人や設備を投入している」「職業として認知されている」「生活の糧となっている」といった事項が目安となる。仮想通貨で事業の備品の決済などを頻繁に行っている場合も、事業所得に該当すると考えてよいだろう。

また人によっては仮想通貨事業を行う会社で勤務し、その勤務の事実に基づいて給与を仮想通貨で受け取っている人もいることだろう。この場合は、事業所得・雑所得のいずれにも該当せず、給与所得として申告することとなる。給与所得の場合、本来は源泉徴収義務のある会社において年末調整が行われてしかるべきものだ。しかしもしそうではない場合、一時的な対策として個人で確定申告を行わなくてはならない。

なお、タックスアンサーで「仮想通貨は雑所得」という見解が発表されて以後も、「仮想通貨の売買益を譲渡所得として処理できないか」というつぶやきが散見された。残念ながら譲渡所得には該当しない。なぜかというと、仮想通貨は金融商品取引法及び商品取引法の対象ではなく、かつ、支払手段として資金決済法で定義づけられているからだ。これらを鑑み、所得税法第33条2項及び所得税基本通達33−1と照らし合わせて考えると、仮想通貨による所得が譲渡所得に該当するとは言いがたい。

確定申告をしなくてもいい人、したほうがオトクな人とは

ここまで書くと、仮想通貨で儲けたなら誰も彼もが確定申告を行わなくてはならないかのように感じられるだろう。実際には、「儲けても所得税の確定申告をしなくてもいい人」がいる。そしてまた「しなくてもいいけどした方がオトクな人」もいる。具体的には次の通りだ。

1.仮想通貨で儲けていても確定申告をしなくていい人

(1)給与所得(正社員やバイト、パートなどによる収入)を1つの会社から受け取っていて、かつ、他の所得(仮想通貨による雑所得の他、一時所得や譲渡所得、配当所得など)が20万円以下の人
 ※ただし、給与による収入が2000万円を超えている場合には他の所得の合計額に関わらず確定申告が必要

(2)公的年金等による収入(2か所以上ある場合は合計額)が400万円以下で、かつ、他の所得(仮想通貨による雑所得の他、一時所得や譲渡所得、配当所得など)が20万円以下の人

(3)給与所得や公的年金等による雑所得がなく、かつ、仮想通貨による雑所得や様々な所得の合計額が38万円以下の人

ただし、(1)(2)については、あくまでも所得税の確定申告が不要なだけで、住民税での確定申告は必要となるので注意したい。また(3)についても、さまざまな所得額の合計が38万円以下であっても33万円を超えるならば住民税の確定申告が必要となる。

2.申告したほうがオトクな人

事業所得に該当する場合、もし売買等による損失が発生していて、かつ他の所得があるのならば、確定申告をしたほうがよいだろう。なぜかというと、事業所得については損益通算が認められているため、損失が発生しているなら他の一部の所得と相殺することができるからだ。そのため、もし源泉徴収されている所得税がある場合、あるいは他の所得で利益が発生する可能性がある場合にはオトクとなる。

ちなみに、今後も事業規模で行う予定であり、かつ会計処理の手間をかける余裕があるのならば、青色申告の承認申請をした方が今後より大きな税務上のメリットを享受できるだろう。

上述の1.と2.を除いた人は、原則として確定申告を行わなくてはならない。

所得の計算方法及び事例

1.計算式

所得は事業所得、雑所得など所得の区分ごとに計算する。事業所得及び雑所得において、所得を計算する上での算式は次の通りである。

所得=総収入金額−必要経費

雑所得区分の仮想通貨については、仮想通貨だけで計算し、所得の有無を算出する。また、事業所得の場合、損失が発生すれば他の一部の所得と損益通算することができるが、雑所得の場合は、損失が発生してもゼロとしてカウントする。つまり、雑所得だと損失が発生せず、他の所得と損益通算することもできないこととなる。また、他にFX取引を行っており、FXで損失が出ていたとしても、仮想通貨の所得と相殺することはできないので注意しよう。

2.総収入金額

総収入金額は、次のものが該当する。

・売却したときの仮想通貨の時価
・モノやサービス、他の仮想通貨や外貨を購入した時の時価

ここで「仮想通貨は刻一刻と変化する。その都度追わなくてはいけないのか」という疑問を抱くかもしれない。原則としては、取引所に残っている売買の記録から算出していただくのがよいだろう。ただし、分からない場合には、取引所のその日の平均時価から算出するので構わない。なお、複数の取引所で売買を行っている場合は、その中でもっとも主要に活用している取引所の時価を用いる。

3.必要経費

仮想通貨の計算上の必要経費はおおよそ次の通りである。

(1)仮想通貨の取得価額
(2)その他仮想通貨売買に直接要した費用

(1)仮想通貨の取得価額

仮想通貨の取得価額の計算に関しては、1度買って売却したものについてはその取得した時の価額となる。ただし、2回以上購入した仮想通貨については、原則として移動平均法(※1)を用いて取得価額を計算することとなる。ただ、移動平均法は頻繁に取引を行っている場合には非常に計算が煩雑となる。そのため、次年度以降も継続することを条件として、総平均法(※2)により計算することも認められている。なお、複数の取引所で取引を行っている場合には、主要な取引所での時価を取得価額計算の際に採用することとなる。

※1
移動平均法とは、仕入れの都度、その時点での在庫分に合算し、合計金額を合計数量で割ることで平均原価を算出し、これを取得価額とする方法。 (例)
4月1日に1BTCを30万円で購入、8月1日に1BTCを40万円で購入、10月1日に1BTCを80万円で売却、12月1日に1BTCを100万円で購入した場合

●8月1日時点での取得価額

(30万円+40万円)÷(1BTC+1BTC)=35万円…1BTCあたりの取得価額

●12月1日時点での取得価額

(30万円+40万円−35万円+100万円)÷(1BTC+1BTC−1BTC+1BTC)=67万5千円…1BTCあたりの取得価額

※2総平均法とは
総平均法とは、会計期間の平均仕入単価をもって、売却に対する取得価額、期末在庫の評価額とする方法である。

先ほどの例でいうと、期間中の売却に関係なく、取得原価は一律に次のように計算する。

(30万円+40万円+100万円)÷(1BTC+1BTC+1BTC)=566,666円…今期の取得価額
※翌年は、この566,666円を売買計算の取得価額の一つとして加味する。

(2)その他仮想通貨売買に直接要した費用
また、購入した仮想通貨以外にも、仮想通貨売買に直接要した費用として次のようなものを計上することができる。

・取引手数料
・口座開設に要した費用
・仮想通貨に関する書籍
・仮想通貨に関するセミナー代
・セミナー往復の交通費
・仮想通貨売買専用PCがあるなら、そのPC購入代
・仮想通貨マイニングのための機械
・売買やマイニングに必要な電気代、電話代、部屋代など

電気代や電話代、部屋代のように、プライベートとも共通して支払っている経費については、直接必要な部分だけを算出するよう、按分計算が必要となる。この場合の按分基準は、使用した時間や必要空間、使用頻度など、誰もが見て合理的な基準でなくてはならない。

複数の仮想通貨を売買している場合の計算事例

仮想通貨にはビットコインやイーサリアム、リップルなどを始めおよそ1000種類あると言われている。複数取引している人も少なくない。この場合、どのように計算したらよいのだろうか。

複数取引している場合には、まず個々の仮想通貨において損益を計算し、最後、取得原価以外の経費を差し引いて最終的な仮想通貨としての所得を計算するのが妥当と思われる。

(例)2017年、ビットコインとイーサリアムについて売買を行った。
・ビットコインについて
4月1日に1BTCを30万円で購入、8月1日に1BTCを40万円で購入、10月1日に1BTCを80万円で売却、12月1日に1BTCを100万円で購入
・イーサリアム
8月に1ETHを2万5千円で購入、9月に1ETHを3万円で売却、12月に2ETHを5万円で購入
・必要経費…電気代年間3万円(使用時間を基準とした按分割合50%)、本代2万円
・取得価額は総平均法で計算する。

●計算方法

(1)ビットコイン
(30万円+40万円+100万円)÷(1BTC+1BTC+1BTC)=103万3333円…今期のビットコイン取得価額
(80万円−103万3333円)×1BTC=▲23万3333円(ビットコイン売却による損失)

(2)イーサリアム
(2万5千円+5万円)÷(1ETH+2ETH)=2万5千円…今期のイーサリアム取得価額
(3万円−2万5千円)×1ETH=5千円(イーサリアム売却による利益)

(3)売買損益合計
(1)+(2)=▲22万8333円

(4)必要経費を差し引く
(3)−(3万円×50%+2万円)=▲26万3333円

これが事業所得なら他の一部の所得と損益通算、雑所得ならゼロ、つまり仮想通貨による所得額は0円という扱いになる。

税率はどうなるのか?

仮想通貨については総合課税が適用される。これは仮想通貨に関する所得が事業所得であろうと雑所得であろうと変わらない。総合課税が適用されるということは、仮想通貨の雑所得は、給与所得や公的年金等の雑所得、配当所得などと合算され、それぞれに必要な控除がなされた後の課税所得金額によって税率が決まるということだ。日本は所得税については累進課税を採用しているため、所得が高くなるにつれ高税率が適用されることとなる。具体的には次の通りだ。

【課税される所得金額】  税率
195万円以下        5%
195万円超330万円以下   10%
330万円超695万円以下   20%
695万円超900万円以下   23%
900万円超1800万円以下   33%
1800万円超4000万円以下  40%
4000万円超        45%

実際の課税は上記の税率に住民税率10%が加算されると考えてよい。つまり、仮想通貨による利益が4000万円を超えていたら、実質50%あるいは55%の税率が適用されることとなる。「仮想通貨で億り人になれた!」と感じていた人にとっては思わぬ痛手となるであろう。

節税対策はどうなのか

総合課税であるため、他の所得とも共通する節税を行うのが王道となる。具体的には次の通りだ。

・必要経費をきちんと算出する
・必要な控除に見落としがないかどうかをチェックする(特に忘れがちなのが勤労学生控除、寡夫控除、医療費控除、小規模企業共済やiDeCoによる控除など)
・ふるさと納税による節税
・外国で税金が発生している場合には外国税額控除
・その他各種控除(住宅ローン控除など)
・その他、雑損失や資産の譲渡損などの見落としのチェック

以上はきわめて基本的な節税策だが、慌てていると見落としやすいので注意したい。また、事業所得に該当する場合には、翌年以後青色申告を検討することをおススメする。

使用する確定申告書は

確定申告書には確定申告書Aと確定申告書Bの2種類がある。仮想通貨による所得が雑所得に該当し、かつ、給与所得、その他雑所得、一時所得、配当所得しかない人はより簡易な確定申告書Aを使うことができる。仮想通貨による所得が事業所得に該当する人及び仮想通貨による所得が雑所得に該当するけれども他に譲渡所得や事業所得、山林所得や不動産所得などがある場合には確定申告書Bしか使うことができない。

迷ったら確定申告書Bで申告を行うとよいだろう。

申告期限および納税について

申告の期間は、例年2月16日から3月15日までとなっている。申告書の提出方法は、直接窓口に提出する他、郵送やe-taxも利用することができる。なお、納税は税務署で直接納税する他、金融機関での納付、口座振替、ダイレクト納付、ネットバンキングによる納付、クレジットカードなどを使うことができる。納税額が30万円以下ならば、コンビニで納付することも可能だ。

申告や納付が遅れた場合、申告をごまかした場合

申告が期限に間に合わなかった場合でも申告を行うことはできる。ただし、ペナルティが課されるので注意が必要だ。課されるペナルティには無申告加算税(本税50万円までに対し15%、50万円超については20%。ただし税務調査前に自主申告した場合は5%)、延滞税がかかる。

また、申告すべき所得や税額をより少なく見積もった場合、あるいはなかったことにした場合には、10〜15%の過少申告加算税が課されることになる(自主申告した場合にはかからない)。

さらに、その仮装や隠ぺいが悪質と見られる場合には35%〜40%の重加算税が課される。仮想通貨で多額の利益が出た人の中には「隠してもバレないかも」とつい魔がさしそうになることもあるかもしれない。しかし、日本の税務当局は現在仮想通貨にかなり目を光らせている。目先の利益をとって先々大損をすることがないよう、誠実に申告を行っていただきたい。

利確していなくても保有仮想通貨を報告しなくてはいけない場合

また、売却などによる利益確定を一度もしていなくても、財産債務調書により、保有の仮想通貨について税務当局に報告しなくてはいけないこともある。これは次の両方に該当した場合だ。

・確定申告書を提出しなくてはならない人で、その年の総所得金額及び山林所得の金額の合計額が2000万円を超える人
・その年の12月31日において、その価額の合計額が3億円以上の財産(※)又はその価額の合計額が1億円以上の国外転出特例対象財産(※)を有する人
※財産とは、資産から負債を除いた純資産を刺すのではなく、負債を考慮しない総資産を言う

仮想通貨による億り人が続出した2017年、上記要件に該当する人もいるだろう。些細なことだが、該当する場合には、このような添付書類も忘れずに提出していただきたい。

いかがだっただろうか。3月15日まではまだ時間があるように感じられるが、実際に作業に取り掛かるとすごく期限までの期間が短く感じられるものだ。なるべく余裕をもってコツコツ準備を進めていただきたい。