はじめに

米政府機関の役割
(画像=PIXTA)

米国の会計年度は毎年10月1日から翌年の9月末までである。議会における予算審議は、毎年2月上旬に発表される予算教書(大統領予算)(1)からスタートする。予算教書は大統領府にある行政管理予算局(OMB)が策定する。一方、予算審議において予算教書はあくまで参考との位置づけとなっており、予算編成作業は議会が主導権を握っている。

もっとも、議会によって策定された予算案が最終的に法律として成立するためには、大統領の署名が必要(2)となるため、議会は大統領の意向を予算案に一定程度反映させることが必要となっている。その点で、議会と大統領の間で牽制機能が働いており、パワーバランスが保たれている。

一方、このようなパワーバランスを維持するために、予算編成・執行管理には行政府、立法府内の複数の政府機関が関与している。

本稿では予算編成・執行管理に係わる政府機関として、行政府内に属する行政管理予算局(OMB)、財務省財政サービス局(Bureau of the Fiscal Service)、立法府に属する議会予算局(CBO)、議会調査局(CRS)、政府説明責任局(GAO、旧会計検査院)の各機関について、それぞれの役割を整理し、解説を行うものである。

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(1)大統領から議会に対する予算要求。
(2)大統領が拒否権を発動した場合でも、上下院の3分の2以上の賛成で拒否権を覆すことは可能。

予算編成プロセスにおける各政府機関の役割

予算編成プロセスは、大きくは予算教書を作成する”Formulation”フェーズ、予算教書を基に議会が独自の予算案を審議する”Congressional”フェーズ、成立した予算法に基づき予算を執行する”Execution”フェーズ、予算執行後の監査評価を行う”Financial Management”フェーズに分けられる。後掲図表1は、19年度予算(18年10月~19年9月)を例に、法律などが定める予算編成のスケジュールと、本稿で取り上げる5つの政府機関がどのフェーズで予算編成・執行管理に関与するか示したものである。なお、19年度予算の実際の編成作業では図表で提示したものから、既にスケジュールに狂いが生じているものがあるが、本稿では無視する。また、本稿では議会審議における具体的な予算編成プロセスについての説明も割愛する(3)。

米政府機関の役割
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(3)予算編成プロセスの詳細についてはWeeklyエコノミストレター(2015年2月20日)「米国予算審議がキックオフー紆余曲折が予想される予算審議」を参照下さい。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=42234?site=nli

◆Formationフェーズ

19年度予算作業は、会計年度開始から1年半前となる17年春にスタートする。各省庁は18年度の予算教書提出後から19年度予算編成の準備を開始するものの、正式にはOMBが大統領の予算や政策に対する優先順位を反映したガイダンス(Spring Guidance)を各省庁に提出することで開始される。その後、OMBは各省庁との予算折衝を行い18年2月に発表される予算教書の取り纏めを行なう。

◆Congressionalフェーズ

議会は、予算教書の提出を受けて予算審議を開始するが、CBOは予算審議の準備段階として18年1月に経済・財政見通し(economic and budget outlook)を議会に提出するほか、2月には提出された予算教書の内容を独自に分析した結果を議会に提出する。また、CBOは、適宜議会からの要請によって、議論されている政策を実行した場合の財政への影響などについてのコスト推計(cost estimate)を行い、予算編成作業をサポートする。一方、CRSはCBOとは別に、議会のためのシンクタンクとして、予算編成に関連する政策について広範な情報提供を行い、議員による政策立案をサポートする。これら機関のサポートを受けて議会は、10月1日の会計年度開始までに歳出法案を成立させる。

◆Executionフェーズ

次に、成立した歳出法に基づきOMBは年度開始前までに予算配分(Apportionment)を行い、18年10月の会計年度開始後は財務省内にある財政サービス局が歳出法案に基づいて予算執行業務を行うほか、米政府の金融報告(Financial Report of the U.S. Government)などの各種報告書の取り纏めも行う。

◆Financial Managementフェーズ

最後に、19年9月の会計年度終了後には予算が適切に執行されていたか、GAOは各省庁がまとめた財務諸表をOMBと協力しながら監査するほか、歳出の無駄がないか調査を行う。

以上をまとめると、大統領予算の編成がOMB、議会の予算編成サポートがCBO、CRS、予算執行がOMB、財政サービス局、監査・評価がGAO、OMBとなる。次に、各機関の成り立ちも含めて役割について補足的な説明を行う。

行政府内の機関

◆行政管理予算局(OMB)

OMBは、1921年に「1921年予算・会計法」(The Budget and Accounting Act of 1921)によって財務省内に予算局(Bureau of the Budget、BOB)として設立され、1939年に大統領府に編入された後、1970年にOMBに改変された。OMBの局長は大統領が指名し、上院の承認が必要である。

OMBの役割は、前述のように予算教書を準備するほかに、各省庁の予算執行を監督することである。また、各行政機関における業務の効率性について評価する役割も担っている。一方、OMBもCBOと同様にコスト推計を行うものの、議会の予算編成では活用されず、もっぱら大統領の意思決定に活用される。

なお、OMBの予算は17 年度実績で950億ドル、フルタイムの職員数は467名となっており、大統領行政府(Executive Office of the President)の中では最大の組織となっている。

◆財務省財政サービス局

財務省内にある財政サービス局は、国債発行により資金調達を担っていた国債局(Bureau of Public Debt)と、政府支出などの財務管理を担っていた財務管理局(Financial Management Service)が統合して12年10月に設立された。財務サービス局は資金調達と支払いを含めた予算執行を行うほか、各省庁からの財務情報を収集し、日次や月次で財務省収支報告書(Treasury Statement )を公表している。各省庁からの予算執行状況や財務状況はGTAS(Government-wide Treasury Account Symbol Adjusted Trail System)を通じて情報収集されている。なお、同システムの開発は財政サービス局とOMBが協力して行っている。

財務サービス局の予算は17年度実績で5,120億ドル、フルタイムの職員数は2,084人である。

立法府内の機関

◆議会予算局(CBO)

CBOは1974年に「議会予算法」(The Congressional Budget and Impoundment Control Act of 1974)に基づいて設置された。監督機関は上下院の予算委員会であり、下院議長、上院議長代行が任期4年の局長を任命する。

CBOの役割は、経済や財政の意思決定に際して必要とされる客観的、タイムリーな分析を超党派的な立場から議会に提供することである。また、CBOは経済・財政見通しを作成するほか、議会に対して政策の様々な選択肢を提供することが役割となっている。もっとも、CBOは議会に対して政策の選択肢は示すものの、政策提言は行なわないことになっている。一方、CBOの情報提供に際しては提供先の序列が決まっており、予算委員会が最も優先度が高く、次いで歳出委員会、歳入委員会、その下は、その他の委員会、合同委員会、最後が議員個人となっている。

なお、CBOの予算は17年度実績で470億ドル、フルタイムの職員数は237人と、OMBなどに比べて小さい組織となっている。

◆議会調査局(CRS)

CRSは1914年に立法レファレンス局(The legislative Reference Service)として連邦議会図書館内の一部局として設立された後、1970年に「立法府再生法」(The Legislative Reorganization Act of 1970)によって現在の議会調査局に改名された。CRSは合同図書館委員会の監督を受け、議会図書館の館長が局長を任命する。CRSの役割は超党派的な立場から、議会の委員会および議員に対して予算分野に限らず、議会内のシンクタンクとして国政の全ての分野に亘る情報提供を行っている。前述のように議会には調査機関としてCBOが存在するが、CRSはCBOとの調査の重複は避けつつ、より広範な情報提供を行っている所に特徴がある。また、情報提供先の優先順位はついておらず調査依頼を受け付けた順に処理することになっている。

なお、CRSの予算は17年度実績で1,060億ドル、フルタイムの職員数は582人である。

◆政府説明責任局(GAO、旧会計検査院)

GAOは、OMBと同様に1921年に予算・会計法に基づき、行政部門から独立した監査機関として、当初は会計検査院(General Accounting Office)の名称で設立された。GAOは04年に「2004年GAO人的資本改革法」(The GAO Human Capital Reform Act of 2004)によって、略称は従来と変わらないものの、名称が政府説明責任局(General Accountability Office)に変更された。GAOの監督機関は下院行政監視・政府改革委員会と上院国土安全保障・政府問題委員会であり、15年を任期とする院長は、上下院の特別委員会(合同委員会)が作成する候補者リストの中から大統領が任命することになっている。

GAOの役割は、予算執行、監査・評価過程において議会からの要請に基づいて、監査や評価、改善勧告などを行うことである。このため、政策の選択肢を示すものの政策提言を行わないCBOやCRSとは政策提言を行う点で大きく異なっている。また、「1993年政府行政成果法」(The Government Performance and Result Act of 1993)によって行政府が目標を設定し、事業評価と予算編成を結合させることを定めたことを受けて、GAOは会計監査に限らず、各省庁が効率的、効果的に政策を実施しているか等の情報提供を通じて、国民に対して連邦政府のパフォーマンス向上と説明責任を果たすための役割が強化された。

なお、GAOの予算は17年度実績で5,420億ドル、フルタイムの職員数は2,988人と予算関連の政府機関の中では突出して予算規模、人員が多くなっている。

<参考資料>

渡瀬義男(2016)「アメリカの予算制度と財政規律」(参議院、経済のプリズムNo.149)
渡瀬義男(2005)「米国会計検査院(GAO)の80年」(国立国会図書館レファレンス 平成17年6月号)
上原啓一(2016)「米国の予算編成に係調査機関の役割」(参議院、経済のプリズムNo.149))

OMB(2016), ”Section 10- OVERVIEW OF THE BUDJET”
Michele Johnson, Shelly McAllister, and Dave Rowe(2014), “The Federal Budget Process: Credle to Grave”24th Annual Governmental Financial Management Conference
Carl L. Morvavitz(2015), “Nuts and Bolts on the Congressional Budget Process” Budget Formulation & Execution Line of Business Bill Henifff Jr., Meagan Suzanne Lynch, Jessica Tollestrup(2012),”Introduction to the Federal Budget Process” CRS Report for Congress Michelle D. Christensen(2012), “ The Exectutive Budget Process: An Overview”, CRS Reprot for Congress

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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