●4月の人民元(スポット・オファー、中国外貨取引センター)は米ドルに対して下落、1米ドル=6.3340元(前月末比0.9%安)で取引を終えた。米長期金利が上昇した4月は、米ドルが世界通貨に対して全面高となったため人民元も連れ安となったが、米中貿易摩擦で切り上げ圧力が掛かる人民元は相対的に堅調、日本円に対しては前月末比1.8%の元高・円安となった。

●今後の展開としては、経済金融環境面を見ると米中金利差縮小などで元安・米ドル高となりやすいものの、18年6月に向けては米中通商交渉が本格化するため、中国政府(含む中国人民銀行)は人民元レートを高めに誘導すると見ていることから、上値を試す展開になると予想している(想定レンジは1米ドル=6.0~6.4元、1元=16.5~18.0円)。

4月の人民元の動き

人民元,米中通商交渉
(画像=PIXTA)

4月の人民元(スポット・オファー、中国外貨取引センター)は米ドルに対して下落、1米ドル=6.3340元(前月末比0.9%安)で取引を終えた。これまでの動きを振り返ると、15年8月には米ドルに対する基準値を3日間で約4.5%切り下げ、その後も資金流出から下落が続いたが、昨年10月の共産党大会前に中国が基準値設定方法を変更したことやユーロ高を背景に人民元は上昇に転じた。その後一旦は調整したものの、1月に中国が基準値設定方法を元に戻したことや3月に米中貿易摩擦が深刻化したのに伴って人民元には切り上げ圧力が掛かるとの思惑が浮上、人民元ショック前の同6.2元を窺う動きとなった(図表-1)。しかし、4月には米長期金利が一時3%台に乗せるなど上昇傾向を強める中で、ユーロが米ドルに対し前月末比1.8%下落、日本円も同2.8%下落するなど米ドルが全面高となったため、人民元も連れ安した。但し、人民元レートは相対的に堅調で、日本円に対しては100日本円=5.80405元(1元=17.232円)と同1.8%の元高・円安で取引を終えた(図表-2)。

人民元,米中通商交渉
(画像=ニッセイ基礎研究所)

今後の展開

さて、今後の展開としては、経済金融環境面から見ると米利上げとそれに伴う米中金利差縮小やユーロ・日本円・アジア通貨などの下落により元安・米ドル高となりやすいものの、18年6月に向けては米通商法301条の発動を巡る米中通商交渉が本格化するため、中国政府(含む中国人民銀行)は人民元レートを高めに誘導すると見ていることから、上値を試す展開になると予想している(想定レンジは1米ドル=6.0~6.4元、1元=16.5~18.0円)。

米中の経済金融環境を見ると、米国では景気拡大が継続しており予想期間内(18年6月まで)に追加利上げがあると見られる。他方、中国でも景気は堅調であり、4月17日に公表された18年1-3月期の成長率は実質で前年同期比6.8%増と18年の成長率目標(6.5%前後)を上回るとともに、消費者物価は緩やかに上昇率を高めている(図表-3)。そして、中国人民銀行はリバースレポ(7D)の金利を米利上げに追随して引き上げた(図表-4)。但し、中国の引き上げ幅は米国より小幅に留まっているため米中金利差は縮小、元安・米ドル高が進みやすい状況となっている。

人民元,米中通商交渉
(画像=ニッセイ基礎研究所)

しかし、当面は米中貿易摩擦が焦点となるため、人民元は上値を試す展開になると予想している。米国が3月23日に安全保障を理由に通商拡大法232条に基づく追加関税(鉄鋼25%、アルミ10%)を発動すると、中国は4月2日にその対抗措置として追加関税(ナッツ類やワインなど15%、豚肉など25%)を発動した。また、米国は4月3日に中国による知的財産権の侵害に対する制裁措置として通商法301条に基づく追加関税(1300品目、500億ドル、税率25%)を発表、中国は翌4日にその対抗措置としての追加関税(106品目、500億ドル、税率25%)を発表した。さらに4月5日、トランプ米大統領が通商法301条に基づく追加関税の積み増し(1000億ドル)の是非を米通商代表部(USTR)に指示したと発表すると、中国は米国が追加関税商品リストを発表すれば「我々はいささかも躊躇することなく、即刻大きな度合いの反撃を行なう」とした上で、「米国第一」を掲げる米国の保護主義により、「多国間主義と自由貿易が脅威を受けており」、「我々は断固として闘わなければならない」として対抗措置をとる構えを見せた。

そして、これから18年6月に向けては、米通商法301条の発動を巡る米中通商交渉が本格化する。米中の“関税引き上げ合戦”は、中国経済だけでなく米国経済にも大きな打撃となるため、米中両国はその回避に向けての道を探ることになるだろう。そして、米中通商交渉の期間中、中国政府(含む中国人民銀行)は人民元レートを高めに誘導する可能性がある。中国サイドから見ると、人民元レート上昇は輸出にこそ不利に働くものの、ここもとの中国の景気回復は世界経済の好調と輸出に依存し過ぎたとの負い目がある上、購買力平価との関係で見て大幅に割安な現状を踏まえればある程度のレート調整はやむを得ない面もある(図表-5)。また、人民元レートの上昇は輸入物価を押し下げるため、消費者物価が上昇し始めた中ではインフレ抑制効果も期待できる。従って、中国経済の現状を考えると人民元レート上昇がもたらす悪影響は小さいため、中国政府(含む中国人民銀行)は、本格化する米中通商交渉を有利に進めるためにも、人民元レートを高めに誘導すると見ている。

人民元,米中通商交渉
(画像=ニッセイ基礎研究所)

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三尾幸吉郎(みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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