最近、南北関係が速いスピードで改善している。大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射し続け、韓国や日本のみならず世界全体が脅威にさらされたのがわずか6カ月前のことである。今年で分断から73年、朝鮮戦争の停戦から65年になった朝鮮半島に春は来るのだろうか。

朝鮮半島,南北統一
(画像=PIXTA)

南北関係改善のきっかけになったのは平昌(ピョンチャン)オリンピックであるだろう。今年2月に開催された平昌オリンピックに北朝鮮はスキー、スケート、アイスホッケーの3競技に22選手とコーチ・役員24人の選手団、そして報道陣21人を派遣した。また、アイスホッケー女子ではオリンピックでは初めて南北単一チームが結成され、2月9日の開会式では南北選手団が「統一旗」を使用し合同行進を行った。平昌オリンピックにての交流は、スウェーデンのハルムスタッドで開かれた2018世界卓球選手権にも繋がり、5月3日には南北女子卓球が、南北単一チームを電撃構成した。南北の卓球チームが一つになったのは1991年千葉世界選手権大会以来27年ぶりだ。

文化芸術分野の交流も活発だ。玄松月(ヒョンソンウォル)団長が率いる137人の団員から成る北朝鮮の三池淵(サムジヨン)管弦楽団は、平昌オリンピックの祝賀イベントとしてソウルや江陵(カンヌン)で2回にわたり公演を行った。抽選により無料で提供された合計780組(1560人)のチケットには15万人を超える応募が殺到したそうだ。また、3月31日は韓国の芸術団約160人が北朝鮮の平壌を訪ねて4月1日と3日に公演を開いた。

このようなスポーツ及び文化芸術の交流の結果は、4月27日の板門店にての南北首脳会談に繋がり、11年ぶりの3回目の南北首脳会談が開かれた。文在寅大統領(以下、文大統領)と金正恩国務委員長(以下、金委員長)は、板門店の韓国側にある「平和の家」で首脳会談を行った後、「朝鮮半島の平和と繁栄、統一に向けた板門店宣言」を発表した。板門店宣言では、朝鮮半島に今後、戦争はないことを宣言しており、その主な内容には、非核化による核のない朝鮮半島の実現、終戦宣言、平和体制の構築、将官級の軍事会談の開催、鉄道や道路の南北連結事業の推進、2018年アジア大会をはじめとした国際競技に共同で出場、離散家族・親戚再会事業の推進、首脳会談やホットラインの定例化、2018年秋の文大統領の平壌訪問などが含まれた。

金委員長が「社会主義経済強国の建設」のために、経済部門を開放すると、文大統領の「朝鮮半島の新経済指導構想」を中心に、北朝鮮の社会間接資本(SOC)に対する韓国側の大々的な投資と開発が行われる可能性が高い。実際、南北の貿易総額は2015年までは増加傾向にあった。特に、2004年末に開城(ゲソン)工団に韓国企業が入居してから貿易量は大きく増加し、2005年には始めて貿易総額が10億ドルを超えた。また、2015年の貿易総額は27億ドルで歴代最高額を更新した。しかしながら、2016年2月に開城工団が閉鎖されてから、南北の貿易量は大きく減少し、現在はほぼ貿易が行われていない状況である。

朝鮮半島,南北統一
(画像=ニッセイ基礎研究所)

従って、今後、板門店宣言の内容が実現されると、南北間の交易が回復され、大きな経済効果が発生すると期待されている。韓国経営者総協会は、「朝鮮半島の地政学的リスクが減少することにより、消費と投資心理が改善され、対外信頼度が向上されるとともに、北朝鮮への社会間接資本及びインフラ投資の誘致、開城工団の再稼動、混交事業の再開により景気が回復し、経済が成長するきっかけになるだろう」と期待感を表明した。また、韓国貿易協会も「北朝鮮の核の問題が解消され、過去とは異なる持続可能で安定的な南北交易の道が開くことを期待する」と南北首脳会談を肯定的に評価した。開城工団の再稼動や新しい経済協力事業の推進は、中小企業を中心とした韓国企業に活力を呼び起こす可能性が高い。また、2008年に中止された金剛山(クムガンサン)観光の再開は、江原道を中心とした地域経済にプラスの効果をもたらすだろう。韓国の資本を中心とした北朝鮮への社会間接資本やインフラの投資は雇用を拡大し、景気回復に繋がる。さらに、今後、北朝鮮の鉄道が開放され、韓国と繋がると、釜山からヨーロッパまで鉄道で貨物を運搬することができる。物流費は現在の半分以下まで節減できると推計されている。

このように南北関係が改善され、平和統一を成し遂げるのであれば、それ以上望ましいことはないだろう。南北の人口を合わせると約7600万人に達する。これは1990年に統一を達成したドイツの人口約8200万人に匹敵する数値であり、経済規模は今より飛躍的に大きくなる。北朝鮮の資源や労働力、そして韓国の資本や技術を有効に活用すれば、思った以上のシナジー効果が得られるかも知れない。もちろん、統一のためには解決すべき課題も山積している。意識や生活水準、言葉、社会保障、インフラなどの差をどのように縮めて行くのか、緻密な計画を立てる必要がある。特に、多くの費用がかかると予想されている社会保障に対する財源をどのようにまかない、最も効率的に運営するかに関して知恵を絞るべきである。せっかく訪れた平和ムードが台無しにならず、南北統一や東アジアの平和に繋がることを切実に願うところである。

金 明中(きむ みょんじゅん)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員

【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
雇用の不安定化が続く日韓-非正規職の問題をどう解決すればいいだろうか-
韓国における公的扶助制度の現状と課題(前編)-生活保護制度から国民基礎生活保障制度の導入まで-
日韓比較(1):大卒初任給―韓国の大卒初任給は本当に日本より高いのか?―
保護主義色を強める米国-新たな国際経済体制が必要
教条主義という危険~アキレスと亀の話を論破できますか?~