2018年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比6.8%増(1)と、前期の同6.5%増から上昇し、市場予想(2)(同6.8%増)と一致する結果となった(図表1)。
1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に建設投資の拡大が成長率上昇に繋がった。
民間消費は前年同期比5.6%増(前期:同6.2%増)と低下した。民間消費の内訳を見ると、住宅・水道光熱(同7.8%増)と家具・住宅設備(同7.6%増)、レストラン・ホテル(同7.6%増)こそ堅調だったが、シェアの大きい食料・飲料(同4.6%増)や交通(同1.7%増)など低下した項目が多かった。
政府消費は同13.6%増と、公務員の増員と昇給により前期(同12.2%増)から更に上昇した。
総固定資本形成は同8.9%増(前期:同9.4%増)と好調ながら若干鈍化した。まず設備投資は同8.4%増(前期:同11.2%増)と低下した。設備投資の内訳を見ると、電気通信装置(同26.4%増)や鉱業・建設機械(同37.5%増)、オフィス機器(同37.2%増)は二桁増となったが、全体の4割を占める道路運送車両(同3.6%増)は伸び悩んだ。また建設投資は同10.1%増(前期:同5.7%増)と上昇した。公共建設投資(同25.1%増)が更に上昇し、民間建設投資(同6.8%増)は4四半期ぶりに堅調に拡大した(図表2)。
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲2.9%ポイントとなり、前期の▲1.1%ポイントからマイナス幅が拡大した。まず輸出は同6.2%増(前期:同20.6%増)と鈍化した。輸出の内訳を見ると、財輸出が同2.9%増(前期:同22.2%増)と主力の電子部品を中心に伸び悩んだ。サービス輸出については同17.9%増(前期:同14.5%増)と、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)産業を中心に高水準を維持した。輸入は同9.3%増(前期:同18.1%増)と鈍化したが、輸出の伸びを上回った。
供給項目別に見ると、第二次産業の拡大が成長率上昇に繋がった(図表3)。
GDPの約6割を占める第三次産業は同7.0%増(前期: 同6.9%増)と若干上昇した。不動産・事業活動(同4.7%増)と商業(同6.1%増)、運輸・通信(同6.4%増)が伸び悩んだものの、金融(同7.6%増)と行政・国防(同13.2%増)が堅調に拡大した。
第二次産業も同7.9%増(前期: 同7.0%増)と上昇した。製造業(同8.0%増)がラジオ、テレビ・通信機器やコンピュータ機器、電気機械を中心に堅調を維持すると共に、建設業(同9.3%増)が加速した。一方、電気・ガス・水供給業(同6.0%増)と鉱業・採石業(同4.5%増)は伸び悩んだ。
第一次産業は前年同期比1.5%増と、前期の同2.4%増から小幅に低下した。サトウキビをはじめ、マンゴーやコーヒーの生産が落ち込み、農業(同2.5%増)は緩やかな成長に止まったほか、水産業(同3.7%減)と林業(同12.7%減)がそれぞれ減少した。
1-3月期GDPの評価と先行きのポイント
フィリピン経済は、大統領選挙関連の特需があった16年からの反動減で昨年前半には内需が一時鈍化したが、輸出の好調を追い風に企業の設備投資が拡大したほか、政府消費の拡大も支えとなり、その後内需は徐々に力強さを取り戻してきている。1-3月期は輸出と消費が鈍化したものの、建設投資と政府消費が好調で成長率は上昇した。6.5%以上の経済成長は10期連続であり、持続的な高成長が続いていると言える。
1-3月期の最大の成長ドライバーは建設投資だ。3期連続で伸び悩んでいた民間建設投資は堅調な拡大をみせた。政府のインフラ整備事業が加速して、その呼び水効果が民間部門に波及したものとクトのうち、4月までに23件が承認されており、政府は年内に34件を着工する予定である。インフラ財源は税制改革(3)による税収増と大規模ODA、ハイブリッド方式のPPP(官民連携)の3本立てとなっており、更に政府は財政赤字をGDP比で3%まで拡大しようとしている。財源不足でインフラ投資が進まないとはならないだろう。またインフラプロジェクトにより、政府は中期的に毎年110万人の雇用が創出されると見通している。
しかし、民間消費は再び5%台まで鈍化した。労働市場の改善や海外出稼ぎ労働者からの送金額(ペソベース)の高い伸びは続いているが、足元のインフレ率と金利の上昇が消費に冷や水を浴びせたようだ。実際、1-3月の消費者信頼感指数は明確に低下している。また物品税増税を控えた自動車の駆け込み需要の反動で、1-3月の新車販売が落ち込んだことも影響したとみられる。
消費減速の一因となったインフレ率だが、税制改革第一弾と燃料価格の高騰により年明けから大きく上昇している。4月の消費者物価上昇率は前年同月比4.5%増と、昨年末から+1.5%ポイント上昇しており、中央銀行の物価目標2~4%を上回っている(図表4)。当初、政府は税制改革第一弾による物価上昇が+0.4%ポイントと見込んでいた。昨年からの原油高を考慮しても、税制改革による物価上昇は想定を超えたものとなっている。中央銀行は経済が堅調に推移していれば、金利を引き上げるとの見通しを先に示している。本日、フィリピン中央銀行(BSP)は金融委員会を開催する。仮に今回利上げが見送られたとしても、金融政策の正常化に舵を切るのは既定路線であり、あとはタイミングの問題だ。
このほか、純輸出は前期にも増して減少した。昨年好調が続いた輸出がベース効果で伸び悩み、またインフラ整備計画や原油高を背景に輸入が拡大しているためである。少なくとも年内はこうした純輸出の減少が成長率を押下げる構造が続きそうだ。
フィリピン政府は今年の成長率目標を7-8%と設定している。1-3月期の成長加速により、今年の7%成長は視野に入ったものの、物価上昇と純輸出の減少、そして今後の金融引締めの可能性を考慮すれば、成長目標の達成は容易ではないだろう。
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(1)5月10日、国家統計調整委員会(NSCB)が国内総生産(GDP)統計を公表。前期比(季節調整値)は1.5%増と前期(同1.5%増)から横ばいとなった。
(2)Bloomberg調査
(3)税制改革は今年1月に第一弾(所得税・物品税)が施行済み。政府は年内に第二弾(法人税)、第三弾(不動産税・贈与税)、第四弾(資本所得課税)を成立し、来年の施行を目指している。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員
http://www.nli-research.co.jp/
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