アリババの1~3月の四半期決算は、前四半期比、売上は619億3200万元、61%増と大幅アップした。しかし利益は66億4100万元、これは33%の大幅ダウンである。

この主要な原因はアリババが33%の株式を所有する金融子会社、アント・フィナンシャル(螞蟻金服)の7憶2000万元の巨額欠損にある。

同社は、支付宝(アリペイ=決済)、余額宝(MMF)胡麻信用(信用格付)など影響力の大きなサイトを財務面から支えている。さらにアリババの投資戦略の担い手でもある。ユニコーン企業のトップにランクされ、今年の上場も噂されるアント・フィナンシャルだが、内情はどうなっているのだろうか。ニュースサイト「今日頭条」が伝えている。

欠損は戦略的か?

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(画像=AngieYeoh / Shutterstock.com)

損失の主因は、アリババグループの 物流、クラウドコンピューティング、オンライン放送、実体店舗小売業買収などへの支出と思われる。アント側の公式発表と業界への取材から、これは間違いない。

問題は意図せざる部分がなかったかどうかである。巨額の投資を続け、利益率は一年前から25%低下した。

公開資料によると、アントの投資比率は最高の水準にある。直近でも、蘑菇租房(不動産賃貸)佳都数据(ITサービス)哈羅単車(シェアサイクル)に投資した。さらにアリババの95億ドルを費やした餓了麼(フードデリバリー)買収や、ofo(シェアサイクル)への出資にも“参与”している。

さらにアント自身も“海外拡張”に積極的だ。技術を輸出プラス現地化という方式で、すでにインド、パキスタン、バングラデシュ、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシアなどに進出した。

3月には1億8000万ドルでパキスタンの会社を買収し、4月にはバングラのモバイル決済企業と提携している。

当局の締め付け

大規模投資以外には、消費者金融に対する当局の管理強化が影響している。昨年12月の“現金貸”業務の規範整頓の関する通知以来、オンライン消費者金融会社のレバレッジ、資産担保証券(ABS)に関する規制が強化された。

アントは「通知」以前に、ABSを低コストの資金調達源として重宝していた。「通知」以降、利益貢献のルートは狭まった。具体的には2014年から運用開始した小口金融の“花唄”同じく16年開始の無担保信用貸“借唄”の急拡大がストップした。

さらに人気の集中しているMMF・余額宝は、1日の預入限度額を5万元から1万元へ制限される。(6月6日より)資金源は細っている。

それでも企業価値は増加

しかしなぜか財務指標に敏感なはずの資本市場が、アントの巨額欠損に対しては耳をふさいでいる。

アントの企業価値に、一四半期の欠損くらいなら何ら影響はないという評価である。むしろ投資銀行は評価を引き上げている。英国バークレイズ銀行は、アントの企業価値を1060億ドルから1550億ドルと46.2%も引き上げた。また大手証券会社・安信証券は1600億ドルと見積もっている。

バークレイズは過去1年のモバイル決済シーンの多様化を高く評価した。安信証券は支付宝が世界的なプラットフォームになり得ること、支付宝以外にも、収入源の多様化が図られていることを評価している。

支付宝は、新機構の管理下で国家インフラに

アリババ創業者の馬雲は4月末、、アントの幹部2名と北京を訪問し、人民銀行(央行)と会談した。その結果、支付宝は「網聯清算」と提携することで合意し、5月中旬に公告として発表された。

網聯清算とは何か。「非銀行支付機構網絡支付清算平台」つまり、モバイル決済用に、央行の肝いりで作られた“清算”プラットフォームである。アリババ、テンセントもそれぞれ9.61%の株主として名を連ねている。これにより央行は、モバイル決済を把握できるようになる。央行は462の商業銀行と、115のモバイル決済機構すべてを管理下におくことができる。

「もし国家が支付宝を必要とするなら、私は会社ごと国家に提供する。」馬雲は10年前、こう語っていたそうだ。それが今回実現したというわけではないが、重要な国家の金融インフラを確立した功績は大きい。今回の欠損は一過性と見るべきだろう。そのことでいちいち騒ぐような存在ではなくなったのは確かである。(高野悠介、中国貿易アドバイザー)