56〜61歳の米国人の7割以上が負債を抱えていることが、アメリカ経済学会(AEA)の調査で明らかになった。1992〜2010年にかけて、負債額も約5倍増えている。

経済的に余裕のある老後をむかえるためには、「最短で負債を完済し、老後の貯蓄に専念すべき」というのが一般論。何歳までに住宅ローンを含む全ての負債を完済しておくべきか、そもそも家は本当に買った方が賢いのか、といったテーマに対して専門家の見解は分かれているようだ。

75歳以上の自己破産が5倍に?

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(画像=Syda Productions/Shutterstock.com)

AEAの調査によると、負債を抱えている56-61歳の数は急激に深刻化しており、1992年と2010年を比較すると64%も増えている。負債額の中央値も6760ドルから3.3万ドルと、約5倍に値する。

ミシガン大学法学部が1991〜2007年の自己破産の割合を年齢層別に比較した調査では、44歳以下の自己破産率が減少傾向にあるのに対し、それ以上の年齢層の自己破産率は増加傾向にある。特に1991年から2007年にかけて75歳以上の自己破産率は566.7%、65〜74歳は177.8%、55〜64歳は150.8%増加している。

高齢の既婚者の23%、高齢の独身者の47%が、所得の90%以上を社会保障に依存していることも、米社会保障局(SSA)が2017年12月に公表したデータから分かった。

気軽にローンを借りられる環境が高齢者の負債を増やす?

高齢者の負債増加の一因として、2000年代の住宅価格の高騰が挙げられている。

リーマンショック前は現在より少額の頭金で家を購入できた上に、住宅ローンの審査基準も緩かった。クレジットスコアが低く、資産をほとんど所有していない消費者でも、比較的容易にローンを組むことが可能だった。

その結果、より大きく高額な家を購入する消費者が増え、住宅ローンの借入額も膨らんだと、AEAのアナマリア・ルサーディ氏 は指摘している。1992年には2.7万ドルだった56〜61歳の住宅 ローンの借入れ平均値が、2010年には7.4万ドルまで増えた。

クレジットカードやペイデイローン(欧米の消費者金融会社が給料を担保に提供する、短期小口ローン)を利用しやすい環境も、負債を拡大させている。ルサーディ氏は、「利息の計算の仕方もしらないような消費者に、クレジットカードを提供している 」と批判的だ(CNBC2018年6月4日付記事 )。

カナダの著名実業家「すべての負債は45歳までに完済すべき」

定年退職後に資産だけではなく、負債の管理もしなければならない近年、「経済的な問題で定年退職できない」という高齢者が増えているのも不思議ではない。老後の経済的な不安から解放されるためには、どのような準備を整えておけばいいのだろう?

米人気テレビ番組「シャーク・タンク」に出演している、カナダの著名実業家ケヴィン・オレアリー氏は、「45歳までにすべての負債を完済すべき」とアドバイスしている。45歳を「人生の転機となる年齢」と見なしているからだ。

多くの人々が20代前半でキャリアをスタートさせ、60代中盤で定年退職する。中間に当たる45歳になる頃には、キャリアの半分以上を終えている。「残りの約20年間は負債の返済ではなく、老後の資産形成に専念すべき」というのが、オレアリー氏の理論である。

節約術と長期的な投資などを組み合わせ、「貯めながら増やす」ことは安定した老後計画の基本だが、負債を返済しているうちは効率的な資産形成は難しい。金利が高ければ尚更なおさらだ(CNBC2018年5月22日付記事)。

米セルフメイド・ビリオネア「住宅ローンは可能な限り早めに完済」

セルフメイド・ビリオネアのデヴィッド・バッチ氏は、住宅ローンを可能な限り早めに返済することが「早期退職を実現させる秘訣」と、著書『Smart Couples Finish Rich』 で語っている。バッチ氏がモルガン・スタンレーのファイナンシャル・アドバイザーだった頃、50歳で早期退職した顧客は若い頃に住宅ローンを完済させていたという。

返済期間が30年ならば、25年、20年、理想的には15年で完済するように努力する。毎月の返済額を10〜20%増やすだけで返済期間を何年も短くできると、バッチ氏は提案している(CNBC2018年3月19日付記事)。

20〜30代で家を買うのは間違いかもしれない?

家の購入に関しては、専門家の意見が分かれる。米国では家=資産・投資と見なす傾向が強いが、オレアリー氏は、「家の購入がすべての人にとって賢明な資産形成手段ではない 」と示唆している。「家の資産価値が急速に上がる時代は、少なくとも当分の間は終わった」ため、「20〜30代で多額の住宅ローンを借り入れることは賢い選択肢ではない」かもしれない 。

人生は予期せぬことが起きる。 リストラや病気などで突然収入の手段が絶たれた時、あるいは突然大きな出費が生じた時、住宅ローンはたちまち巨大な重しとなって生活にのしかかる。「皆が家を持っているから、住宅ローンを払っているから」という単純な理由に振り回されずに、「自分にとって本当に必要な購入なのか」「長期的に利益をもたらす資産なのか」など、購入は慎重を期して決断すべきだ。

家を買うと決めたら、負債を抱えていても利益にはならない。早めに完済すべきという点はオレアリー氏も同意している。負債を抱えたまま定年退職する、あるいは定年後も負債返済のために働き続けるといった老後をむかえたくなければ、若い頃から準備を整えておくに越したことはない。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)