中国ITの巨頭「テンセント(騰訊)」の株価は、今年1月に付けた最高値から、8月には25%も下落した。1400億ドルの市場価値が吹っ飛んだことになる。2017年を通してテンセントの株価は2倍に上昇したが、その反動による調整局面の可能性がある。

最近、テンセントの投資戦略に関するニュースを「第一財経」「中国網」などのメディアが立て続けに取り上げた。もともと投資戦略には定評のあるテンセントだが、どんな話題を提供しているのだろうか。

投資銀行化

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(画像=HelloRF Zcool / Shutterstock.com)

テンセントは、ここ7年で600社を超える企業に投資を行っている。2018年は7月までに、93社へ1700億元の投資を行った。これはすでに2017年の年間実績に等しい。海外投資は、第一四半期だけで540億元に上った。

もう一方の巨頭、アリババの投資分野は、主管業務を強化する範囲に限られる。このスタイルを堅持しているといってよい。これに対しテンセントの投資分野は、制限を設けず、財務だけの投資プロジェクトも少なくない。この他、30以上の投資信託にも投資し、さらに「経緯中国」「創新工場」など有名な投資機関の創設にも関わっている。

テンセントのスタイルは、明らかに投資銀行化へ向かっている。ただしテンセント自身はこれを否定しており、世論とは食い違いを見せている。

テンセントは、とくに早期投資を重視し、各分野のスタートアップ企業に投資している。しかし、具体的な業務には“参与”しない。口は出さないのだ。そして実際2017年に投資した125社のうち、40%は天使輪またはA輪の時期の企業だった。

(注)天使輪=最も初期
A輪融資=正常に商業モデルとして作動し始めたが、利益はまだ出ていない段階。

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拼多々の上場

中国の経済界では、7月前半はシャオミ(小米)、後半はチンドゥドゥ(拼多々)上場の話題で持ち切りだった。チンドゥドゥは、共同購入を旗印に急成長したネット通販である。わずか設立3年にして、首位・アリババ、2位・ジンドン(京東)に次ぐ、第三勢力にのし上がった。テレビCMにも積極的で、急速に存在感を増している。そのチンドゥドゥが米国ナスダック市場に上場した。

直近の時価総額は250億2500万ドル。テンセントは17%の株主であり、42億5000万ドルを手にした。今回の上場における最大の勝者とされている。

海外投資でも成果

この姿勢は海外投資においても変わらない。昨年、テンセントは「医療映像」で国家AIプロジェクトに入選した。熱心な医療分野の海外投資を行っていたので、入選はその果実ともいえる。

2015年以降、米国11社、インド2社計13の医療関連会社に投資している。そのうち9社は、天使輪またはA輪のスタートアップ企業である。

有名な企業はGrail(米国)社である。独自のDNA配列読み取り技術を持ち、がんの早期発見に効果のある血液検査の開発に取り組んでいる。同社は、アマゾンや電通も出資する注目企業だ。テンセントは2017年3月に9億ドルを出資している。

また同社は、今年中の香港市場IPOを計画中という情報もある。もし実現すれば、再びテンセントの懐に大金が舞い込む。

今年も順調、ピークは4年後?

さらに国内では、投資している9社の上場予定がある。大物はグループ傘下の「テンセント音楽」と、生活総合サービスの「美団点評」だ。前者は300億ドル、後者は600億ドルの市場価値と見積もられている。

2017年11月の段階において、投資資金1000億元を、世界50~100社のユニコーン企業に投資すると表明していた。こうした“テンセント系”企業の上場が、ピークを迎えるのは4年後になるという。

テンセントの2017年決算では、投資収益は全体の38%を占めていた。今後さらに上昇するのは間違い。テンセント本体の株価低迷は、ゲーム部門の比率低下懸念よる調整局面だろう。「投資銀行」としては極めて順風である。内部留保ばかり増える日本企業には、ぜひ参考にしていただきたいものだ。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)

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