銀行と言えば、お金を貸してくれるところ

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(画像=トウシル)

できれば借金をしたくないのが人情ですが、企業の設備投資資金や運転資金にしても、個人の住宅購入やちょっとした買い物にしても、お金が貯まるまで待っていてはタイミングを逃しますし、月々の収支の変動をならすためにはお金を借りる必要も出てくると思います。

一方で、銀行が企業や個人にお金を貸してくれる元手については、どこから来るのでしょうか? 給料が高そうだし潰れそうにないから、銀行自身のお金、と思う方もいらっしゃるかもしれません。

実は、銀行は「借金まみれ」

たとえば、三菱UFJ銀行のバランスシート(2018年3月末)を見ると、貸出金は79兆円もあるのに銀行自身の純資産は10兆円しかありません。企業や個人などから預かっているお金が145兆円あり、それを貸出や有価証券の購入などにあてています。預ける側からすると預金は資産ですが、預かる側からすると「借金」、つまり負債になります。簡単に言えば、銀行業とは借りたお金をまた貸しする商売です。

また貸しと言うと、何だか聞こえが悪いですが、手元にある今すぐには使わないお金(購買力)を銀行を通じて別の人が使うので、今風の言い方をすれば、シェアリングエコノミーとも言えるかもしれません。

単位が兆円となると数字の桁が大きくて、実感がわかないかもしれませんが、日本にはもっと「借金まみれ」の会社があります。中学校の教科書に出てきて、みなさんのお財布にもお札という「借金の証書」が入っている日本銀行です。

日本銀行もふつうの会社と同じです

「銀行の銀行」、「発券銀行」だけあって、日本銀行の負債は巨額。日本銀行券(お札)約100兆円と日本銀行当座預金(日銀が銀行など金融機関から預かっているお金)約400兆円などを合わせて、総額500兆円を超える負債があります。日本の名目GDPが約550兆円ですので、名目GDP(国内総生産)比で9割という巨額の負債です。

お札が負債というのは、違和感があるかもしれません。商品券やポイントカードに貯まっているポイントであれば、お店で商品やサービスと引き換えてもらえますが、お札を日銀に持っていっても、何か別の物に引き換えてくれる訳ではありません(汚れたお札を綺麗なお札に交換してくれますが…)。歴史をたどると、17世紀のイギリスでは、金匠(ゴールドスミス)が金(きん)を預かったことを証明する預かり証を発行し、それが取引に使われるようになりました。

預かり証を金匠に持っていけば金と引き換えてくれるので、紙きれとは言え、金という価値の裏付けがある資産です。預かり証を持っている人にとっては資産、預かり証を発行した金匠にとっては、金と引き換える義務があるので負債。これが銀行券の始まりです。当時は金と交換してくれる兌換紙幣(だかんしへい)、現在では日銀に持ち込んでも別の物とは交換してくれない不換紙幣(ふかんしへい)ですが、今も昔からの名残で負債として扱っています。

日本銀行の当座預金とは

負債の大部分を占める日本銀行当座預金とは、銀行などの金融機関が日本銀行に預けたお金です。お札のように物理的に触れる物ではなく、帳簿にある数字です。主に日本銀行が運営しているネットワーク(日銀ネット)を通じてやり取りされます。また、銀行などがお札を日銀に持ち込むと日本銀行の当座預金が増え、お札を引き出すと日本銀行の当座預金が減るので、普通の銀行と同じような仕組みになっています。この残高が約400兆円あります。金融機関同士の決済や、たとえば、日銀が金融機関から国債を購入すると、国債の代金が日本銀行の当座預金に振り込まれ、現金と並んで「お金」として使われています。

黒田総裁のバズーカ砲は当たった?

日本銀行当座預金は2013年に黒田総裁が就任して以降、異次元緩和と呼ばれる大規模な金融緩和の下で大幅に増加しました。2013年3月末の日本銀行当座預金の残高は約60兆円ですので、5年間で300兆円以上増加した計算になります。 異次元緩和を開始した当初は、2年間「お金」を増やし続ければ、消費者物価上昇率は2%に達する見込みでした。物価が上がると困るという方もいらっしゃると思いますが、物価が下がるという期待が強くなると、今お金を使って物を買うことを控えて、値下がりしてから買おうということになり、消費が冷え込みます。また、企業としても、物が売れないのであれば設備投資を控えるようになり、景気が悪くなります。そうすると、結局、給料やボーナスも減ってしまい、値下がりを待っても、お金がなくて買えなくなるかもしれません。こうした悪循環におちいらないよう、緩やかな物価上昇を目指して思い切って「お金」の量を増やす政策を採りました。

異次元緩和の答えは?

その結果、どうなったかというと、5年経っても物価上昇率は2%に届きませんでした(7月公表のデータでは1%にも届いていません)。無理な目標なのかもしれませんが、日銀と政府が消費者物価上昇率2%を達成するために共同声明を発していることもあり、日銀が勝手に物価目標を変える訳にもいかず、マイナス金利を導入したり、長短金利操作付き量的・質的金融緩和を導入したりと、手を変え、品を変えながら、ズルズルと「お金」の量が増え続けています。

 海外に目を向けると、米国や欧州でも大規模な金融緩和策が採られていたのですが、米国はすでに正常化へと舵を切り、今年に入って0.25%ずつ3回利上げをしており、年内にさらに1回の利上げが見込まれています。欧州でもユーロ圏の中央銀行であるECB(欧州中央銀行)が年内で量的緩和を終えることを発表しています。 日本の金融政策が「周回遅れ」になる中、日本銀行は日本の物価はなぜ上がらないのか検証を進めています。

物価目標2%の正否

そもそも論として、2%の物価目標が正しかったのか。

また、2年間で達成できなかった段階で、日本銀行が想定していなかった経済メカニズムが存在していた訳で、その時点で軌道修正すべきだったのではないかなど、批判され続けています。また、次の景気後退時に金融緩和をする余地(のりしろ)を作るために、景気がある程度回復したら金利を上げておくことが金融政策の標準的なセオリーなのですが、失業率がほぼ下限に至っても金利を上げ損ねています(7月の金融政策決定会合で金利が変動する許容範囲は広がりました)。次の景気後退期に金融緩和の余地がないというのは、懸念される状況です。もっとも、日銀の若田部副総裁は「金融政策に限界はない」と強気の発言をしていますが…

なぜ金利を上げないのか?

足元の物価がたいして上がっていないのに杞憂だと思われるかもしれませんが、日銀当座預金に大量のお金が眠っていると、制御できないインフレにおちいるリスクがあります。地政学的リスクなどで原油価格などが急騰、輸入品の価格を皮切りに思わぬ物価上昇がないとは言い切れません。円安も輸入品の価格の上昇要因です。

その際、利子の付かない日銀当座預金にお金を預けているだけでは、事実上、目減りしてしまうので、銀行などは日銀当座預金を取り崩し、少しでも利子収入を得ようと積極的にお金を貸し出し始めます。世の中に流れるお金が増えればインフレになりますし、何しろ、日銀当座預金の残高は約400兆円と巨額です。理論的には、日銀当座預金に利子を付ける(付利をする)ことで、お金が急に市中に流れ出さないよう閉じ込めることはできますが、現実には、日銀当座預金にどの程度の金利を付ければ良いのか、日本銀行の財務懸念は生じないのか、といった難しい問題が生じることになります。異次元緩和という社会実験の結果、日本銀行は極めて困難な状況に追い込まれているのが現状です。

鈴木 卓実(すずき たくみ)
たくみ総合研究所  代表
2003年、慶應義塾大学総合政策学部卒業。日本銀行にて、産業調査、金融機関モニタリング、統計作成等に従事。2018年、たくみ総合研究所を設立。エコノミスト、睡眠健康指導士として、経済や健康に関する個人指導やセミナー等を通じて情報を発信。

(提供=トウシル

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