日米がすべきこと、すべきでないこと

デニス・ブレア(笹川平和財団米国会長)×前田宏子(政策シンクタンクPHP総研主任研究員)

2012年に習近平政権が発足してから4年が経ったが、それ以前より起こり始めていた中国の対外政策の強硬化は変化することなく、むしろ加速しており、周辺海域や空における中国の拡張政策に対する懸念が広がっている。とはいえ、中国の“サラミ戦略”に現時点で変化が生じているわけではなく、日米や周辺諸国は、地域の平和と安定を維持するための協力を促進しながら、忍耐強く対応していかなければならない。

他方、米国の大統領選で傍流の候補者が勢いを得ていることからも明らかなように、米国国内では内向き姿勢が強まっている。日本は、また日米両国は、不安定化する地域にいかに対応していくべきか。米国太平洋軍司令官や国家情報長官を務めたデニス・ブレア会長兼CEO(笹川平和財団米国)に話をうかがった。

日本がより積極的に果たすべき役割

変える力,日米関係強化
(画像=PHP総研)

前田:お忙しい中、お時間を割いていただきありがとうございます。今日は東アジアの国際情勢、日米同盟、中国の台頭が及ぼす影響、また日米はそれに対してどのように対応すべきかなどについてお話をお伺いしたいと思います。

これまで、ブレア会長のお話をお伺いしたり、また、中国の台頭について書かれたレポートを拝読したりいたしました。今日は、日米中関係についてのお話をお伺いしたいと思います。

まず、最初は非常に些末なことですが、ブレア会長はどうして笹川平和財団米国の会長という職を引き受けられたのでしょうか?それまでも重要なポストを歴任され(注:1999~2002年米国太平洋軍司令官、2009~2010年国家情報長官など)、現在の職に就かれる以前から他の組織でのお仕事もあり、大変お忙しくしていらっしゃったと思うのですが。

ブレア:確かに、3年前、私はとても忙しくしていました。多くの異なる仕事に忙殺されていましたが、その時に、もっとも重要なイシューである日米関係の問題に集中して取り組むことができる職に就くチャンスが回ってきたのです。その時考えたのは、これは一つの問題に集中し、しかも自分の専門性を深めるための良い機会だということでした。それ以前に多くの仕事に携わってはきましたが、一つ一つの問題について、熟慮し、深く理解するための時間というのはなかなか取れなかったのです。そういうときに、日米関係という非常に重要な一つのテーマについて、理解を深め、努力を傾注することができるというのは、自分自身にとっても非常に魅力的に思えました。もちろん、日米関係の重要性について従来から認識していたということもあります。現在のポストについて2年が経ちましたが、この仕事を引き受けてよかったと思っていますし、やりがいを感じています。

前田:実際、ブレア会長が笹川平和財団米国の会長に就任されたのは、財団のみならず、日本の対外広報という点からも幸運だったと思います。ワシントンDCには多くのシンクタンクが存在し、ある種の競争が存在しますが、会長の精力的な活動とその影響力にも助けられ、日米関係や日本の政治外交についてより多くのアメリカ人に知ってもらえるようになったのではないでしょうか。

ブレア:そうですね、これまで比較的順調にやってこられたと思います。私が現職を引き受ける理由の一つでもあったのですが、この数年、日本では国家安全保障の問題を含め、より積極的な方向へ進もうという変化が見られるようになりました。この変化は、安倍首相やその他の人々の努力によって導かれた部分もありますが、より大きな流れの中で起こっています。昔から、日本はよりはっきりと目に見える形で、かつより広い領域で役割を果たしていくべきだと思っていましたので、日本がまさにそのような方向に進みつつあるときに、笹川平和財団米国の仕事ができるのは幸運だと思います。米国太平洋艦隊司令官を務めていたときに、日本ともっと多くのことを協力して行いたかったのですが、日本にまだ準備ができておらず、残念に思っていました。当時、日本は非常に受動的な姿勢だったのですが、それが「ジャパン・イズ・バック」という姿勢が出てきて変化してきており、その中で働けることを嬉しく思います。

前田:米国の国防予算は縮小しつつあります。米国だけではなく、NATO加盟国なども防衛予算は減少する傾向にあり、アメリカ政府はNATOの同盟国に対しては、防衛予算の増加やさらなる防衛努力を要求しています。しかし、日本に対しては、同様の請求を明確に行うということはしていませんね。

ブレア:日本はこの3年、防衛費を増額する方向に転じています。その前十年ほどは削減し続けていました。増加の率は小さいですが、それは適切な政策だと思います。また実際に、アメリカの政策担当者らは、日本が同盟国の中でも独特の戦略にもとづいて政策を実施している国だということを理解しています。資金的援助のことだけを指しているわけではありません。たとえば、ほかに安全保障政策上肯定的な役割を果たしている同盟国として、いま思いつくのはフランスです。フランスはアルカイダ掃討のため軍隊をアフリカに派遣しているほか、多くの分野において積極的な役割を果たそうとしています。アメリカが周囲を見回しても、いま積極的に努力している国はあまり多くなく、日本はその中において、前進しようとしている数少ない国の一つです。ホワイトハウスもそのことは認識しており、それは防衛予算と同じくらい重要なことです。